EP1.花嫁を探す少女(3)
「ゲートはおそらく近くにあります。魔物も出ましたし、そう遠くはないでしょう。」
そう言って、パズルは呪文を唱え、杖を振った。すると、空中に無数の、10cmにも満たない小さな円形の穴が現れる。パズルの呪文で、周囲にあるゲートを可視化したものだ。
「すごーい!これ全部ゲートなの?」
「はい。見ての通り、ゲートは僕たちの生きている空間に、普通に存在しています。」
「触れても何も起きませんから、実感ないですけどね。」
「ここから魔力が出てるんだね~」
アカシャは関心ありげにゲートに指を通す。パズルの言葉通り、触れても何かが起きることはなく、可視化されたゲートを指が貫くだけだった。
「あのサイズの魔物がやってくるゲートとなると、直径2mはありそうです。となると、このあたりにはなさそうですね、移動しましょう。」
「あ、じゃああたし先頭歩くね!どっち行ったらいいか教えて!」
アカシャを先頭にし、パズルが道を示す。特にあてがあるわけではないが、先ほどの魔法の可視化範囲から外れるように移動した。
移動中、パズルはアカシャに問いかける。
「アカシャさんは、なんでここにいるんですか?」
「森でしか取れない薬草の採取の依頼があってね、簡単そうだから受けてきたの!それはもう採ったから気にしなくていいよ~」
「いや、そうではなくて。アカシャさん、冒険者ですよね?何か冒険者になる事情があったんですか?」
冒険者は、基本的にはなんでも屋だ。薬草の採取、猫探し、魔物討伐などの任務をこなして生計を立てている者たちの総称だ。
ただ、危険も伴う仕事故に、人間で冒険者になる者は少なく、アカシャには魔族らしい特徴は見られず、整った身なりから、脛に傷があるような者にも見えなかった。
「ああ、答えたくない事情なら、答えなくても構いませんけど。」
「別にー?そんな重たい理由じゃないよ。」
「あたし、お嫁さんが欲しいの!」
「……はぁ?」
パズルは思わず驚嘆の返事を返してしまった。突然の同性愛者カミングアウトはパズルにとってどうでもいいことだったが、それと冒険者の話がどう繋がるのかわからなかった。
それを意にも介さずアカシャは続けた。
「あたしね、ちっちゃい頃から、最高のお嫁さんになって、最高のお嫁さんと結婚したいの!だからね、お嫁さんを守ってあげるために、強くなりたいの!」
「だから冒険者してるのは、花嫁修行ってわけ!」
「はぁ……」
呆れた声を出したが、一応筋は通っているな、とパズルは感じた。まぁ確かに女性同士で結婚するなら、片方の女性が肉体的に強いことは何かと役に立つ……気がした。
そう話していると、先程のゲート可視化魔法の範囲外へと出る。パズルが再びゲート可視化魔法を使うと、二人の目の前に巨大なゲートが出現した。
「わっ……!おっきい!」
「魔物が出現したゲートは、これで間違いなさそうですね。」
「僕はゲートを閉じます。その間、この子と周囲の警戒をよろしくお願いします。」
パズルはそう告げ、人魚の赤子をアカシャに渡した。杖をゲート周辺の地面に突き刺し、呪文を唱え始めた。
「クローズド・レクタ・ポータ」
呪文の詠唱が終わると、ゲートは僅かに揺れ始め、一瞬のうちに消滅した。
「ゲートの閉鎖、確認しました。これで僕の仕事は終わりです。街に戻りましょう。」
アカシャは頷き、三人は街へと帰還することにした。
「と、その前に……この子の体を一旦濡らした方がいいですね。人魚は体の乾燥に弱い生きものですから。」
「一旦地面に置いてあげてください、杖から水を生成してかけます。」
指示通り、アカシャは人魚を地面に置く。その頭上にパズルは杖をかざし、呪文を唱え、杖の先端から水が湧き出す。
水を被った人魚の子供は、キャッキャッと嬉しそうだ。
「今は真水を出したんですけど、これで問題なさそうということは、この子は淡水に住むタイプの人魚ですね。海水じゃなくてよかったです。」
「カイスイってなーに?」アカシャが尋ねる。
パズルは服が濡れるのも構わずに、体を濡らした人魚を再び抱き抱えた。街への道を歩みながら、パズルは質問に答える。
「この世界の端っこの方には、海があるんですよ。そこの水は濃い塩水なんです。そこで生きる人魚たちは海水……海の水じゃないといけないので、海水の人魚じゃなくて良かったという話です。」
「へー、パズルは海行ったことあるの?」
「はい、仕事で何度か。水平線が見れて綺麗ですよ。」
「えー!いいなぁ!あたしもいつか行きたいなぁ」
そのような談笑をしつつ、二人は街への道のりを共にした。
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