第4話 元気になる


 母さんの地雷布教が、留まることはない。


 僕は若い頃、心の病で10年近く床に伏せていたのだが……。

 それを見た母は、よく元気づけようと、おすすめのマンガやアニメ、映画を持って来た。


 だが、やおいという言葉を知った、母さんの境界線はとても曖昧になっている。

 これが地雷になる元凶だろう。


 ベッドで寝込んでいる僕を見ては。


「幸太郎、これを見て! 元気になるわよ!」


 と渡してきた作品は、アクションマンガと思いきや、オチは必ず激しい絡み。

 病んでいた僕もその時だけは、ベッドから立ち上がり。


「って、BLじゃねーかっ!?」


 と突っ込みを入れるのであった。

 それでも、母さんは僕へ気に入った作品をゴリ押しする。


 ある日、良い映画を観ようというので。

 母さんの部屋でDVDを再生してみると……。


 確かホストクラブで働く新人が、トイレで用を足していると。

 いきなり先輩が背後から襲い掛かり……。


『やめろっ! いきなりなにをすんだよっ!』

『暴れんなよ、嫌いじゃないだろ』


 みたいな感じで、襲われたのに。

 結局ラストは、二人とも両想いになるみたいな実写映画を見せられた。

 当然、僕は激怒する。


「これ、ただの映画じゃないじゃん! AVじゃないの?」


 しかし母さんは悪びれることなく、レンタルショップのパッケージを確認する。


「ん~ あら、18禁だったのかしら? おかしいわね、原作はBL小説なんだけど」

「そもそもが間違いだらけだよっ!」


 こういうことを僕は15年近く、実の母親に強制されてきた。

 だから、自ずとBL耐性が身に着く。

 なにを観ても、鈍感な体質になってしまった。


  ※


 母さんがやおいというジャンルにハマッて、10年近く経った頃。

 BLではないが、僕と母さんはよく映画を観に行くことが多かった。

 その帰りに、多くの同人誌を扱うオタクショップ、まんだ●けに寄るのが日課になっていた。


「私はお金に余裕があるわけじゃないから、ある程度安くならないと買わない」


 と言っていたが、その頃ネットオークションをよく利用していた僕に。

 二次創作の同人誌に入札して欲しいと頼まれることがあった。

 僕がいいよと言うと、「じゃあ1万円まで」と言われ驚いた。


 限られたお金の中でBL本を漁る母にしては、珍しいと思った。

 話をよく聞いてみると、母さんが欲しがっている同人誌は今じゃプレミア価格のつくものらしい。


「その先生、もう商業行ってなかなか手に入らない初期のものなのよ~」

「?」


 その頃の僕では、言っている意味がさっぱり分からなかった。

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