EP9.あたしの初恋!!!(3)
グラディアは飲み物で口を潤した後に、続けた。
「私はね、魅了(チャーム)の力が使えるの。私を少しでも好きになった人を、操ることができる。」
「あの踊りは魅了(チャーム)を振り撒いて、確実に夜の相手を得るためのものでもあるの。……でもあなたには、何故か全く魅了(チャーム)が効いていないのよ。」
「なのにあなたは、私に声をかけに来てくれた。それって本当に好きってことじゃない?」
「だから面白くて、つい連れて来ちゃった。だから遠慮しなくていいのよ。」
「そうなの……?」
アカシャはアップルソーダを口にしつつ、グラディアを訝しげな目で見た。グラディアはそれに目を細めつつ、続ける。
「そう。魅了(チャーム)を通さない好意なんて、感じるのは何年ぶりかしらね。」
「だからあなたとお話ししたいと思ったの。だめかしら。」
「ううん、だめじゃないし、あたしもあなたのこと、綺麗だと思ったけど……。」
「あたしのことばっかり話してて、あなたのこと、全然知らないなって……。」
グラディアは瞼を下げ、揚げ菓子をつまみつつ語り始めた。
「別に、私はどこにでもいる魔族の女よ。身寄りがなくて、人に自慢できるようなものも何もなくて……冒険者と踊りでなんとか食い繋いでるだけ。」
「……あたしは、冒険者になって、そういう魔族を見て来たけど……やっぱり、わからないことだらけなんだ。」
「あたしは今まで人間の世界で、人間だと思われて暮らして来たんだって、魔族の仲間といると思うの。『普通の魔族』たちが、どんな常識で暮らしてるのか、人間のことをどう思ってるのか……わからないのが、悔しいの。」
「あたしも少し違えば、そっち側にいたかもしれないのに。あたしだって魔族なんだから、無関係でいるべきじゃないんだって、最近ずっと考えてるの。だけど、面と向かって聞くわけにもいかなくて……。」
アカシャのその言葉を聞いて、グラディアは感心していた。アカシャは「歩み寄りたい」のだと確かに感じていた。けれどそれは、アカシャが魔族側の価値観を共有していないことも、確かに浮き彫りにしていた。
「ごめんね、急に重い話しちゃったかな。」
「……いいえ、すごく大事な話だと思う。けど……。」
「確かに、あなたってほとんど人間なのね。」
グラディアの言葉は突き放すようだった。アカシャはその言葉にショックを受けつつ、グラディアは言葉を続けた。
「でも、あなたは善い人間だわ。無関係でいるべきじゃないなんて、そんなこと言ってくれた人間は今までいなかった。」
「いいわ、知りたいなら教えてあげる。魔族のこと……表側も裏側も。私の知ってることならね。」
それから、アカシャとグラディアは、魔族について色々な話をした。魔族にとって、人間は自身の立場を揺るがす「敵」と見做されることが多いこと、エルフは魔族の中でも特別繁栄している種族のため、彼らの常識は魔族の常識とは少し異なっていること、騎士や貴族、王族といった上流階級は、全て人間によって独占されていることなど……様々なことをアカシャは聞いた。
その中で、グラディアがどこか退廃的な魅力を纏った人物であることにも気がついていた。危険に身を晒しても構わない、しがみつくほどに生きる目的がない……そういった印象を受けた。そのことがアカシャの庇護欲をくすぐったのか、アカシャはグラディアにいっそう惹かれていった。
そう話しているうちに夜は更け、アカシャは眠気に取り憑かれてきた。
その晩は、グラディアが取っている宿の部屋に泊まった。宿に着く頃にはすっかり眠気に支配され、アカシャはダブルベッドに倒れ伏すように眠ってしまった。
グラディアもシャワーを浴びた後、アカシャと同じ寝床に入った。アカシャはグラディアのつけた香水の残り香に包まれながら、深い眠りに落ちて行った。
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