第29話 冒頭にウインがバノに話したことは?

バノ「本編第29話で私が五人に出会ったタイミングなら話していいかな。第1話冒頭でウインがどんなふうに話したかを開陳しよう」

トキト「それも作者メモだよな」

バノ「そうなるね。本編とかなり近いが、もうひとつのお話ということで、べつものと思ってほしい」

アスミチ「ドンキー・タンディリーが乗り物になってダッハ荒野を旅している途中での会話ってことなんだよね。それって第100話以降になるんでしょ?」

ウイン「そうなるよね。シルミラ・クエストの前後で時間があるから一通り話す、みたいなことを言うことになっているみたい」

ハートタマ「んじゃ、そんときオイラがみんなに思念で会話を伝えてもいいかい?」

ウイン「うん、いいよ」

カヒ「わたしたちは、操縦席にいて、甲板のうえにバノとウインが並んで腰掛けているっていう状況なんだよね」

バノ「そうなるね」

パルミ「本編でもこれに近い会話があったはず、みたいな感じなのん?」

バノ「まったく同じ会話があったとすると矛盾する部分もあろうから、あくまで参考までに、だね」


 ※    ※    ※ 


 ダッハ荒野は、地球で言うと日本列島ほどもある大きな平野です。そのほとんどが荒れた土地で、乾いており、丈の短い草で覆われた点々とあるばかり。水がある場所はわずかで、小さな湧き水には動物が集まります。オアシスなど大きな湧き水には人々が開拓民として住み着いています。

 開拓民の集落のほかに、遊牧民グーグー族というのがいて、ダッハ荒野をめぐり歩く旅をして暮らしています。

 あまり人がいないかわりに、おかしな生き物がたくさん生息しています。

 ウインたち六人の子どもたちは、人間の大きさのある巨大アリの大群、切り裂く翼を持つヒカリヤミドリの群れ、ファンタジー小説から抜け出してきたようなダッハ・ゴブリン、巨大バッタ、そして謎の敵の甲冑ゴーレムなどと出会うことになりますが、このときはまだ、その未来を知りません。

 ウインはまず最初に、バノに、自分たちを紹介することにします。バノという十五歳の少女は、は、わずか数日前にあとから合流したからでした。

ウイン「ほかの四人のことを話しておくね」

バノ「頼むよ」

 ウインとバノの足の下では、平たい形になった巨大ロボット、ドンキー・タンディリーが、みんなを乗せて静かに荒野を走行しています。

バノ「ウインたち五人はそもそも地球から近世界に来る前から、顔見知りだったんだな?」

ウイン「そうだよ。私たち五人は、全員が同じ学校の児童なんだ。登校班といって、朝、登校するときに集まって一緒に学校まで行動するグループだったの」

バノ「登校班か。私も地球にいた頃には登校班に所属していたんだろうか。そのへん、記憶が失われてしまったようなんだ」

 荒野を見つめるバノの目に、寂しさの色がが、絵筆のひとはけ分ほど宿ります。

ウイン「そっか。前に言ってたね、異世界わたりをすると少し異常が起こることがあって、バノちゃんは思い出せないことが多いって。私だけこっちの世界に来てから足がうまく動かなくなったのと近い変化だって」

 ウインは動かないほうの右足をぶらぶらさせました。「今は、バノちゃんに治してもらっているけど」とやわらかい声で言いました。

バノ「私の記憶も、ウインたちと一緒に過ごすことで回復するかもしれないさ。だから改めてウインが丁寧に説明してくれて助かるよ。この調子で、頼めるかな?」

ウイン「もちろんだよ」

バノ「ウイン、君と、そして同い年のトキトからになるのかな?」

ウイン「そうだね。トキトと私は、どっちも小学六年生の十一歳。幼馴染で同級生。私はインドア派で読書好き」

バノ「小学生ながら、『ホビット』や『指輪物語』をすでに読んでいる」

ウイン「ファンタジー小説は、すごく好きなんだ。だから正直言って異世界にわくわくしている部分もある。もちろん、家に帰れないのはつらいし寂しいけど」

バノ「君が異世界にわくわくする子でよかったよ。ほかの子どもたちも、地球に帰りたいと願っているが、同時にこの世界に適応しようとしているのが、心強い」

ウイン「バノちゃんだって、そうでしょ。二年間、地球を離れて過ごしてきたんだから」

バノ「仕事してたから、あっというまの二年間だったさ」

ウイン「私たちもバノちゃんと過ごしていたらあっというまに時間が過ぎる気がする」

バノ「私も君たちと一緒だと飽きないだろうという気がするよ。その君たちの話を続けよう」

ウイン「トキトは運動ができて体を動かすのが好き。休日にはいつもの山を走り回って虫や小動物を追いかけていたよ。私は小さいころには一緒に走り回ったこともあったけど、ここ何年かはぜんぜん」

