EP3.馬車上トーク!ソーンはまだあたしのこと警戒してるみたい。(3)
夕食を終え、すっかり日も落ちた頃。アカシャと人魚は移動で疲れたのか、既に就寝している。パズルとソーンは焚き火の番をしつつ、どちらが見張りをするかを決めるところだった。
ソーンは焚き火に木の枝を焚べつつ言った。
「パズル、日中ずっと御者をして疲れただろう、見張りは俺がやるから、お前は寝てろ。」
「お気遣いありがとうございます、お言葉に甘えて、もう少ししたら横にならせてもらいますね。」
二人の間に火がぱちぱちと音を立てて揺れる。先に口を開いたのは、パズルの方だった。
「僕はフォレストを名乗っている通り、森出身のエルフです。けど、血の繋がった両親がいるわけじゃなくて、森に渡ってきたエルフなんです。」
ソーンは薬草茶を傾けつつ、パズルの話を聞いている。
「お恥ずかしい話ですが、エルフ以外の魔族とはあまり関わったことがなくて……今日二人の話が聞けてよかったです。」
「……俺は何も話してない、アカシャが勝手に喋っただけだ。」
「そうですね、アカシャさんは本当に快活で、きっと本当にのびのび育ったんでしょうね。」
ソーンはアカシャの寝顔に視線をやった後、再び焚き火に視線を戻した。
「……俺が疑り深いのは、人を信用しないのは、魔族だからだと思ってた。魔族は皆そうなって当たり前だと。」
「俺は、ワーウルフの両親がいる。何代目だか知らないが、この世界で生まれた魔族だ。」
「両親は俺と兄弟をろくに育てやしなかった……。ガキの頃は、魔族街でいつも、残飯漁りやスリに明け暮れた。それが魔族だとずっと思ってた。」
「あいつは……そういう意味じゃ魔族じゃねぇ。人の輪の中で、ぬくぬく育ってきた奴を、俺は魔族だとは認めねぇ。」
ソーンの指す「魔族」の定義が一般的なそれとはずれていると、パズルは理解していた。それは「差別される側」という意味を含んでいることを、パズルは否定しなかった。
「……わかります。アカシャさんは肉体的には魔族でも、僕らが脛に負う傷を知ってはいませんから。」
「でも……それでもアカシャさんは、自身を魔族だと言いました。」
「人と魔族が対立する時、少なくとも彼女は、どちらにつくか悩んでくれるのだと思います。あんなに純粋な人を、狭間で苦しめたくはないですが。」
「……そうだな。」
「……俺は、嫌なものを見まくってきた。忘れることはできない。」
「だが、俺の子供たちなら、もしかしたら……少しは歩み寄れるのかもしれないな。」
ソーンの言葉を肯定するかのように、沈黙が流れた。焚き火は段々と弱まり、対話の時間の終わりが近いことを告げていた。
「そろそろ眠りますね、見張りお願いします。おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
パズルは寝袋に入り、横になった。……が、ソーンの先程の言葉が気になって、ふと尋ねてみた。
「……お子さん、いるんですか。」
「ん?ああ、いる。」
「奥様も……?」
「そりゃな。」
「結婚してるの!!?!?!?」
アカシャが寝袋からガバリと起きた。彼女は年頃の、恋に恋する少女の顔をしていた。それを見てパズルとソーンは「うわっ」という言葉が顔に出たような表情になった。
「えーなんでよ早く教えてよー!どんな風に出会ったの?初デートはどこだった?プロポーズする時になんて言ったの!!?!?」
ソーンはパズルに「余計なこと言うからだ」という睨みを利かせた。パズルはばつが悪くなって、いそいそと寝袋にくるまった。
「……妻と子供は遠方の魔族の小さい村にいる。出稼ぎに出てるなんて、別に珍しいことじゃねぇだろ。」
「そうなんだー!で?で?奥さんはどんな人なの?結婚生活ってどんな感じ???」
「うるせぇ!騒ぐと人魚が起きるだろ!起きたんなら見張りしてろ!俺は寝る!」
こうして一悶着ありつつも、お互いに対する理解は深まり、野営の一夜は過ぎていった。
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