EP14.襲撃決行の日。その日のことはもう、思い出したくない。(1)

 その夜、マークスとジュナの義賊団は、特に買い出しに行くでも襲撃の準備をするでもない、なんてことない夜を、洞窟の中のアジトで過ごしていた。

貧民に施すための義賊団であったが、自分たちの食い扶持もなくてはやっていけない。盗んだ金品のうち約半分近くは、自分たちの懐に入れていた。それらで遠征の資金や武具などを調達し、また次の襲撃を行うという、実態としては盗賊と変わらないものであった。

その夜は虫の声すらも聞こえぬような、静かな夜であった。やることもないし寝るかと、義賊団の一人が目を擦っていると、突如として、楽器の音色が聞こえてきた。

 義賊団は様々な種類の魔族で構成されている。人並み程度の聴力の者であれば微かに聞こえる程度だったが、ワーウルフにははっきりとその旋律の美しさが、ハーフリングには、それが突如として鳴り響いたものであるということに気がついていた。

部下のうちの一人が言う。


「なんだぁ、綺麗な音だな。どっかのお貴族様が、演奏会の練習でもしてんのか?」

「楽器も高く売れるかもしれねぇ、こんなにいい音を出すんだ、相当値がつくぞ。」


外に出て行こうとする二人を、ハーフリングのジュナが止めた。


「あんたたち!軽率に出ていくんじゃないよ、罠かもしれないじゃないか!」

「この辺に貴族の領地があるなんて、アタイは聞いたことないよ!」


それに対して部下二人は、軽薄な笑みを浮かべて返した。


「俺らの討伐に来るような奴らが、楽器なんか持ってるか?何かの理由で通りがかったんだろ。」

「逆に言えば、この機を逃せば帰っちまうかもしれねぇ。襲うなら今のうちだ。」


ジュナは不安だったが、それに反論を返すことができなかった。外に出ていく二人を見送り、自身もその、どこか心地いい演奏に耳を傾けていた。


その演奏は、静かな夜にふさわしいものだった。子守唄のように穏やかで、かつ弦の孤高さも兼ね備えた、音楽の素養がない者でも上質なものだとわかる演奏だった。

ジュナはその音に耳を傾け、先ほどの不安はどこかに行ってしまったのか、微睡むような心地さえ覚えていた。


それ故に、気づけなかったのだ。外に出て行った二人が、外で待ち構えていたアカシャとソーンに、口を塞がれながら殺されたこと。その二人の足音が、走りながらこちらに向かって来ていることを、50メートルほど接近するまで気づけなかった。

土を踏む激しい足音がはっきりと聞こえるようになってから、ジュナはようやく気づいた。


「みんな起きな!!!敵襲だよ!!!!!」



 そこから先は、虐殺と呼ぶに相応しい光景が広がっていた。

大半の者が襲撃の対応に間に合わず、武器を持つ暇もなく殺されていった。なんとか粗末な錆びた武器を持った者もいたが、パズルが強化を付与した大鉈の一振りに、剣ごと両断されていった。

マークスは唯一、こういった事態に備えて、常に両手剣を帯剣していた。部下のほとんどを死体に変えたソーンに対峙し、こう言い放った。


「てめぇ、報奨金目当ての冒険者か?同じ魔族だ、ここまで暴れてくれなきゃあ、金握らせて帰してやろうと思ってたのによぉ。」


殺意のこもった眼差しを向けられ、ソーンも大鉈を構え相対する。


「てめぇらと交渉する余地なんかねぇよ、大人しく死にやがれ。」


数秒の沈黙が流れた後、二人のワーウルフは武器を振り翳した。

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