第44話 「ダッハ荒野にわたしたちは落ちてきた」の草案
ウイン「なになに? 『ダッハ荒野にわたしたちは落ちてきた』の草案が今回のお題なの?」
トキト「その『わたしたち』っての、ウイン視点って感じだよな」
パルミ「あったりきじゃーん! ウインちゃんはあたしたちの目も担当してくれてるってことっしょ」
カヒ「そうだよね。わたしが知らないことでもウインが見てくれたらわかることも多いし」
アスミチ「うん。ぼくみたいに知識の偏りもないから、ウイン中心で助かるよ」
トキト「そゆことで、ウインがリーダーだな」
ウイン「ちょっと、トキト、リーダーはちがうでしょ! 君がリーダーで、私はせいぜい観察者ってことでしょ」
トキト「じゃ、それで」
パルミ「軽いっ」
バノ「では、ベルサームのメモに引き続き作成された、『ポンロボ』の冒頭の草案だよ」
※ ※ ※
ベルサーム国からゲート経由で荒野に移動したウイン、トキト、パルミ、アスミチ、カヒの5人。彼らはベルサームで与えられる予定だった甲冑ゴーレム(全長6メートル)の操縦席に無理矢理5人で入ってロープで5人の腰を結んで空中に転移してきた。地表まで十数メートルの中空に出現したため彼らは命の危険に瀕する。
(1)トキトが素早く地表を確認する
(2)荒野の中のオアシスめいた森が眼下にある。
(3)水場が見えると、トキトの行動は早かった。「飛び降りるぞ。木の枝が水の上に広がっている。俺に続いて跳べ」
(4)ほかの4人は景色を見る余裕すらないため大混乱する。ウイン「待って。怖い怖い怖い。え、今落ちてるの!?」 パルミ「地面、見えるよウインちゃん。まだ学校の屋上より高い。やっべこれ死ぬっぽい」 カヒ「いやあああ」 アスミチ「カヒ、ロープをしっかり掴んで。トキト、ちゃんと助かるの? 水があるの?」
(5)トキト「今なら水に落ちる。だから今跳ぶぜ。我慢しろウイン。ほかの3人もロープつかんでついてこいよ」 ウイン「待ってくれないのぉー!?」 トキトは跳ぶ。
(6)枝はさいわいやわらかく、目をつぶっていたので目に刺さることもなく、5人はバキバキと生木を砕く音を聞きながら落下する。やがて水面に到達する。
(7)水に落着するが、次は泳ぐ必要がある。トキトが岸辺にたどりつき、ほかの4人を引っ張る。幸い、泳げない子はおらず、カヒも足手まといにならず岸に上がる。
(8)ものすごい落下音がして、かなり向こうにゴーレムが落下する。どうやら岩に当たったかしたらしく壊れた感じの音に聞こえる。
(9)トキト「落ちる速度は遅めだったよな。やっぱりゲートだっけ、くぐる間はちょっと宙に浮く感じなんだろうな」
ウイン「落ちる速度はそうかもだけど、横にすごい勢いで動いてたよ」
パルミ「石を真横にびゅーんと投げた感じに似てたよね」
ウイン「パルミ、もう落ち着いてるね……私は心臓がまだドキドキして止まらないよ」
アスミチ「心臓止まると死ぬから、気をつけて」
ウイン「そういう意味じゃなーい!」
ウインも、ほかの4人も笑う。ようやく生きている実感が生まれた。これからサバイバルが始まる。だがもうじき夕方になるだろう。太陽が地平線に達する前に、安全を確保するために子どもたちは動くことになる。(終わり)
※ ※ ※
トキト「お、今の俺たちとぜんぜん違和感ねえのな。このままでもいいくらいだ」
パルミ「アスっちの心臓ギャグがなくなったのは惜しかったにゃ。ドンマイ、アスっち」
アスミチ「べつにそれはなくなってもいいよ……それより」
ウイン「カヒの出番が少ないね。おおきなゴボウがないから?」
カヒ「ううん、わたしのできることは、このシーンだとないから、それはいいよ。それより、ね、アスミチ」
