EP10.チュリちゃんとのお別れ。あたしは母親にはならないよ。(1)
最寄りの街から馬車で四時間。一行はようやく水鏡川に辿り着いた。交易の要衝であるこの川は、多くの人間、魔族で賑わい、人魚たちが船の交通整理に、忙しなく働いている。
パズルはひとまず陸地に近づいた、人魚の男性に向かって声をかけた。
「あの……すみません。」
「おう!どうかしたか!?」
人魚の男性は警備員の肉体派らしく、大きく元気な声で返事をした。
「渡りの人魚を連れてきたんですけど……引き取ってもらえますか。」
「渡りの人魚……渡りの人魚!?あんたたち、ここまで人魚を連れてきたってのか!?」
「はい……そうです。」
人魚の男性は、桶からチュリが顔を出しているのを見て、パズルの主張が真であることを確認し、驚嘆した。
「ちょっと待ってくれ……事情はわかった。こちらでも引き取り手を探してみるが、なにぶん仕事とは関係ないことなんでね……。」
「昼休みに仲間と掛け合ってみて、夕方までにはなんとか引き取り手を見つけられるようにするから、それまで待ってくれないか。」
「わかりました。引き取り手の件、よろしくお願いします。」
そうパズルが頭を下げたら、人魚の男性は再び交通整理の仕事に戻って行った。
「……と、いうわけで、今日は夕方まで時間を潰すことになりそうです。」
パズルが人魚の警備員との始終を一行に報告する。ソーンがため息をつきながら答えた。
「なんだ、それなら昨日急いでここに来た方が良かったか?」
パズルがそんなソーンを諌める。
「いえ、昨日川まで来ようと思ったら、到着は昼過ぎになったでしょうし、その時にチュリちゃんを見せても、結局今日まで引き取り手は見つからないはずです。あんまり変わらなかったと思いますよ。」
カルロが腕を組みながら問いかける。「そもそも、突然やってきて、渡りの子を預かる余力が人魚たちにあるのか?自分たちの子だけで精一杯なのでは?」
パズルがその疑問に答える。
「人間から見たらそうかもしれませんが、僕らエルフや人魚みたいな、集住している魔族は、ある程度渡りが来ることも慣れていると思うんです。」
「水鏡川は広い川ですし、大型ゲートもそれなりにあります。流石に森からやって来る渡りは想定外かもしれませんが、渡りを受け入れる余力自体はあると思います。おそらく。」
アカシャが問いかける。「じゃあ、チュリちゃんとは、夕暮れになったらお別れってことだよね。」
パズルが答える。「そうなりますね。」
「なんか……寂しくない?あたしはソーンやカルロよりも長い付き合いだし、チュリちゃんには覚えてもらえるかわかんないし、ちょっと寂しいな~。」
「それは……確かに……。なんだかんだ、大事な旅の仲間でしたからね。」
「なら、送迎会ってことで、なんか美味い飯でも食いに行くか。このへんは貿易の要衝だから、人も多い。なんか美味い飯屋くらいあるだろ。」ソーンが珍しく明るい提案をした。
「……!そうだね!最後にいっぱい美味しいもの食べに行こっか!」
アカシャの快活な返事と共に、一行は送別のための美食を求めに行くことにした。
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