EP9.あたしの初恋!!!(1)

 街にたどり着いたその晩、明日にはチュリを川の人魚に託せるだろうと話がまとまった。しかしその晩は人がたまたま多かったのか、宿泊先がなかなか見つからず、日の暮れた街を歩いているところだった。

 大通りに人集りができていた。人の隙間から、カスタネットの軽快な音が聞こえてくる。様子から察するに、踊り子が踊っているようだ。

「ちょっと見て行っていい?」とアカシャに提案され、歩き疲れた一行は、踊り子の踊りを見物がてら、少し休むことにした。

人混みを掻き分け、踊り子の見える場所に各々が行く。踊り子は、長く美しい黒髪に、褐色の肌の艶めいた、美しい姿をしていた。そして彼女の頭に生えている双角から、彼女が魔族であることは一目でわかった。

紫のベールのような衣装に身を包んでいるが、腹や肩といった部分は露出していて、扇情的な格好だった。その姿の美しい女性が、カスタネットの音に合わせて、妖艶な踊りを踊っていた。肌は少し汗ばんでいて、熱気がこちらまで伝わってくるような気さえした。街灯が踊りに合わせて流れる黒髪を、鮮やかに照らしていた。

「綺麗ですねー。」と言葉にするパズルは、それを口にするだけの余裕があった。カルロは内心少し品がないと思っていたし、ソーンはその扇情的な動きに、目を逸らしていた。

アカシャはと言うと、唾を飲んで踊り子を眺めていた。言葉を失い、彼女に釘付けになっていたのだ。

やがて踊り子の踊りはフィナーレを迎え、踊り子は一礼し、上着を羽織って、それが彼女の踊りの終わりなのだと、観客は理解した。各々小銭を小銭入れに投げたり、彼女に男たちが声をかけたりしていた。アカシャははっとして、このままぼうっとしていたら、彼女に声をかける機会を失ってしまうと思った。男たちを無理やり掻き分けて、アカシャは踊り子に声をかけた。


「あっ、あの!」


踊り子はアカシャの方を見る。長い睫毛に包まれた、アメジストのような瞳がアカシャと目が合った。アカシャはその美しさに思わず怯みつつも、言葉を続ける。


「あの……!とっても、綺麗、でした!」


アカシャが踊り子に発した言葉は、何の変哲もないものだっただろう。しかし、男たちが色目の伴った視線で称賛をする中、一人の少女が純粋に感想を伝えたのが、踊り子の心に響いたのか、踊り子は口角を上げて答えた。


「ありがとう。あなたが今夜、お相手をしてくれるの?」


「お、お相手……!?」


アカシャにはその言葉の意味がよくわからなかった。しかし、側に寄ると、艶めく唇とどこか甘い香りを発する彼女が、アカシャの鼓動を早めていることに気がついた。よくわからないが、彼女とお近づきになれるなら、断る理由はないとアカシャは思った。


「も……もちろん!!?!?」


その上擦った声に踊り子はくすりと笑い、アカシャの手を取って笑った。


「あなた、面白い子ね。いいわ、今夜は一緒に遊びましょう?殿方たち、そういうわけだから、ごめんなさいね。」


そう言って踊り子は、アカシャの手を引いて、夜の街へと連れて行こうとする。アカシャは仲間たちにアイコンタクトで事情を説明しようとした。パズルとカルロは呆気に取られていたが、ソーンは「行ってこい」と手振りで伝え、アカシャはそれに頷いて、踊り子についていった。


「何だったんだ?今のやり取りは。」


事情を理解していないカルロに、ソーンが軽く説明する。


「女好きなんだよ、あいつは。旅の目的も嫁探しにやってるらしい。」


「えっ!?」


カルロは突然のアウティングと、アカシャの旅の動機が思っていたより軽薄だったことに、二重に驚いていた。事態をぼーっと眺めていたパズルも口を挟む。


「アカシャさん、恋に恋してる感じだったのに、男にばかり囲まれてましたからね。そりゃあ……そうなるんでしょうか。」


「さぁな、まぁ恋が実っても痛い目見ても、若ぇんだからどうとでもなるんじゃねぇの。」


ソーンがぶっきらぼうな言葉を返す。とりあえずついて行ってしまったアカシャはどうしようもないので、三人とチュリは改めて宿を探すことにした。

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