第13話 学園生活と授業風景と、あと部活動の話6

フィーもターゲットになった。


それはその通りだった。

今までは自分たちだけの問題で済んだ。

睨まれたり、刺される心配をするのは自分のことだけだった。

でも、危うさこそあったものの本当にそれが現実になるなんて思っていなかったのだ。


そこに、フィーも巻き込んでしまった。

ターゲットになっていなかったフィーも、今回は命の危険があったのだ。


「……どうするよ??」


ライリーが問いかけてくる。

フィーも刺されかねない状況になってしまったのである。

これに対してどう動くか?

それを聞いているのだ。


「フィーへの注意喚起は絶対必須だろ」


俺はとりあえず、フィーにこれまでの事も含めて説明しようと考えていた。

ライリーは俺の言葉を首肯しつつ、


「フィーとの接触を少なくするってのは、ダメか??

説明すればフィーも納得してくれると思う」


そう提案する。

とにもかくにも、フィーの安全が第一なのでそれも手ではある。

けれど、俺は彼女がそうやすやすと接触を減らすことに賛同するとは思えなかった。


「説明すればフィーは聞いてくれるだろうけど」


俺はこれまでの2週間強のことを思い出しつつ、言う。


「フィーって、我が強いから。

たぶん、聞かないとおもう」


ライリーにも心当たりがあったのだろう。


「たしかに」


と、頷いてくれた。


今しがた、俺自身も口にしたが、フィーは我が強い。

芯が強いとも言えるが。

とにかく、こうと決めたら曲げない折れない。

それは昼間のルギィさんとのやり取りでわかるだろう。

意に沿わないことを言われたり、されたりしたら講義の声を上げ、しっかり意思表示をする。


そんなフィーに、


『自分たちのトラブルに巻き込んでしまった、命の危険もあるから、しばらく遊んだり会話したりはやめよう』


などと言ったところで受け入れるわけはない。

まだ2週間の付き合いだが、確信している。

フィーは、それでも俺たちとの交流をやめないだろう。


「じゃあ、どうするよ??」


ライリーが再度聞いてくる。


「どうしようかね」


寮のことなら、寮長や監督生に相談できる。

でもこれは、それとは別のことだし。


と、考えていた時だ。

コンコンと、部屋のドアが叩かれた。


「1年ズいるかぁ??」


「もう寝たんじゃね??」


「いや、でも明かりついてるし」


続いて聞こえてきたのは、早朝によく顔を合わせる、あの三人組の先輩たちの声だ。

ライリーの部屋の引越しを手伝ってくれた、あの三人である。


俺とライリーは顔を見合わせる。


「先輩たちだ」


「だな。

カキタ、この時間に会う約束でもしてたん??」


俺は首をブンブンと横に振った。

そんな約束はしていない。


とりあえず、俺は椅子から立ち上がって部屋と廊下を繋ぐドアの前へ立った。


ドアを開ける。


「お、いたな。

こんばんは」


「あ、菓子の山だ!!」


「昼間の実技授業でいろいろあったって聞いたから、様子見に来たぞ!」


口々にそんなことを言ってくる。


「なんか、ヤバいことがあったとも聞いたからな。

ほれ、疲労回復のハーブティーもらったから飲め飲め」


ハーブティーの箱をわたされる。


「あ、ありがとうございます」


それを受け取り、礼を言う。


「どした??」


そんな俺の顔を覗き込むようにして、先輩の一人が聞いてくる。


「へ??」


今度は別のひとりが、


「なんか顔色悪いな」


さらにもう一人も、


「結構、ヤバいことに巻き込まれたって噂になってたからなぁ。

もしかして、捜査局の悪魔に事情聴取されて疲れたとか??」


なんて言ってきた。


「はい??」


顔色のことはよく分からない。

しかし、捜査局の悪魔とはなんの話しだろう??


「ちょうどよく菓子もあるし、なんならあれ食べながら話でもきいてやるぞ??」


図々しい先輩たちだ。


「あー、その、えっと」


そこで、ライリーが声をかけてきた。


「ちょうどいいじゃん。

話し、聞いてもらおうぜ」


今度は先輩たちが顔を見合せていた。



共有スペースには、予備の椅子が二つ用意されている。

一つ足りないので、俺の部屋から一つ持ってきた。

先輩の一人に座ってもらう。

もらったハーブティーをさっそくいれる。

カップは初めから人数分揃っていたので、それを使った。


先輩たちは、菓子に手を伸ばし、お茶を飲みながら、俺たちの話を聞いてくれた。

聞き終えると、


「なら、申請出して決着つければ?」


先輩の一人がそんなことを言った。

申請?

それで決着とは、いったいどういうことだ??


「申請、ってなんの??」


ライリーが首をかしげながら聞く。

先輩たちは目をまん丸にしてお互いを見合う。

それからもう一度、俺たちを見て、教えてくれた。


「決闘だよ」


「はあ」


俺とライリーの反応が薄すぎたためか、口にした当人が今度は戸惑う。


「え、知らない??」


「まだ説明されてないんじゃないか?

それに、めちゃくちゃ面倒くさいだろ、それするの」


「あ、そっか」


『決闘』を提案した先輩が軽くコホンと、咳をひとつして説明してくれた。

それによると、こういうことだった。

この学園では、生徒会長を決める時もそうだが、一部腕力で決着をつける、という制度がある。

決闘裁判という古すぎて、とうの昔に禁止された裁判を再現したものらしい。


とはいえ、これを行うにはルールが決められていた。

まず、生徒会と風紀委員会へその申請をし、受理される必要があるとのことだ。

で、この受理に至るまでがとても面倒臭いとのことだ。


「生徒会役員と、風紀委員長アンド副委員長と面談して、なぜそれをするか説明しなきゃならない。

そして、決闘相手も同じように面談される。

決闘相手が拒否れば、まぁ、出来ないんだけどさ」


理性的にイカれてる学園であることが、とてとよくわかる。

いや、わかってはいたんだけど。

本当にわかってなかったんだと実感した。


「で、その決闘内容なんだけど。

修練場を使って殴り合ったりするのがベター」


ふむふむ。

使う気はないけど、説明は聞いておこう。


「ベターってことは、そうじゃない決闘方法がある、と?」


「生徒会長決める時の総当たり戦、というか乱戦も、これに入る」


アレか。

話には聞いていたが、アレか。


「あとは……」


先輩が言いかけたところで、寮長が見回りにきた。

消灯時間であることを告げる。

もうそんな時間だったか。

先輩たちが部屋を出ていった。


俺達もそれぞれの部屋に戻り、ベッドへ潜りこむ。


「決闘、ねぇ」


正直、あまり乗り気ではない。

これについては、ゆっくり考えよう。

そう思った。


思っていたのに。


翌日。

俺とライリーは、相手方、つまりルギィさんたちからその決闘を申し込まれてしまった。

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