第43話 『回想・ベルサーム』の最初の最初はこうでした

ノル「えええええーっ。お題は『回想・ベルサーム』の最初の最初はこうでした、なの? ノル困っちゃう。あっ、みんながくるから、じゃあね、ノル・ドロンの術」(ドロンと消える)


カヒ「今日は、ベルサームにわたしたちが現れたときの、アイディアのメモなんだね」

アスミチ「どんな感じだったんだろう……」

バノ「とりあえず書き出して、あとから調整して、それで本番の執筆というのを複合的にやって書かれているようだね。三段階のうちの、一段階目の、はじめだ」

ウイン「でも、私たち五人については、もうオアシスの話をだいぶ書いてからこっちを始めたんでしょ? キャラクターは変わってない予感だよ」

トキト「だよな。オアシスに落ちてきた、まだその日の話だし」

バノ「そうだね。『ポンロボ』本編では私も君たちにとっくに合流している段階でのアイディア出しってことのようだ。だから、違うとすれば、ベルサームの人物ということになる」

アスミチ「エトバリル、マシラツラ、ノルさん、シュガーさん、タバナハさん……あたりかな? あとはぼくたちは知らないことになっているけど、メルヴァトールのパイロット三人」

バノ「マスター(作者)によると、初期の人物はかなり完成形と違ったらしいよ」

パルミ「エトバリルんがお菓子を食べてくれるとかだったらよかったにゃー。あと、タバナハちゃんと一緒に脱出とかねー」

カヒ「それ、いいね!」

アスミチ「それだと空からタバナハさんも含めて六人で落ちてきちゃう……ちょっと無理がありそうだよ」

パルミ「あ、そっか。アスっち、判断が早い! ニーハオ!」

アスミチ「なんでパルミはいきなり訪中モードになったの!?」

バノ「では、そろそろ……あそうだ。いろいろと本編に関わる内容なので、のちのち消して、ふたたびしまい込んでしまう可能性もあるということだよ」

トキト「んじゃ、しっかり見届けねえとな」


 ※    ※    ※


『回想・ベルサーム 草案』


ウインやトキトたちが異世界に転移して軍事国家ベルサームに出現したことにしてみよう。

(1)ベルサーム上空にゲートが空き地上に近づいていくが、突然引っ張られて街の上空を飛び越えいかめしい城の中庭に着地する

(2)軍事顧問エトバリルと名乗る男と軍隊が現れて「地球人だな」と諮問してくる。「異世界をつなぐゲートをこのカプセル、カロカツクーウによって操作し、このベルサーム国に出口を開いた」

さらに「ベルサーム国を代表して君たちを歓迎する。休息を取ってもらいたいが、その前に一つだけ頼みがある」と言い、大きな建物の中に案内される。トキトたちは「日本語でしゃべっていないのに言葉の意味がわかる」と不思議がる。ウイン「ここは本当に地球ではない世界なのかも」

(3)エトバリル「ここで見たことは他言無用に頼む」と言いながら示したのは、不思議な青白い金属の甲冑を身に着けた岩の人形だった。アスミチ「ゴーレムっていうやつかな」 エトバリル「さすが、年若いといえどよくご存知だ。我が国のゴーレム、魔法操作兵だ。メルヴァタル(特別な金属)の甲冑を着せてある。ピッチュ(精霊)も人数分用意できるが……今日は君たちだけで操作の準備をしてもらいたい」

(4)よく意味がわからないトキトたちにエトバリルが説明していく「ゴーレムは魔法使いでしか動かせない。通常はな。しかしピッチュの助けを借りることで誰でも動かせるようになる。ただし、地球人の君たちは魔法使いでなくピッチュの助けもいらず、動かせるのだ。君たちが自分たちの故郷でゴーレムを動かす装置を使ったことがあるだろう。それを想像したまえ。相談はなしだ。イメージが交じると失敗するのでな。ゴーレムを、またはゴーレムに近い機械や兵士を操作する装置だ」 トキトはジョイスティックとボタンを想像する。ウインは乗用車のハンドル、アクセル、ブレーキ、ギアなどを想像する。パルミはコンシューマゲーム機のコントローラを想像する。アスミチはテレビの特撮「アルティメット人間」に出てくる怪獣型メカの操縦席を想像する。カヒは旅客機の操縦席を想像する。



書き出し案(1)地球の春の大型連休のウインとトキト

(2)ベルサームのゲート出現時

(3)ダッハ荒野のアダーの森に出現し飛び降りるシーン

(4)デンテファーグ「仲良く遊んでいたかい、子どもたち」

どれがおもしろいか。



(5)エトバリルが「では憲魔法によって形を与えよう」と宣言して、トキトたち一人ひとりの頭に触れながらゴーレムの胸部に念を送る。すると、イメージ通りの操縦席が出現する。エトバリル「む、まさか五人が五人、これほど異なる形状の操作装置を記憶しているとは……地球とは機械文明の星と聞いているが、聞きしに勝るとはこのことだな」