バノ「ウインの場合は、本を読んで物語の世界を走り回っていたっていう感じじゃないの?」

ウイン「あはは。そうなるね」

バノ「年下組については、どうかな?」

ウイン「年下組、バノちゃんとトキトと私の三人が年上組になるわけか。なるほどそうだね。年下組の三人の話をするね。本殿パルミは十歳で小学五年生。ファッション好きの女の子で、すごく美人だけど男子が嫌いな子」

バノ「たしかに、パルミは女性から見てもはっとする見目形を持っている。男子からも人気がありそうだが、男子嫌いなんだな」

ウイン「ほら、男子は気になる女子にわざと嫌なことを言ったりするじゃない? そのせいだと私は思ってる」

バノ「トキトやアスミチには、そういうところがなさそうだけど?」

ウイン「うん。登校班の男子がトキトとアスミチの二人でよかったよ。あの二人は二人で、女子を女子と思っていない鈍感なところがある気もするけど」

バノ「それは、それはほんとうにそうだな!」

 トキトあるいはアスミチに関する嫌なエピソードを思い出したらしく、バノはこぶしを握りしめて力強く言いました。

ウイン「最後に小学四年生の二人。甲野アスミチは物知りでとくに生き物に詳しいみたい。加藤カヒは不思議な感じのする子なんだ」

バノ「アスミチの頭脳は頼りになるとひそかに私も期待している。カヒはポンコツロボ、ドンキー・タンディリーの声を聞くのもうまいように見える」

ウイン「カヒについては、そうだよ。地球にいた頃も不思議な子っていう感じがした。なにがどうと具体的には、言うことはできないんだけど」

バノ「わかる気がする」

ウイン「カヒは口数が少ないけど、しっかり者でもあるんだよ。トキトとアスミチが、生き物好きっていう共通点があってさ。学校に向かう道すがら虫やトカゲを見つけて大騒ぎすることがあったりするんだ。朝、そんなことしてたら学校に遅刻しちゃうでしょ? それをカヒが注意してくれたりして、いちばん年下なのにお姉さんっぽいかも」

バノ「なるほど。五人は学校に登校するときに同じ班だったのだな。今の話だと友達と言ってもいいかな? 放課後に一緒に遊んだりすることもあったのかい?」 

ウイン「五人で約束して集まって遊ぶっていうことはなかったな。でも、学校の帰り道で見かければ声をかけるし、一緒にしゃべりながら帰ることはふつうだったよ」 

バノ「なるほど。おもに登下校の同伴者としてのつきあいだったのだな」 

ウイン「うん。この異世界に飛ばされた事件も、下校のときだったしね。あとでその話もするからね」 

バノ「ああ、そうしてくれると助かる。来た方法がわかれば帰る方法の手がかりが得られるかもしれないからな。じゃあ、その五人がこの荒野のオアシスに『落ちたきた』という話をしてもらおう」 

ウイン「そうだね。その話を先にするよ。えっと、たぶんこの世界にベルサームという国があると思うんだけど」 

バノ「ベルサーム国はここから東、国を二つと、大きな湖を一つ挟んだむこうにある軍事大国だ」 

ウイン「軍事大国かー。私たちがいた国がそのベルサーム国で間違いなさそう。そこで二日間いろいろあって、新兵器を奪って逃げてきたんだよ」 

バノ「え? か、簡単に言ったね。軍事大国で新兵器を奪って、逃げてきたって?」 

ウイン「うん。その話もあとでするから」 

バノ「ぜひ頼む」 

ウイン「新兵器は、ここまでゲートを通って飛ばされてくるときに、だいぶ壊れちゃったの。もとは人間に似た形をしたロボットだったんだ。私たちが脱出のために乗り込んだ胴体を残して、手足とかは途中で折れて飛んでいっちゃった」 バノ「そ、それもすごいな。よく君たちは無事、生きてここにいられるな」 

ウイン「それそれ! ほんとよく無事だったよ。地面からだいぶ離れた上空にゲートが空いてね。学校の屋上よりも高い位置で、そこからすごいスピードで、まるでグライダーで滑空するみたいぎゅうーん、びゅうーんってすごい速さで横っ飛びに飛ばされてきちゃって」 

