EP2.狼男との出会い。無愛想だけど、きっといい人だよ!(1)

「はぁ!?どういうことだ!?」


大柄なワーウルフの男性、ソーンは人間のおやじに対して声を荒げた。それに対して人間のおやじは、高い頭の位置から発せられる低い声に怯えることもなく、飄々と返す。


「さっきも言っただろう、君が納品した暴れ熊の毛皮は、傷があって状態が悪い。これじゃあ本来の報酬は出せないね。」


「傷なんてなかったはずだ!皮が傷つかないよう一撃で仕留めたし、剥ぐ時だってちゃんと確認した!」


事実はソーンの言う通り、毛皮に傷はなく、完璧な状態で納品されている。だがこの依頼主のおやじは、ソーンに適切な報酬を支払う気がないのだ。


「そうは言ってもねぇ、あったものはあったんだから。君が見逃したんじゃないの?」


「このクソ野郎!俺が魔族だからってそんな言いがかりが通用すると思ってんのか!?」


ソーンは牙を剥き出しにし、唸り声をあげる。だがそれにも人間のおやじは動じることはなかった。


「おお怖い怖い、これだから魔族は野蛮って言われるんだ。」

「この人通りの多い場所で、俺に傷一つつけてみろ。憲兵がたちまちお前を八つ裂きにするぞ。」


おやじの言う通り、このやり取りは大通りで起きており、通行人が訝しげにこちらを見ている。事を荒立てれば、通報されるのは確かな事だった。

憲兵は魔族を守らない。それはソーンがこれまで生きてきた中で、確実にそうだと言える経験知の一つだった。


「まぁそんなに不満なら、代わりにこれをやるよ、ほれ!」


そう言っておやじは、直径と深さが一メートルはありそうな、巨大な木の桶を差し出した。


「なんだぁ?コレは。」


「見りゃ分かるだろ、桶だよ。流れで手に入れたんだが、なにぶんこのデカさじゃ使い道がなくてね……ま、何かの役には立つだろう。」

「じゃあそういうことで、俺は失礼するよ。次はいい仕事をしてくれることを期待してるよ。」


「二度とテメーの依頼なんか受けねーよ、クソ野郎!」


ソーンは去っていくおやじの背に向けて中指を立てた。ソーンは腹を立てていたが、魔族に対して人間が足元を見ることなど、日常茶飯事であった。ソーンはため息をついて桶に向き合った。


「クソッ、足元見るだけじゃなくてガラクタまで押し付けやがって、あのクソ野郎……。」


報酬を下げられた挙句、不要品までも押し付けられて、ソーンは内心途方に暮れていた。このクソでかい桶をどう扱うべきか、どう考えても使い道がないな……などと考えていると、少女の甲高い声が耳に入った。


「おじさんおじさん、そこのワーウルフのおじさん!」


声の方を振り向くと、赤髪の少女が、切迫した様子でこちらを見ていた。


「おじさんお願い!その桶、譲ってくれない?どうしても必要なの!」


「……はぁ?」

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