(6)エトバリル「しかし想定通りに操作装置を設置できた。五種手に入ったのは想定外の幸運だ。皆さん、今日はこれで休んでいただいてけっこう。皆さんが私の思った通りの人材であることは証明された」

(7)トキトたちはそのあと誰とも会うことなく部屋をあてがわれ休んでよいと言われたが、ウインが気づく。「おかしいよね。食事のときも給仕の人しかいない。誰も会いにこない。招かれた客みたいにエトバリル氏は言ってたけど、これ軟禁状態じゃないの?」

(8)そのとき五人の部屋にまさに給仕の人がふたたびやってきた。入ってきた途端転んで持ってきた飲み物やグラスをど派手に床にぶちまけながら。給仕の人「ぎゃはーん! いたたたたた。この高価な服をまとっていなかったらとんでもない惨事になるところでしたー」

(9)ウインとトキトが切り出しかねているところ、パルミが話しかけていく。「ねえ給仕の人に聞きたいんですけど、会話してもいい感じですか?」 給仕の人はぺろっと舌を出しながら「ダメなんです、口を聞いてはいけないとエトバリルのやつに言われているんです、言いつけなんです」 パルミ「うえっ? 今しゃべっちゃってるじゃん。それにエトバリルのやつって言ったよね?」

 給仕の人「あはは、そうなんです。言いつけを破りまくります。えっと、時間がもったいないので単刀直入に言いましょうね。私の名前はノル。あるときは給仕の人、またあるときは給仕の人、しかしてその実態は! ノルなんですー!」 トキト「意味がわかんねえ!」

 ノル「今はエトバリルの敵対者だってわかってくれればいいです。そしてあなたたちの味方です。明日以降もこのベルサームにとどまっていたら、あなたがたは人殺しの兵器の操縦者にされて逃げられなくなっちゃいますよ」 ウイン「そ、そうですよね、そう言う感じでエトバリル氏は話をしてましたよね」 

 パルミ「エトバリルに言って断ることってできないの?」 ノル「できませんね。嫌がっても、魔法を使って言うことを聞かせるのをためらう男ではありません」 アスミチ「魔法が使える相手じゃあ、ぼくたちにはどうしたらいいか」 

 ノル「じゃじゃーん! ご安心ください。このノルも魔法が使えます。しかもかなり使えます」 カヒ「ノルさん、エトバリルさんより強そうだよね……」 ノル「おお!なんと勘の鋭い」 

 パルミ「心強いっすねー。で、あたしたちを助けにきてくれたってこと? 対価とか要求あるっすか?」 ノル「よく聞いてくれました! 脱出したいですよね。手伝ってほしいですよね」 トキト、ウイン、パルミ、アスミチ、カヒ「うん……」 

 ノル「私がこっそり魔法の力を行使して手助けします。でもできればエトバリルのやつにばれたくない。だからあなた方にはあのゴーレムを一つ奪って逃げてもらいます」 

 ウイン「四つは残していくのね。エトバリル氏は私達から操作装置をたくさん入手できて幸運だと言ってたから、四つでも妥協できると考える。私達が逃げても装置が残るからしつこく追わないかもしれない……」 

 ノル「そう、大正解。皆さん、ほんとうに鋭い。地球人ってあいかわらず他者の思考への洞察力が恐ろしい」 アスミチ「ノルさん、地球人に以前も会ったことがあるんだ」 

 ノル「あります。その話はでも今はパスで。時間を浪費したらそこで試合終了ですよ」 トキト「安西先生かよ。ほんとに異世界人なの、ノルさん」 ノル「呼び捨てでいいですよ。異世界人……うーん、異世界人と言っていいでしょうかね、自己イメージはちょっと違いますが、人間よりだいぶいろいろとできることが多いので」 

 パルミ「神様?」 ノル「それ絶対ちがいます!神様じゃないですよー。これ大事だから忘れないでね。神様じゃないの、絶対に神様じゃないから! 神様じゃないけど魔法の力で助けます。眠いと思うけど、今からゴーレム格納庫に向かいます」 

 パルミ「なんかごまかしてない? ほんとはノルって……」 ノル「言わないでー! 聞こえない聞こえない何も聞こえない。さあさあ魔法で扉も開けるし音も消すし気づかれないようにしますから、ついてきて。格納庫に戻ります」 


