EP14.襲撃決行の日。その日のことはもう、思い出したくない。(3)

 ソーンとアカシャが、二つの首を持って洞窟から出て来たのを、洞窟の入り口付近で演奏を続けていたカルロは確認し、楽器を鳴らすのをやめた。

襲撃は成功したようだが、返り血まみれの二人の顔は曇っていた。

カルロは言葉を選びつつ、二人を労った。


「お疲れ様。無事で何よりだ。」


その言葉を聞いて警戒体制が緩んだのか、アカシャが堰を切ったように泣き出した。


「もう!!嫌だよ!!!こんなことするの!!!」


切り落とされた首は、他に掴むところがなく、髪を握りしめる形で持つしかなかった。それがどうしても陵辱するような姿になっていて、アカシャの罪悪感を掻き立てていた。


「こんなことし続けなきゃいけないなら、あたし冒険者やめるよ!なんで魔族同士で争わないといけないの!?」


「これは冒険者とは関係ねぇよ、魔族としての戦いだ。」


取り乱すアカシャとは対象的な、冷徹な声でソーンは言った。


「お前なら、人殺しの伴わない依頼だけ受けて、冒険者続けりゃあいい。お前の腕ならそれもできるだろ。」

「ただ俺は……こいつらの存在は、魔族のためにならないし、魔族が討たなきゃいけない。そう思ったから受けたんだ。」

「付き合わせちまって悪かったな。」


「う、うう、うわーーーーん!!」


アカシャは顔を手で覆って泣いた。握られていた首がゴトリと落ちた。その様子に返り血が服につくのも構わず、カルロはアカシャを抱きしめ、背を摩った。

カルロは人間として、この状況にかける言葉を持っていなかった。ただ魔族が正しさを貫き、沈黙により搾取への抗議を貫いている様を否定することは、カルロにはどうしてもできなかった。しかし、同じ魔族の立場に立つこともまた不可能なことだった。

カルロは心の中で歯噛みしていた。これほどまでに心を折って公正であろうとする者たちが、不当に扱われていいはずがないと、確信していた。

今カルロにできるのは、アカシャを落ち着かせることだけだった。


落ちた首をソーンは拾い、二人に告げる。


「先に戻ってる。お前たちも、落ち着いたら戻ってこい。」


そう告げて、ソーンは洞窟を後にした。

歩みを進めながら、本当にこれで良かったのかと思いを巡らせていた。

義賊の討伐は、人間にとって都合の良いことだ。搾取に抗議する声を打ち消すことだ。本当にそれで良かったのか。これで何か変えることが出来るのかと聞かれたら、きっと何も変わらないだろうというのが、ソーンの見立てだった。

それでも。それでも自分一人でも、正しくあらねばならないのだと、一人自分を納得させていた。

森の中、一つの草を踏む足音と、星の見えぬ夜に輝く月光だけが広がっていた。

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