EP1.花嫁を探す少女(4)
街に到着するや否や、パズルは公衆電話に立ち寄りたいと提案し、アカシャは同意した。人魚の身体を適度に濡らしつつ、パズルは公衆電話で電話をかける。
「すみません、ゲートキーパーの本部に繋いでもらえますか。」
この世界では電話線は、電話交換手が手動で繋ぐ。そのため「電話で話す内容は、電話交換手に聞かれても良いものに限定する」という暗黙のルールがあった。
「もしもし、ゲートキーパーのジョーシですが。」
「もしもし、こちらゲートキーパーのパズルです。トアル村周辺の大規模ゲートの閉鎖が無事完了しました。」
「ご苦労。しかし、電話をかけて来るとは、何かトラブルでも?ただのゲートの閉鎖で終わったなら、報告書による事後報告でも構わないと伝えてあるはずだが。」
「それがですね、ゲートは問題なかったんですが、ゲートから人魚の赤ちゃんが渡ってきちゃったみたいで……。見殺しにするわけにもいかないので、どうしたものかと。」
「ふむ……その人魚は淡水のものか?」
「淡水だと思われます。」
「わかった。魔族を保護するのも我々ゲートキーパーの勤めだ。君に次に頼む任務として、水鏡川(みかがみがわ)周辺のゲートの調査を命ずる。」
「水鏡川は最も人魚の住みやすい大河と呼ばれている。そこまで送り届ければ、その渡りの人魚も人魚の群れに合流できるだろう。任務のついでにその人魚も護送するように。」
「了解しました。配慮に感謝します。」
「うむ、では、次の旅の無事を祈る。」
その言葉を最後に通話を終了した。
パズルはアカシャに通話の内容をざっと伝える。
「じゃあ、パズルの次の目的地は、水鏡川なんだね!結構長旅じゃない?」
「そうですね、ここは結構内陸の方ですし、しばらくかかりそうで……へくちっ!」
パズルがくしゃみをする。先程から濡らした人魚を抱えて歩いていたため、二人とも服がびしょ濡れだ。
「やはり人魚護送は一筋縄じゃいかなさそうですね……ですが、街まで辿り着けましたし、アカシャさんはここまでで大丈夫ですよ。」
「えーっ!もう乗り掛かった船だよこんなの!あたしもこうなったら水鏡川までついていくよ!……へっぷし!」
「ああ……そうですね、そう言うと思ってましたが、そういう時は、まず交渉からするものですよ。」
「交渉?」
「はい。」
「冒険者アカシャさん、あなたに水鏡川までの護衛を依頼します。」
「報酬はこのくらいで……、この依頼、受けてくれますか?」
「うん!いいよ!」
冒険者にとって最も重要な、報酬の交渉を一切せずに、依頼が成立してしまった。アカシャの純粋さをパズルは不安に思いつつ、この先の護衛も見つかったことに安堵していた。
「じゃあとりあえず、宿でも取りましょうか。着替えないと風邪をひいてしまいます。」
「さんせーい!この子もちゃんと水のあるところに入れてあげないとね!」
こうして二人の、人魚を送り届ける旅が始まった。
この出会いが、アカシャにとっての運命の分岐点だったことは、まだ誰も知る由はなし。
次の更新予定
異世界花嫁修行 人と魔族が手を取り合うために @goboomaru
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