(10)格納庫でゴーレムをひとつ選ぶことになる。

カヒ「むずかしい機械の使い方は、わからないよ……」 アスミチ「ぼくも。まさか操縦させられると思わなかったから特撮アルティメット人間のマシンを思い出してこれになったし」 パルミ「それじゃ動かないんじゃん?」 トキト「動かないよな……テレビのはハリボテだろうから」 

ウイン「となると、パルミの考えたゲーム機のコントローラがいちばんいいよね」 パルミ「操作は簡単だけど……これで動くん?」 

ノル「実在のコーンとローラのコピーだから動くと思うわよ。エトバリルのやつは腕はたしかだしね。メルヴァタル製の甲冑だしね」

 操縦席には自動車の後部座席くらいのスペースがあった。五人の子どもがなんとか収まるが窮屈。

 ウイン「すし詰めだよー。このまま何時間も活動するのは無理ー」 ノル「そうよね、外から見ても明らかに無理がすごい! 善は急げで参りましょう! 本来の転移ゲートを呼ぶだけですし。そしたらおそらくラダパスホルンの近辺に出現します。そこからは運命のままに行動するしかありません。私の手助けはここまで。皆さん、どうかお達者で!」 

 子どもたち「ええええー!」ノルがついてきてくれないと知り大慌て。すぐに転移ゲートが現れ、異世界に転移したときのように上空に吸われる子どもたちの乗ったゴーレム。

(11)エトバリル「間に合ったな! ノル! 御身がお出ましとは、驚いたぞ」 

ノル「うわ、見つかった。腕をあげたねえ、イエットワーリ」 アスミチ「名前が違うんだけど?」 

エトバリル「聞いて驚け。私は人間に魔法で姿を変えているが……正体はエルフだ!」 ウイン「エルフなんだー」

 ノル「ウインちゃん、反応が薄くてイエットワーリが凍りついてる。もっと驚いてあげないと」 パルミ「うひゃー! くそ驚いたな! エトバリルのやつはエルフだったなんて!」

 ノル「エルフはほとんどが姿を消しちゃったからね、あいつらも他人のアイディアに乗っかるだけ乗っかるあさましい連中なんだから……」 

 エトバリル「ノル、あなたが嬉しそうにべらべら話すから、まさか秘密にしてほしかったとは思わなかったのだ」 ノル「こっちも真似されると思わなかったからしゃべったの!」 

 と謎の口論をしているうちに転移が始まる。ノルとエトバリルは魔法合戦を始める構えをお互いに見せるが、何もしない。

 パルミ「あー、あれ、たぶんお互いに何をしても無駄だと思っているっぽいね」 トキト「剣道の睨み合いみたいなもんだな」 カヒ「でも、こ、怖いよ。ノルも、エトバリルも、なんか、すごい怖い!」 アスミチ「涙が出てる。大丈夫かい、カヒ」 ウイン「うう、私もなんか身体が震えてきて、涙が……」 五人の乗ったゴーレムは荒野に転移した。


(終わり)


 ※    ※    ※


バノ「いかがだったろうか? これが十万文字に増えて『回想・ベルサーム』になったのだな」

トキト「あ、あれ……俺の体験した記憶とだいぶ違う……」

アスミチ「あの人、今よりもっと強くない?」

パルミ「アスっち、それより、重要人物が足りてないよん……なんなん……」

ウイン「最初は、いなかったんだ。まあ最初の案だからほんとうにあらすじだけなんだろうけど」

バノ「そういうことだね。ベルサーム人が一人もいないという恐ろしいあらすじになっている」

カヒ「エトバリルはエルフのままだけど……ノルは、ベルサーム人じゃないの?」

ノル「ちがうのよー」

トキト「わっ、またノルさんが突然……あれ、もういない」

バノ「あからさまに逃げ腰だな、ノル。私はまだ会ったことがないから、こっちで会ってしまうのもいけない気がするから、それでいいのか」

カヒ「トキト、安西先生って誰?」

トキト「過去の俺に聞いてくれー。今の俺は安西先生のあごをたぷたぷしたことさえ、ないんだ」

アスミチ「わざとらしく嘘をついてるよね……マンガ『スラムダンク』でバスケ部の鬼監督だった先生だよね、安西先生って」

カヒ「そうなんだ!」

パルミ「あたしもちょっと口調が違う感じ、あるよね? それより違うのがノルっちだけど」

バノ「ふうむ……今の『回想・ベルサーム』より踏み込んでいる箇所がある。ノルがエルフに知恵を授けたかのように言っているじゃないか。エルフが姿を消したのは千年近く前だぞ……ノルとは……」

ノル「わー、わー、わーっ。かならずあとで言うから。だから、今日はここでおしまいでーす。デンテファーグちゃんと会うとこれだから嫌なのー!」


(つづく)


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