EP14.襲撃決行の日。その日のことはもう、思い出したくない。(2)

マークスの両手剣の横降りを、ソーンは大鉈で受け止め、そのまま力任せに振りかぶる。

それをマークスはしゃがんで回避し、そのまま踏み込み、ソーンの脇腹に斬撃が入る、と思われた時だった。

剣がソーンの身体に触れるや否や、強い衝撃で剣が弾かれる感覚を覚えた。防護魔法!そうマークスは直感したが、遅かった。剣を握る手が衝撃で麻痺しているのだ。

そのまま赤子の手を捻るように、ソーンは大鉈で両手剣を弾き飛ばした。金属音を立て、マークスの両手剣は遠くへと飛んでいってしまった。


「あっ……!ち、ちくしょう!」


マークスは非常用のナイフを抜き、ソーンの前に向けた。だが、ナイフはとても大鉈に勝てるような刀身ではなかった。マークスも既に敗北を確信し、腰が引けていた。

マークスは震える声で、ソーンに向かって叫んだ。


「なんでっ……!なんで魔族のお前が、俺たちを殺しに来るんだよ!」

「俺たちは魔族の暮らしを良くしようと、頑張ってたんだぞ!なのにっ、なんで!!!」


その言葉に、ソーンは眉を顰めて答えた。


「なんで、か……そりゃあ、普通の魔族ならわかんないことだろうな。」

「俺たちは、蔑まれている。人として扱われず、そのくせ労働力だけは要求される、不当な立場だ。」

「だがな……だからといって、俺たちが不正をしていい理由にはならねぇんだよ。」


ソーンは壁を蹴り飛ばして続けた。


「俺たちは蔑まれているからこそ!善良でいなきゃあいけねぇんだ!」

「犯罪に手を染めるのは、奴らの蔑みをより深めるだけだ!それは結局は、魔族全体の首を絞めることだ!」

「善良で潔白なのは、前提条件なんだ。その前提を守らなきゃ、交渉のテーブルにもつけやしないんだよ。」


「わかったか。てめぇのやったことの罪深さが。わかったら大人しくその首差し出せ。」


「……、う、うわああああーーー!!!」


マークスはヤケクソになって、ナイフをソーンに突き刺そうとしたが、その前にソーンの大鉈が、マークスの首を落とした。

ゴトリと頭部が落ち、マークスの体が膝をついたのを確認すると、ソーンは一つため息を漏らした。


「……思ってたより部下の数が多い。無防備だったところを襲えたのは良いが、想定より多く殺すことになった。」

「……後はジュナか。そっちはアカシャが上手くやってるといいが。」



 ジュナは、小さな体躯を活かして、クローゼットの奥に隠れてやり過ごそうとした。

しかし、ジュナを追っていたアカシャは、ジュナの逃げ込んだその部屋に隠れられる場所が、クローゼットしかないことにすぐさま気づいた。

アカシャはクローゼットに向かって話しかけた。


「いるのはわかってるんだよー?出て来ておいでよ。怖いことしないからさ。」


その言葉が真っ赤な嘘で、アカシャはジュナに対する殺意しかないことを、両者は理解していた。

アカシャはクローゼットの取手に手をかけ、扉を開こうとした。しかし、内側の突起をジュナが手で押さえ、開けようとするのを沮止しようとする。

その様子を見て、アカシャは「仕方ないな」と呟いた。ジュナはそれを聞いて、諦めたのかと内心安堵した。


アカシャはそのクローゼットに、思いっきり刃を突き立てた。

肉を貫く感触、引き抜いた刃についた血、クローゼットから漏れる呻き声が、その場に賞金首がいることを物語っていた。

アカシャはクローゼットを開けた。その扉は今度は難なく開き、中にはジュナが腹を押さえて蹲っていた。


「ごめんね。痛くなくするからね。」


アカシャはそう言って、ジュナの心臓を的確に貫いた。

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