EP2.狼男との出会い。無愛想だけど、きっといい人だよ!(5)

その人影は、大鉈を振り回し、アカシャを人喰い植物の拘束から解き放つ。

獣頭のその人物は、切迫した様子で叫んだ。


「何グズグズしてんだてめぇら!!魔物の前だぞ!!!」


その人物は、桶の持ち主のソーンであった。

解放されたアカシャは、左腕でショートソードを抜き、人喰い植物に対峙する。

その臨戦体制を見て、ソーンはアカシャに告げる。


「人喰い植物は、空気の浸透でこちらの動きを察知する。てめぇは細かい蔓をやれ、俺が本体をぶった斬る。」

「あのエルフは当てにするな、行くぞ。」


ソーンの合図と共に二人は駆け出した。アカシャは、左腕とは言え鋭い剣捌きで、襲いくる蔓を両断していく。

蔓の攻防に隙ができた頃、ソーンが人喰い植物の幹に肉薄した。


「とっとと……くたばりやがれ!」


ソーンが大鉈で人喰い植物を両断する。人喰い植物は、しばらくのたうち回るように蠢いた後、動きを止めた。

パズルが二人に近寄る。


「アカシャさん!大丈夫ですか!あなたも、助けていただいてありがとうございます。」


その様子にソーンは苛立ち、パズルにデコピンをする。そのままパズルを睨みつけた。


「痛っ!」


「今の戦闘は、ほとんどてめーが悪い。」

「まずそこの小娘が、人喰い植物が目でものを見てると思い込んでたのが、欠点の一つだ。圧倒的に知識と経験が足りん。」

「だがそれ以上に、お前の窮地での判断が遅すぎる。いくら魔法が使えようが、あれじゃいない方がマシだ。」

「お前はもう戦前に立つな。お役所仕事でもやってるのがお似合いだ。」


「うぅ……。」


力強くデコピンされた痛みと、正論の棘がパズルに刺さる。それをよそに、アカシャが右腕を抑えながら、ソーンに助ける。


「助けに来てくれて、ほんとにありがと。でも……なんで助けに来てくれたの?」


それに、ソーンはばつが悪そうに答えた。


「お人よしな奴ってのは、大抵実力が伴わねぇって相場が決まってんだよ。まったく。」


ソーンはパズルに向き直って尋ねた。


「桶の話だが、この人喰い植物はほとんど俺がやったようなもんだ。だから果実は俺のものだ。」


「はい……。」


「その上で、お前らは水鏡川まで行くんだろう。」


「ならその道中、護衛として俺を雇え。月100ゴールドだ。それが桶を渡してやる条件だ。」


パズルはぽかんとした顔をした。


「いいん……ですか?」


「お前らだけじゃ、三人纏めて魔物の餌になるのがオチだろう。そうさせるくらいなら、俺が護ってやる。丁度仕事もなかったことだしな。」


「……!ありがとうございます!よろしくお願いします!」


パズルは頭を下げた。それなりに高額を吹っかけたつもりだったソーンは、また居心地の悪そうな顔をした。


「全く、ゲートキーパーってのは懐が暖かいようだな。こちらも助かるが。」

「それ回収したら帰るぞ。人魚の子も腹を空かせてるんじゃないか?」


「そうだね!早く帰ってごはんあげないと!」


アカシャが元気そうに言う。その右腕は脱力したままだった。


「まずはその右腕治しましょうか。骨は折れてないですか?関節嵌めなおすのは、結構痛いと思いますよ。」


「うへぇ……頑張って我慢する……。」


人喰い植物の果実を回収しながら、ソーンは二人の気の抜けたやり取りを聞いていた。警戒心に欠ける二人だが、不思議と側にいて嫌な心地はしなかった。

アカシャが関節を嵌め直した痛みに悲鳴をあげたのを聞きつつ、ソーンは微笑んで名乗った。


「ソーンだ。これからしばらくよろしくな。」


こうして旅の仲間に、頼もしいワーウルフの戦士が加わった。水鏡川までの旅路は、まだ始まったばかりだ。

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