EP7.人魚ちゃんの名前考えてたら、溺れた!川って怖いね。(1)
馬車での道中、一行は浅く小さい川に差し掛かった。川の深さは決して深くはないが、馬車の車輪を通すには少し困難がある程度の深さのある川であった。
周囲に橋は見当たらない。パズルは、周辺に橋がないか地図を見て確認し、ないのならばここを無理やり渡ってしまおうと考えていた。地図は荷台に積んであるはずだと、パズルは荷台の中を探し始めた。しかし、
「あれ~っ?おっかしいなぁ……地図、全然見当たらないですね……。」
少し探したが、地図が見当たらない。鞄の中に入っているのだろうか、少し探すのには時間がかかりそうに見えた。
その様子を見て、アカシャが提案した。
「時間かかりそうなら、人魚ちゃん川で泳がせてあげてもいいかな?たまには、自然の水に触れさせてあげるのもいいと思うの!」
パズルはそれはいい提案だと思った。川の水は清廉で、少し浅いが、人魚が身体を休めるにはちょうどいいと感じた。
「いいですね!じゃあここらで少し休憩にしましょうか。僕は地図を探してるので、各々休んでてください。」
こうして、思わぬ休息が挟まることとなった。
桶の中身を人魚ごとひっくり返し、川に人魚が放り出される。深さが40センチほどのその川は、人魚がギリギリ全身を浸せる程度の深さしかなかったが、久々の新鮮な水は、人魚にとって心地良さそうだった。
「あー!だーうー!」
「気持ちいい?人魚ちゃん。」
履物を脱いだアカシャも、川の中へと入っていく。桶を運びにその場に来ていて、その様子を見たソーンは、ふと思い出したように言った。
「そういえば、そいつの名前、どうすんだ。そろそろ決めねぇと不便だろ。」
「そうだねー、前から何がいいかなーとか、色々考えてはいたんだけど、どれもしっくり来なくて。」
「なんだ、その子の名前、まだ決まってなかったのか?」
カルロが馬に川の水を飲ませるため、手綱を引いて連れてきていた。カルロは口を挟みがてらこう言う。
「ならば私がつけてあげよう!偉大なる川の主として、そして、偉大なるヴァージニアの名を継ぐものとして、フルーム・ヴァージニアと……」
「却下。」アカシャが辛辣に答えた。
「なんだと!?」
「それほとんど川じゃん!ヴァージニア関係ないし!私情挟まないでよね!」
「ぐぬぬ……ならこれに勝る名を、君がつけてあげたまえ。私は楽器の手入れをしてくる。よく考えるんだぞ。」
「俺も武器の手入れでもするかね……川で溺れんなよ。」
と言って、カルロとソーンは馬車に戻っていった。川には、人魚とアカシャと馬だけが残っていた。
馬はマイペースに川の水を飲んでいる。その様子を眺めつつ、アカシャは人魚の手を取った。
「そうだねー。名前、何がいいかな?」
「そもそもあなたは男の子なの?女の子なの?……わかんないか。」
「……よく見ると、綺麗な鱗。ちゃんと拾われてきてよかったねぇ。」
人魚の鱗は、川に差し込む光を反射し、美しい橙色に輝いていた。尾びれがゆらゆらと優雅に動いたかと思ったら、強く水面を叩きつけ、水飛沫がアカシャの顔にかかった。
「わっ!やったな~!えいっ!」
アカシャも応戦とばかりに、手で水を人魚にかける。人魚も趣旨を理解したのか、手でぱちゃぱちゃと水をアカシャにかけていた。
「あっははは!えいっ!この!」
アカシャは水をかけ合ってはしゃいでいた。川の中を素足で歩き回り、足元への注意を怠っていた。
そして、突然つるりと足を滑らせ、後頭部に強い衝撃が走った。アカシャの意識は、その衝撃でぶつりと途絶えた。
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