EP2.狼男との出会い。無愛想だけど、きっといい人だよ!

時は少し遡り、アカシャとパズルが朝の支度を終えた頃だった。パズルはアカシャと共に、人魚の容態を見ている。


「うーん……人魚ちゃん、やっぱり少し火傷してますね。」


「火傷?そんな熱いものに触れさせたっけ?」


首を傾げるアカシャに対してパズルは答える。


「魚類や人魚はそうなんですが、僕たち人の体温は、彼らにとっては火傷するほど熱いんですよ。」


人魚に回復魔法をかけて火傷を癒しつつ、パズルは続ける。


「昨日は拾いたてでしたから、仕方なく抱いて運びましたが、あのやり方は火傷をしてしまうので、極力しない方が良さそうです。できれば桶か何かに入れて、水に浸けたまま運ぶのがいいかと。」


「なるほど、おっきい桶が必要なんだね。」


「今日は宿屋の業務用の桶を借りて、そこに置かせてもらいましょう。けど運搬用に、僕たちでも桶を持っておいた方がいいですね。」


そのやり取りの後、人魚を宿屋に預け、二人は桶屋に向かう。けれどそこには望みの品は置いていなかった。

「売り切れ!?」アカシャが驚嘆の声を上げる。


「ああ、悪いがそのサイズの桶は業務用でね、今在庫切らしてるし、基本的に個人に売るものじゃねぇんだ。」桶職人が答える。

「お金なら払います、いつまでに出来そうですか?」パズルが問いかけるが、桶職人はぶっきらぼうに答えた。


「あいにく、そのサイズの桶を作れる材木を切らしててね……二週間はかかるだろうね。」


「そうですか……失礼ですが、他の桶屋さんは、どこに……」パズルがおずおずと尋ねる。

「悪いね、この街の桶屋はうちだけだよ。」と桶職人は答えた。



「桶ってあんまり売ってないんだね……」

桶屋を後にした二人は、肩を落として歩いていた。


「そうですね……二週間もこの街に滞在するわけにもいかないですし、宿屋に頼み込んで、桶を譲ってもらうしか……。」


「ん、待って。あの人、すごいちょうどいい桶持ってるよ!」


思案するパズルをよそに、アカシャは桶の方に駆け出していく。


「おじさんおじさん!そこのワーウルフのおじさん!」


「ちょっと、アカシャさん!?」


そして時系列は今に戻る。ソーンは二人の事情はわからないが、二人が何故かこの巨大な桶を必要としていることは直感していた。


「あ……?なんだ小娘、この桶が欲しいのか?」


「そうなの!今どうしても、急ぎで必要なの!」


ソーンにとってこの桶は要らないものだった。しかし、曲がりなりにも報酬として手に入れたものであるため、何かしら価値のあるものと引き換えにしようと策略していた。


「俺だって苦労してこいつを手に入れたんだ、ただで譲るわけにはいかねぇなぁ?」


「突然すみません。ですが、お金なら支払います、どうかそれを譲ってくれませんか。」


パズルが財布を取り出そうとすると、ソーンは止めた。


「おっと、何でも金で買えると思っちゃいけねぇよ。あんたら冒険者だろ?なら、もっと価値があるものと交換でなきゃあな。」


「もっと価値があるもの……とは?」


「価値があるものって言ったら、アレだよ。えー……」


ソーンは即興で吹っかけるのに慣れていないため口篭ったが、思いついたままに口に出してみた。


「そう、魔法石だよ!最近街エルフの連中が高値で買い取ってくれるだろ。あれなら冒険者は取りに行けるし、いいんじゃないか?」


それを聞いてパズルは、訝しげな顔をした。


「……魔法石がどこから来るのか、ご存知ですか。」


「え、いやぁ、そりゃ……金属みたいに鉱床から採れるんじゃないのか?」


「違います。あれもゲートから沸いてくるものです。」

「そしてこの辺りに、魔法石が沸くゲートがあると言った報告はされていません。魔法石を取ってくるのは、厳しいかと。やはり現金で解決してもらえないでしょうか……。」


「ならそのゲートを見つけてくればいいだろ!御託はいいからさっさと行けよ!」


パズルは困惑しつつ、追い返されてしまったので、一旦ソーンと別れ、街の外に出ることにした。

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