バノ「それ、命の危機なんだが……今、ウインがこうして普通に生きていることが信じられないよ」 

ウイン「私たち中ですごく慌てちゃってね。操縦桿とかボタンとかを押しても、なにも解決しなくて」 

バノ「壊れちゃっている上に、吹き飛ばされている状態だからな……」 

ウイン「そうなの。もうお手上げかと思ったらカヒが操縦席の上にもレバーがついているのを見つけてね」 

バノ「ふむふむ」 

ウイン「私とトキトは操縦桿やペダルを必死にがちゃがちゃしていたから、カヒと、パルミとアスミチが協力してレバーを引いてくれた」 

バノ「おお、三人でレバーを引くことができたんだ」 

ウイン「そう、レバーは動いた。そしたらとんでもない状況になっちゃったんだよ」 

バノ「とんでもない状況?」 

ウイン「ロボットの胴体の、前半分が開いちゃったんだ。ぱっかーん、と」 

バノ「上空数十メートルを吹っ飛びながら、操縦席の全面が開いちゃったのか!」 

ウイン「そうなの! 高速道路をオープンカーで走ったらあんな感じなのかな。風の音と風圧で、髪の毛や服が持っていかれそうで、落ちたら最期だし、とんでもない状況でしょう?」 

バノ「とんでもない状況だよ。ますます、どうやって助かったのか知りたい。魔法でも使ったのか?」 

ウイン「魔法なんて使えるわけじゃないでしょ、私たちうつうの地球人だよ? 一緒に操縦桿を握っていたトキトが叫んだの」 

バノ「おお、トキトが」 

ウイン「風の音でよく聞き取れなかったけど、◯◯が見えた、飛び降りるぞ、って」 

バノ「学校の屋上より高いところから飛び降りるって言ったのか」 

ウイン「そうだよー。突然どうしたの、って思うでしょ、聞き返そうとしたら、今すぐじゃなきゃ間に合わない、ウインは一人抱えてくれ、俺が二人抱えていく、って耳元で大声で」 

バノ「何が見えたんだろうな」 

ウイン「時間がない、今だ、って言われて、私はわけがわからないまま、近くにいたアスミチを抱えて、トキトはカヒと、怖がっているパルミをついでに抱えて、だーんと蹴って飛び降りたんだ。私はほとんどトキトに押されて、落とされたというのに近いよ」


 ※    ※    ※ 


トキト「あんまり違和感はねえけど、ベルサームの話を今さらしているってのは矛盾だよな」

パルミ「本編だとトキトっちがそこんとこを警戒しすぎてバノっちとギスギスしたもんね」

バノ「仕方がないさ。初対面の人間を警戒するのは当然だよ」

アスミチ「でもおかげで雨降って地固まる、になったと思う。トキトが警戒してバノがなんでも話してくれたからだ」

カヒ「そうだよね」

ウイン「こうして見ると、最初のところってメモからはじまって、何度も同じ内容を書いては保存して、またべつに書いて……ってくり返していたんだね」

バノ「きっといちばんモチベーションが保てる形を見つけるという意味もあるんだろう。おかげで無事に、ホサラオアシスでの出会いと戦いとが毎日公開で進み、完結されそうだ」

アスミチ「リアル時間だと、この会話のところで第50話くらいの進行なんだよね」

トキト「……」

カヒ「トキト?」

トキト「ん、ああ、ちょっと本編での緊張が伝わってきてた」

パルミ「おやおや、トキトっちや、金属棒はもったかえ? なくすんじゃないよ」

トキト「持ったぜ、パルミばーさん」

パルミ「ひゃっひゃっひゃ、元気で本編にいってきなしゃれ」

ウイン「パルミのそれ、何歳の設定なの?」

パルミ「うにゃっ、考えてなかったけど、百歳くらい?」

アスミチ「先祖の亡霊のときは、話し方はパルミのままだったのに(※数時間前に第49話『ばのじゅく』公開)、たった百年でそんな話し方に……」

パルミ「おりょん? 考えてみたらおっかしーじゃん。あたしたぶん百歳になってもこーゆー話し方してそうじゃんね。ねえ、トキトっちや、ひゃひゃひゃ」

トキト「なんで俺と話すときだけ妖怪ばーさんになるんだよ」

バノ「ところで、次あたりの『バンジー・ノンビリー・ジュークボックス』は、私は欠席する予定だよ」

カヒ「え、バノも本編でなにかいそがしかったりするの?」

バノ「いや、本編でまだ会ってない人物が招聘しょうへいされるかもしれないからね。もし彼女がきたら、私はそこでは姿を見せないでおくよ」

アスミチ「彼女、ってことは女性だ」

バノ「たぶん、ラダパスホルンまたはベルサームの地理か人物を紹介してもらうことになるんじゃないかな、決まってないけど」

カヒ「万事のんびり、だもんね、この空間では」

ウイン「そういうことだね、カヒ。じゃあバノちゃんの代わりにくるっていう人としっかり一話を進めておくよ。安心して」

バノ「うん。君たちも顔見知りだから、問題なかろうよ。かならず次回でというわけではないし、ずっとあとになるかもしれないけど、そこは」

トキト「万事のんびり、だな」


(つづく)

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