EP12.ソーンって真面目なんだよね。ああ見えて悪いことにすごく厳しいんだよ。

「俺はここで抜けさせてもらう。」


翌朝、ソーンは仲間たちに向かってそう言った。水鏡川までの護送の報酬を受け取った時点での発言であった。

ソーンは補足するように説明する。


「別にお前らとの旅が嫌だったわけじゃない、金払いもいいし、汚い仕事でもねぇし、良い仕事だったと思ってる。」

「ただ、まとまった金が入ったんでな。そろそろ嫁と子供に構ってやらねぇと、忘れられるかもしれないだろ。」

「また何か縁があったら、よろしく頼むよ。」


そういうことならと、パズル達は快くソーンを送り出すことにした。パズルにはこの後しばらく、水鏡川周辺でのゲート調査という任務に当たらなければならなかったが、水鏡川周辺は人が多く、魔物の襲撃に遭うリスクは少なかった。そのため、パズルはアカシャやカルロも含め、一時パーティを解散することにしたのだった。



 ソーンは妻子の元に帰った。歩いたり馬車を利用したりして、一ヶ月を移動に費やした後、実際に妻子の待つ家に辿り着いたのは、月が高く登る晩のことであった。

家族の匂いが漂う家の扉を、少し緊張した面持ちでノックする。するとすぐに、ドアは開けられ、ソーンの妻のワーウルフが、柔らかい微笑みを浮かべて迎え入れた。


「おかえりなさい、あなた。」


「ああ、ただいま。」


「寒かったでしょう、さ、入って。」


玄関先で軽く抱擁を交わした後、すぐに室内に入り、上着を脱いで、椅子に腰掛けた。


「帰るって手紙が届いてから、いつ帰って来てもいいように、あなたの分のご飯も用意してたのよ。大半は子供たちが平らげちゃったけど。すぐ暖めるわね。」


そう言って妻はキッチンに向かい、鍋を火にかけ始める。その間、子供たちの顔を見てこようと、子供部屋へとソーンは向かった。

子供たちは夜遅いからか、すやすやと寝息を立てて、三人の子供のワーウルフが眠っている。ソーンはその穏やかな寝顔を見て安心し、頭を撫でた後、ふと強烈な違和感に気がついたのだ。

毛布の質がものすごく良いのだ。触れただけでその暖かさがわかり、手触りも極めて良い。おそらく素材は何の変哲もない羊毛だが、織り方と染め方が段違いに良いのだ。特に、目を引くほど鮮やかな紅色をしたその毛布は、決して裕福とは言えないソーンの家には、似つかわしくないものだった。

ソーンはそのことに首を傾げながらも、子供部屋を後にし、妻が暖めてくれた食事の席についた。

久々に妻と交わす談笑は、間違いなく心安らぐものであった。だが、どうしてもあの毛布の不自然さが引っかかり、妻に尋ねてみることにした。


「なぁ、あの子供達が使ってた毛布……ずいぶん質が良さそうだが、誰かからもらったのか?」


妻はそれを世間話かのように、気楽な様子で答えた。


「あああれ、義賊様から貰ったのよ〜!すごく暖かくて、みんな喜んでたわ。」


「義賊……だと……?」


ソーンの額に青筋が走る。義賊からの施しを受けたと聞いて、ソーンの腹の内に、言葉として現れない不快感が渦巻いていた。


「義賊って、どんな奴なんだ?詳しく聞かせてくれ。」


「人間の貴族からお金やものを盗ってきて、貧しい人に分け与えてるんですって。子供たち、毛布がなくて寒がってたから、貰ってきたの。


「…………!」

「……それは明日、返しに行く。」


「えっ……?」


ソーンは、自分の子供達が夜を凍えて過ごしていたことを不甲斐なく思ったが、それ以上に義賊の存在を許すことができなかった。そのため、義賊からの施しを受けることは、盗品を所有し続けることと、ソーンにとっては何ら変わりのないことであった。


「他に義賊から貰ったもんはないだろうな、憲兵に明日返しに行く。」


「でも……子供たちはあの毛布、気に入ってて……」


「そんなの買えばいいだろ!!!」


ソーンは思わず声を荒げてしまった。そのことをすぐに謝ったが、ソーンの中には義賊に対する怒りが渦巻いていた。


「……とにかく、義賊から貰ったもんは、明日全部憲兵に突き出す。毛布は代わりのものを俺が買ってやる。それでいいな。」


妻を無理やり納得させて、その晩は夫婦の間に沈黙が流れたまま、ソーンは眠りについた。

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