第16話 学園生活と授業風景と、あと部活動の話9

「決闘関連のことは、とりあえず脇におこう」


俺が言うと、ライリーも真剣な顔で頷いた。


「だな」


その視線の先には、家庭部がスイーツビュッフェを開催している教室。

調理は廊下を進んだ先にある家庭科室で行っている。

こちらも見学できるらしい。

その際は、予め家庭部が用意した頭巾やエプロンを着用することになるらしい。


ちなみにスイーツビュッフェは、毎年一番人気の勧誘なだけあって長蛇の列が出来ていた。

その列の中に、俺はライリーとフィー、オーレリアとともに並んでいる。

意外と回転率はいいのか、そんなに長時間並ぶことはなかった。

気づいたら順番が来た。


教室の中に入る。

三クラスほどぶち抜いた広さがあった。

どうやら、取り外し可能な壁が設置できるらしく、今回はそこを取っ払っているらしい。


壁に沿ってクロスの掛けられた机が並べられ、そこに大陸中のお菓子がこんもりと盛り付けられ、所狭しと並べられていた。


中心には、客席が用意されている。

その中のひとつに案内され、部員から説明を受ける。

あちこちに用意してある紙皿に取ってきて食べる形式だ。

ただし、食べ切れる分だけ。

残しそうなほど取ろうとしているのを見かけたら、部員が声掛けをすることがあるらしい。


なんでも、魔眼のひとつ【鑑定眼】保持者が何人かいて、注視してるのだとか。

不要なお残しを出さないためらしい。


なるほどなー。


「オーレリアちゃん!オーレリアちゃん!!どれ食べる??」


「どれにしよう、迷うね!」


「わかる!全部制覇したい!!」


説明後、キャッキャッと女子たちが早速、紙皿を片手にお菓子を取りに行った。

ドリンクも提供されている。

様々な瓶に入っており、中身がわかるように絵と文字が記載されたラベルが貼られていた。

ちなみに、生搾りジュースは園芸部が世話をしている果樹園にて採れた果物を使っているとのことだ。


「贅沢だなあ」


果物は世話をするのが大変なのだ。


俺はリンゴジュースにした。

ライリーはブドウジュースである。


俺たちは大陸各地の菓子と、手作り生搾りジュースを堪能し、それから家庭室の方も見学した。


「なんか、拍子抜けだったな」


見学を終えるとライリーがそんなことを言った。


「なにが??」


聞き返すと、ライリーは長蛇の列の先を振り返った。


「決闘騒ぎが広まって、どこいっても視線を向けられてたのに、それが無かった」


言われてみればそうである。


「どこぞの1年のゴタゴタより、目の前の美味しい物を優先してたんじゃない?」


あくまで、今回の見学先の主役はスイーツビュッフェである。

そちらに注目するのは、普通だろう。

なにが悲しくて、美味しいお菓子やジュースより決闘騒ぎを起こしてる一年の顔を優先しなければならないのか。


「あぁ、たしかに」


ライリーはなにやら納得している様子だった。

こうして数日かけて、俺たちは部活動を見学した。


そして、少し早いが入部申請書を提出することにした。


用紙には、第一から第三希望まで書く欄がある。

人数が集まりすぎた場合、バラけさせるのが目的なのだろう。


「いや、まぁ、別にいいんだけどさ」


申請書を記入している俺たちを見ながら、お菓子先輩ことディーンさんがどこか呆れたように呟いた。

そう、ここはお茶菓子研究会の活動拠点、旧校舎の一室である。


「なんでわざわざ旧校舎まで来たの??

そんな紙切れ、寮でもかけるでしょ??」


俺は答えた。


「なんか、居心地がいいんで。

あと、ライリーもここに連れてきたかったんで」


テーブルを挟んだ向かい側で、ライリーは出された紅茶を飲んで、


「この紅茶、むっちゃうめぇ!!

このクッキーもうめぇ!!」


感動していた。

一方、本棚のまえでフィーとオーレリアが小説とマンガを物色している。


「好きに読んでいいけど、持ち出しは禁止してるからね」


フィーとオーレリアへ、ディーンさんがそう声をかけた。

どうやら本の貸出はしていないらしい。


「すごいですね。図書館に置いてない本ばっかり」


オーレリアが感心している。

ディーンさんは、苦笑した。


「それは言い過ぎだよ。

図書館にある本も多いよ。

そこの棚は一般的に言うところの稀覯本の棚だから、そのとなりの棚なんてどこにでも売ってる小説ばかりだよ」


「稀覯本なら、もっと大切にしないといけないんじゃ」


「んー、どうなんだろ。

コレクション目的ならそれでいいのかもしれないけど。

でも、稀覯本だろうと通常の本だろうと読んでもらうのを前提に世にでてるだろうから。

少なくとも、俺が卒業するまでは読み放題にするつもり。

どれも、ずっと読み継がれてきたからボロボロで、稀覯本としての価値がどれだけあるかは知らないけど。

俺の後釜がどうするかは、後釜が決めればいいからね」


そこで今度はフィーがたずねた。


「先輩、何年生なんですか??」


「二年だよ。

ちなみに、この同好会のメンバーは数合わせで入ってくれてる奴らばかりだから、基本的にほかの部活と掛け持ちしてて。

常駐してるのは俺だけ」


そこで、ライリーがニヤリとする。


「じゃあ、掛け持ちしてればここにきてお菓子食べ放題ってことっすか??」


「基本的にはね」


どうやらライリーは、【迷宮実況部】と【お茶菓子研究会】の掛け持ちをすることにしたらしい。

メインが【迷宮実況部】だ。

今書いている申請書の一番下に、掛け持ち希望の部活があるようなら書く欄があるのだ。


「それこそアッちゃんも、こことほかの部活を掛け持ちしてるしね。

メンバーだけなら、普通の部活と変わらないよ」


「普通の部活に昇格しないんですか??」


少し気になって、俺は質問した。


「しないよ。

少なくとも、俺の代だとしない。


そういうものらしい。


「それで、君は、どこに入るんだい??」


俺は、たった今書き上げた申請書を、ディーンさんへ掲げてみせた。


第一希望は、他ならないここ、【お茶菓子研究会】である。

そして掛け持ちするのは、ライリーに頼まれて頭数として入部する【迷宮実況部】である。


「おや。あの部活、まだあったんだ」


どうやらディーンさんは、【迷宮実況部】のことを知っているらしい。


「入部希望者皆無で廃部って聞いてたけど」


「ライリーが入るってことで、復活です。

メンバーも、頭数としてフィーとオーレリアが協力してくれるので」


最低三人必要なところ、これで表向きは四人となる。

オーレリアは、運動系の部活と掛け持ち予定だ。

メインは運動系の部活である。


「なるほどねぇ」


と、そこでディーンさんはポンと手を叩いた。


「そうだ聞こうと思ってたことがあるんだ。

君たち、カキタとライリーはイルリスさんに会ったんだろ?」


フィーがこちらを向いた。


「なにを話したんだ??」


「へ?」


「いや、君たちの決闘諸々のこととか、一応聞いてはいるんだけど。

あの人が絡んでくると、絶対、なんていうの??

イタズラしかけるからさ」


俺は、数日前の早朝の時のやり取りを思い出しつつ、答えた。


「べつになにも」


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