アスミチ「うん。ねえみんな、大事なことが……このシーンでは抜けてると思わない?」
トキト「んー、まあ、本編だともっと長いから、いろいろ抜けてるけどな……飛び降りる前にいろいろ思い出したり、飛び降りてから……ん? あ、ああっ、とんでもねーことになってるじゃん!」
パルミ「ぎゃわんぎゃわん! あたしも気づいちゃったよトキトっち!」
ウイン「あ、あれ……まさか……あれ? うそでしょ、この作品名ははじめから『異世界ポンコツロボ ドンキー・タンディリー』なのに」
バノ「そうだね。なんと」
パルミ「バノっちとハートタマがいないじゃん? じゃなくて」
ウイン「今のパルミのボケでちょっと気持ちが落ち着いた。いないよね、ドンキー・タンディリーが……みじんも出てこないまま……」
バノ「最初の書き出したアイディアの状態だったから、ドンキー・タンディリーとの出会いはこのあと、ということだったようだよ」
パルミ「ふひー、ちゃんとドンちーとは出会えるんだったんだにぇー」
カヒ「うん。よかった」
バノ「ただ、君たちも感じたように、今の君たちのようにドンに助けを求めて、ドンが応えてくれたという強いつながりができないまま落下してしまった。岩にぶつからなかったのはいいことだが、もっと仲間としてドンと最初から強い助け合いが必要だとマスター(作者)の判断があったようだね」
アスミチ「岩があるのは嫌だけど、ぼく、ドンと助け合いが早く始まるほうがいいな。だから今の状態がいい」
トキト「俺も、あのドンの強烈張り手にしびれたしなー。水から出てくる巨大ロボってのも、かっこいいし」
パルミ「トキトっちは、金属棒も拾えたっしょ。最初の案だとそれもずっとあとまわしになるんよね」
トキト「うげ、そうだ」
バノ「金属棒および、ドンの外装版のニョイノカネ繊維の設定はかなり初期からあったようだから、いずれはトキトの手に金属棒が渡ったことと思う。でも遅くなったかもね」
ウイン「あのとき、トキトだけいなくなって、岸にたどり着かないんじゃないかと思ったら、水中から出てきたんだよね」
アスミチ「金属棒を拾ってたんだったね」
トキト「金属なのに水にふわふわ漂っているなんて、おもしれーじゃん?」
カヒ「バノ、その軽さの秘密みたいなのも、わかることになるの?」
バノ「んー、べつに秘密でもなんでもなくて、そういう物質なんだよ、ニョイノカネ」
アスミチ「あっ、甲冑ゴーレムから飛び降りたぼくたちが先に着水して、あとから甲冑ゴーレムが落下した、その時間差にも関係あるのかな。甲冑ゴーレムにはニョイノカネが入っているから」
バノ「あとでスクラップヤードに移動するシーンが用意されているが、第44話の時点ではもうちょっと先ということになる。でもまあ、その理由もあるんだろうね。それにアスミチが担当した甲冑ゴーレムは、飛行試験型だったから、ある程度は空中をただよう設計だった」
ウイン「魔法の力を使った金属だから原理はちがうけど、紙飛行機がふわーっとしてゆっくり落ちてくるみたいなものかな」
バノ「そうだね。グライダーやヘリコプターが動力がない状態でもゆっくり降りるのと似ている」
パルミ「そりゃ、すんげー軽い金属っちゅーことになんね、ニョイノカネ」
カヒ「うん。貴重だからねってベルサームでも言われたよね」
トキト「あらためて、俺たち、かなりやべーものを奪ってきちまったよな」
ウイン「ほんとだね。ベルサームに注意して行動しないといけないって、あらためて思うよ」
(つづく)
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