第14話 学園生活と授業風景と、あと部活動の話7

いつもの早朝散歩に出たら、手袋を投げつけられた件。


ついさっき起こったことを端的に説明すると、これになる。

流れとしてはこうだ。


散歩に出る。

珍しく、ライリーがついてくる。

オーレリアがいるだろう場所に、これまたいつも通りむかう。

道中、ルギィさんとその取り巻きに囲まれる。

それも、人気は全く無しの場所でだ。

かと思ったら、手袋を顔面に投げつけられる。

そこを取り巻きの一人が撮影。

全員、蜘蛛の子を散らすようにいなくなる。


とまぁ、こんな感じだったのだ。

手袋は回収されず、俺の手元にある。

俺が、途方にくれたのは言うまでもない。

ライリーもそれは同じだった。


「なんだったんだ??」


二人して顔を見合わせる。

と、すぐ脇の茂みがガサガサと揺れた。

今度はなんだ?

そちらを向くと、昨夜も話を聞いてくれた先輩トリオが顔を出していた。


「みまして?奥様??」


「見ましてよ見ましてよ」


「手続き無しのほうの決闘を申し込まれてしまいましたわね~」


奥様口調的なもので、3人は言い合う。

それから、3人同時に俺を見た。

先輩トリオの口調が元に戻る。


「ちとまずいから、風紀委員預かりか?」


「いやぁ、これだと生徒会長に直に報告したほうがいいだろ」


「録画されてたから、逃げられないだろうしなぁ」


そこでようやく俺は、先輩トリオへ話しかけた。

というか、疑問をぶつけた。


「あの、いったいなんの話しで?」


決闘やらなんやらと聞こえた気がした。

いや、確実に言ったよな。

なんなんだよ、いったい。


「決闘方法にも色々あるんだけど、決闘の申請をせずに申し込むこともできるんだよ。

それが、いまの手袋を投げつける方法な」


「えぇ、きいてないですよ」


「昨夜、言う前にお開きになったからなぁ」


そういえば、先輩トリオの一人が決闘に関してなにか言いかけていたっけ。

このことだったのか。


「まぁ、滅多にするやついないし。

申し込む方も、ガチで命かけることになるから」


そんな生き急ぎすぎな申込方法が、なんで現代に残ってるんだよ。

取り締まれよ。法で。


「命をかけるってところを詳しく教えてもらえたりします??」


「いいゾ」


そうして聞いた説明によると、こういうことだった。

要は己の正しさを証明するための殺し合いとのことだ。

なんでそんなのが現代でも残ってるんだ。

本当になんで残ってるんだ。

この疑問にも、先輩トリオは答えてくれた。


「ほらなんつーの。

英雄ってさ、人助けすることだけが仕事じゃないじゃん?

場合によっちゃ、善悪関係なく大量殺人を犯した人間の称号だから。

たとえば、英雄同士で争いが起きた場合。

その争いの内容が、どちらにとっても正当性があるかもしれない、となった場合。

じゃあ、どっちがより正しいのかってなるだろ。


そうなった時、お互い死力の限りをつくして、自分こそが正しいのだと認めさせるわけだ。


これは、そんな古くから続くイカれた正義の証明方法だ。


英雄ってのは、どこまでいっても血みどろの存在でしかないんだよ」


「正義の反対は別の正義ってやつだな」


先輩トリオのうち、二人がそんな事を言う。

しかし、残りの一人がどこか腑に落ちないといった表情である。

ライリーがその先輩へ声をかける。


「どうしたんスか?」


「え、あぁ、うん。

なんか、引っかかるんだよねぇ」


すると、他の先輩二人が首を傾げる。


「引っかかる??」


「もしや、視えたのか?」


みえた??


「あぁ、こいつの先祖に聖女がいてな。

その血の流れからか、いろいろ感じ取れたり、見えないモノが見えたりするんだ」


「へぇ」


「便利ッスね」


俺とライリーが、聖女先輩(正確には男なので違うが)を見る。

聖女先輩は、苦笑した。


「そこまで便利でもないんだけどな。

ランダムに発動する能力で、制御きかないから。

見るものによっては、発狂とトラウマに苛まれ続けるから」


なるほど、なんとなく大変なのはわかった。


「それで、なにが見えたんだ??」


「そうそう、教えてくれよ」


先輩二人が聞く。


「いや、うん。

なんかあの子たちに変な気配がまとわりついてた気がしたんだよ。

でも、ちゃんと見えたわけじゃないから。

気のせいかもしれないけど」


「そう言って、今まで九割がた当たってたからな」


「そうなってくると、ますます先生方や生徒会へ報告しといた方がいいだろ」


先輩トリオはこのことを、先生達へ報告しに行くことにしたらしい。

とはいえ、時間が時間である。

報告は校舎に行ってからになる。


とりあえず、一旦寮に帰ろうとした時だ。


「面白い話をしてるねぇ、君たち」


と、声をかけられた。

全員、そちらをふりむく。

男が立っていた。


歳は、二十代前半。

地面を引きずりそうなほど長い金髪。冬の青空のように澄んだ瞳。

着ているのは上下とも真っ黒な服だ。


誰だろう?

そう思いつつ、先輩たちをみた。

すると、先輩トリオ全員が顔を引き攣らせていた。


「やぁ、そっちの二人は一年生だね。

……うん??」


金髪の男は俺を見るなり、不思議そうな顔をした。

そして、


「ははぁ、なるほどなるほど」


と、楽しそうに呟く。

それからニコニコと人好きのする笑顔で名乗ってきた。


「初めまして、僕はイルリス・ジルフィード。

話は聞いてるかな?

ほら、授業でちょっとした事故があったでしょ?

それを調べにきた、捜査局の人だよ~」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る