第5話 遺産相続
ネットオークションが流行り出して、僕はよく母さんに頼まれて入札を繰り返していた。
中身は読んでないけど。
ただ、母さんの自室もそんなに広くはない。
長年買い漁ったBL小説、マンガ。CD、雑誌などで部屋は埋め尽くされてしまった。
至る所にBL本が収納されているのだ。
クローゼットにベッドの下、それからBL用に買った本棚。
それでも入りきらないため、たまに僕へ処分を依頼してくることがあった。
その中にはネットオークションで買った同人誌もある。
この頃、僕は妻と結婚したばかりの新婚時代だ。
気を使った母さんは、「この本を全部売れば、まあ……ランチ、いやディナー代ぐらいにはなるかしら?」と自信ありげに語った。
しかし、中古市場に詳しい僕は、それを聞いて反論した。
「母さん! たったこれだけで、そんな高値がつくわけないだろ! 頑張っても2千円いけば良いところだよ!」
「いや~ この作品は今でも結構、人気だからね」
とほくそ笑む。
僕と妻は大量のBL本を車へ積み、中古を取り扱う本屋へ持って行った。
その中には、要らなくなった僕のマンガやゲームもある。
結婚したため、部屋が狭くなったので泣く泣く売ることにしたのだ。
~10分後~
店員さんが僕たちの番号を呼ぶので、カウンターへ向かうと。
眼鏡の男性店員が、驚愕の数字を口から放った。
「あ、お待たせしました。本日の買取りなのですが、えぇ~ 合計で1万5千円になります。よろしかったら、ここにサインをお願いします」
僕は耳を疑った。
今回、僕が処分するマンガやゲームにそんな高値はつかないはずだ。
じゃあ、まさか……と思った僕は、お店の人に質問してみる。
「あの……なんかやけに高額なのですが、どれが高いんですかね?」
「それはですね~ こちらの一部商品がですね、結構プレミアがついているんですよ」
そう言って、カウンターに持って来たのは全て母さんのBL本だ。
「え? じゃあそれだけで、いくらぐらいするんですか?」
「そうですね……ざっとですが、1万4千円ぐらいですね」
「!?」
驚いた僕は、更に質問を重ねる。
「じゃあ、あの……他のゲームとか、マンガはいくらぐらいですか?」
「あぁ、こちらの方ですか?」
そう言って、カウンターに持って来たのは、全て僕の愛用していたマンガやゲームだ。
「ちなみに、こっちはいくらぐらいですか?」
「う~ん。まあ、ざっとですが千円もいかないぐらいですねぇ」
「……」
負けた。僕の愛していた作品が、母さんのBL本に負けるとは。
いや、待てよ……。
ひょっとして、若い頃にネットオークションで入札しまくった同人誌の中で。
「作家さんが商業へ行った」と母さんが話していた。
10年経ったから、価値が上がったというわけか!?
なら母さんの部屋には、もっと価値のある同人誌が眠っているのでは?
しかし、僕にはどれが価値のある商品なんて分からない。
ここは孫に当たる、僕の娘たちがいつか引き継ぐだろう。
どうせ、腐女子になるし……。
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