EP6.人間と魔族を仲間に入れたら、やっぱり喧嘩し始めた件について(1)

 カルロが加入した翌日。一行は馬車での移動中に首狩り兎の群れに襲われたが、難なく撃退し、倒した兎をどう扱うか議論中であった。

獲物の扱いに慣れているソーンが主導する。


「兎の皮ってそもそも大して高く売れねぇし、この皮は斬撃の跡も残ってて質が悪い。街も遠くて鮮度も持たなくなる。皮と内臓は捨てて、肉だけ食っていこうぜ。」


アカシャとパズルはそれに異論はなかったが、カルロはそれに異を唱えた。


「待ってくれ。食べるのか、魔物を。」


ソーンはそれにめんどくさそうに答えた。


「食えそうな魔物食うことくらい別に普通だろ。新鮮なら魔物の肉は流通してる。街で暮らしてりゃ、知らずに口にしてるだろうよ。」


青い顔をするカルロに対し、パズルが火の支度をしながらフォローする。


「まぁ気持ちはわかりますが……そもそも魔物と野生の動物ってよく交雑してて、区別が難しいんですよ。家畜でもなければまず魔物の血が混じっていると考えた方がいいです。だから気にしちゃダメですよ。」


フォローになっていなかったようだ。カルロは少し口元を押さえた。その様子を見て、ソーンは悪態をついた。


「魔物を食うだなんて、お城育ちの王子サマには卑しくてできねぇってか?」


「なっ……!?馬鹿にするな!遠征中に食事の内容を選ぶほど、私も愚かではない!」


「じゃあ捌いてみろよ、まさかナイフ握ったことないとか言わねぇよな?」


ソーンは血塗れのナイフと、皮を剥がれた兎をカルロに渡そうとする。兎はまだ原型を留めながらも、腹を割かれ内臓がまろび出し、非常にグロテスクだ。

ソーンの意地悪さに、アカシャが思わず口を挟む。


「ちょっとソーン、いじめないでよねー。誰でも捌かれ中の動物が平気なわけじゃないでしょ。」


「冒険者になるなら魔物の死体なんて、見慣れて当然だろ。それが出来ねぇなら引き返すべきだ。」


「そうじゃなくても、一番慣れてる人が解体するのがいいんじゃないの?一番きれいにできるんだからさ。」


「やらなきゃ誰でも覚えねぇよ。やるか?」


ソーンの視線は再びカルロに向けられる。カルロは虚勢を張って答える。


「そこまで言うなら、やってやるさ!このカルロ・フォン・ヴァージニアに、出来ないことなどない!」


そう言って血塗れのナイフを手に取り、兎と向き合って、見よう見まねで胴にナイフを突っ込んだ。

血抜きはもうされてあるので、あとは内臓を除去して肉の形に解体するだけだ。

ひと繋ぎになっている消化器官を切り離し、腹を開いた。しかし、そのあとどこから切り離せばいいのかわからなかった。カルロはとりあえず、上半身と下半身に切り分けようとするが、背骨が上手く切断できずに苦戦している。その様子をソーンは意地悪そうに眺めていた。


「手伝ってあげてくださいよ、彼初めてなんでしょう?」


パズルがソーンに囁くが、ソーンは聞く耳を持たない。


「あんな苦労知らずのお坊ちゃまがついてくるのは、俺は元々反対だったんだ。せいぜい苦労すればいい。」


「気持ちはわかりますが、いじめないでくださいよ。ちゃんともう仲間なんですから。」


刃を無理やり通そうとして、刃が欠けてしまいそうだったので、アカシャがたまらず口を出した。


「関節の節目から切り離すんだよ!そうすれば小さくなるから、骨からも外しやすくなる。」


「そうだったのか。ありがとう。」


アカシャに言われた通り、太ももの間を切り離す。今度は上手く切り離せたようで、カルロにも談笑する余裕が生まれたのか、アカシャに話しかける。


「君も大変だな、こんなメンバーに囲まれては。」


「えっ?どういうこと?」


「ん?彼ら魔族は人間に対して、いつもこんな感じで接してくるのでは?」


カルロのその言葉に、周囲が一瞬で凍りついた。パズルは「マジか……」といった顔をしているし、アカシャはカルロの加入に賛成してしまったがために、完全に立場がなくなっていた。

そしてソーンはと言うと、彼の逆鱗に触れていた。


「……あぁん?今言ったこと、もっぺん言ってみろよ。」


「人間のアカシャにも、いつもこんな対応をしているのだろうと言ったんだ。私は多少雑に扱われる覚悟を決めてここにいるが、彼女に対する狼藉は許し難い!」


「お前マジでさぁ……!」


ソーンにとっては、空回りしているカルロの言動全てが腹立たしいものだった。無意識に魔族を下に見ていることはもちろん、実際は魔族であるアカシャを、人間だと思い込んで庇い立てするのも、彼の中で人間が優位に立っていることを浮き彫りにしていると感じられた。

ソーンはカルロの胸ぐらを掴んだ。


「いい加減にしろよ、仲間ヅラすんならその態度改めろ。」


「なんだ、腹が立ったのか?喧嘩なら受けて立つぞ!」


「ちょっとストーーーップ!」


たまらずアカシャが静止した。アカシャは急いでこう続ける。


「二人が喧嘩したら、どっちが勝つかなんて明らかでしょ!!無駄なことしないの!」


微妙な返しだが、アカシャの言うことは事実であった。体格差も戦闘経験もかけ離れた二人が戦うことは、八つ当たり以外の何物でもないと考えられた。

ソーンはカルロを守る形で静止されたのも腹に据えかねて、カルロから手を乱暴に放し、どこかへと向かおうとしてしまう。


「ちょっと、どこ行くんですかソーンさん!」


「こんな奴と一緒にいられるか!こいつを置いて行かねぇなら、俺は降りる!」


「勝手なこと言わないでくださいよ!待ってくださいってば!」


パズルはそのままソーンについていく。アカシャとカルロは、兎たちと共に取り残されてしまった。

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