EP3.馬車上トーク!ソーンはまだあたしのこと警戒してるみたい。(1)

 ワーウルフの戦士、ソーンを仲間に加え、パズル一行は馬車を借り、水鏡川までの道のりを進む。人魚は水をたっぷりと入れた桶に入れられ、それを馬車の荷台にソーンが積み下ろしをしてくれた。それを軽々と持ち上げることは、アカシャにもパズルにもできなかったため、ソーンの加入は結果的に人魚には必要なことだっただろう。

最も長旅に慣れているパズルが御者を務め、アカシャとソーンは二人で座席に座っていた。しかし、アカシャはどこかゾーンが自分に警戒心を抱いていることに気づいていた。気まずい沈黙が流れる中、アカシャが雰囲気を盛り上げようと話しかける。


「……今日はいい天気だねー!」


「そうだな」


「……ソーンはさ、なんであたしたちのパーティに入ってくれたの?」


「……別に、見てられなかったのと、単純に仕事の切れ目だったから。それだけだ。」


「そうなんだー。……意外と優しい人?」


「んなこたねぇよ。……でもそうだな。」

「臆病なエルフに、赤ん坊の人魚、それと人間をくっつけたら、何が起きるかわかんねぇだろ。」


ソーンは警戒心を露わにそう言った。ソーンの根底には人間が魔族を蔑視しているという強い偏見があった。そのためアカシャが、自分の利益のためにパズルや人魚を利用することは自然なことだと感じていた。しかしその懸念を察することもなく、アカシャはこう答えた。


「え、あたし人間じゃないよ?」


「は?」


「えっ?そうなんですか?」


パズルも馬を見つつ口を挟む。パズルもてっきりアカシャが人間だとばかり思っていた。


「うん。魔族っぽい特徴はないけど、あたしは渡りの魔族なんだって。」


ソーンはその言葉に唖然としている。パズルは特に驚くでもなく質問を続ける。


「へー、そうなんですね。何の種族なんですか?」


「それがねー、よくわかんないんだって。あんまり調べたこともないしわかんない。」


「……じゃあ普通に考えて、ただの人間の捨て子なんじゃないのか?」


ソーンが訝しげに口を挟んだ。アカシャは気にせず答える。


「それも絶対にありえないんだって。なんかー、あたしの身体って、ほんのちょっとだけ魔力を出してるらしいんだよね。それが人間じゃない証拠だってさ。」


「それは魔族として断定する根拠としては、弱いのでは?人間も魔力を発したりはしませんが、気体として存在する魔力を吸い込むと、体内に魔力を帯びますよ。」パズルが反論する。


「そうなの?うーん、じゃあなんでだろ?」


「何か服の下に、特徴とかないんですか?一部でも鱗があったらリザードマンの系譜だと思いますし、今の段階で成長が止まれば、身長が高いだけのハーフリングかもしれないですよ?」


「ハーフリングはねぇよ、あいつらはもっとちびだ。」ソーンが背の丈を示しつつ述べる。


「うーん……あっ、そうだ。」

「あたし、トイレ行ったことほとんどないんだよね。ハイセツ?ってのが他の人は必要なんだって?」


「は?」


「へ?」


ソーンとパズルは、衝撃的な発言に呆気に取られる。マイペースにアカシャは続けた。


「ママ言ってた。『いつまで経ってもオムツを汚さないから心配だった』って。女の子たちと一緒にトイレ行ったことはあるけど、使ったことは一回もないよ!」


「……前言撤回します。それは間違いなく魔族です。」


「……ああ。そうだな、間違いない。」


「それは本当にそもそも生物なのか?」という疑問を二人とも抱いたが、二人とも口には出せなかった。

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