第11話 学園生活と授業風景と、あと部活動の話4

翌日。

いつも通り、朝のルーティンをこなし、朝食を食べ、登校した。


生徒玄関でエリ姉、リリアさんとわかれ、四人で教室へ向かう。


「そういえば、今日、杖出来てくるらしいね」


フィーがそんなことを口にした。

あの悪夢のようなキツすぎる実技授業にて、データをとられ、それぞれにあった杖や武器が今日にも配られる予定なのだ。


「配るのって朝礼の時か、それとも実技授業の時か。

どっちだ??」


ライリーが疑問を口にすると、フィーとオーレリアが同時に応える。


「「お姉様曰く」」


異口同音。

重なったことに二人が笑い合う。

フィーがオーレリアに説明役をゆずった。


「お姉様が言ってたけど、授業で配るんだって」


今日も、午後に実技授業がある。


「配られたら、今度は学園が所有する森でモンスター討伐するらしいよ」


「そうなんだ。

ちゃんと出来るかなぁ」


フィーはエリ姉から、杖を手に入れた後のことまでは聞いていなかったようだ。


「大丈夫大丈夫、フィーの氷雪魔法攻撃力高かったし」


この二週間、学園側から貸与された杖でなんどか実技授業をこなしてきた。

その結果知ったのは、フィーの魔法技術はとても優秀で強力であり、場合によってはオーレリアすら凌ぐということだった。


「フィーってどんな先生に教えてもらったの?」


オーレリアが興味津々に聞いた。

基本、学校以外だと、塾や家庭教師などから魔法を教わることが一般的らしい。

うちの田舎にはそういった子はいなかったので、聞いた時、塾でも魔法っておしえてもらえるんだぁ、とちょっと新鮮だった。


「親戚のお兄さんに教えてもらったんだ」


ニコニコと嬉しそうに、懐かしそうにフィーはそういった。

ここでライリーが、好奇心に負けたのだろう、


「もしかして、回復魔法っぽいのも??」


そう聞いた。

さすがに他の生徒がいる前で【時魔法】のことを聞くのは、はばかられたのだろう。

オーレリアも知っていたし、なんならライリーもその魔法の存在は知っていた。

つまり、他の生徒も知っている可能性がたかい。

ちなみに、フィーは他の生徒には【時魔法】が使えることは言いふらさないように、とあの実技授業のあとに先生たちから厳命されたらしい。

この事からも、他の生徒が【時魔法】ついて知っている可能性はあるのだ。

知らないのは俺だけだった。


「そうそう。

お母さんも、おばあちゃんも、そのお兄さんに教えてもらったんだって」


そこまで言って、フィーはハッとして口をおさえた。

その動作に、色々察してしまう。


「あー、もしかして聞かなかったことにした方がいい話??」


俺はフィーに確認した。

フィーは、口に手を当ててコクコクとうなずく。

うーん、この話題はふらないほうがいいな。

どこで誰が聞いてるかわからんし。


「えっと、なんの話ししてたんだったか」


俺がちょっと顔をヒクつかせて、ライリーとオーレリアに言葉を投げた。

2人も話を合わせてくれた。


「部活見学の話じゃね?」


「家庭部、見学行きたいね」


「あー、ビュッフェ、大行列が出来てたらしいな」


そんな会話をかわす俺たちのよこで、フィーが申し訳なさそうにするのだった。



そんなこんなで午後。

合同授業ということで、一年生三組がグランドで整列していた。

クラスごとに、杖と武器が配られていく。

ライリーは身の丈ほどもある大きな杖。

その先端には、フヨフヨと真っ赤な魔石が浮いていた。

武器は普通の剣だった。

一方、フィーの杖は指先から肘くらいまでの長さの杖だ。

魔石はなく、なにやら文字がびっちりと杖に刻まれていた。

武器は短剣だった。


さて、俺の杖と武器だが。

大きさ、長さはフィーと同じものだ。

ただ文字は刻まれていない。

とてもシンプルなものだった。

武器の方は、指ぬきグローブだった。

武器??

これはどちらかというと、防具になるのでは??


「全員、杖と武器はいきわたったか??」


教科担任達が生徒をぐるりと見回して確認する。

全員に行き渡ったようだ。

中には大剣や、トンファー、はたまた大盾、杖にくっいているものとは別で魔石などを持っている生徒がいる。

多種多様なのはいいけど、大盾は盾であり武器ではないような……。

まぁ、ぶん回せばそれなりの攻撃力となって相手を倒せるか。



「よし、それじゃあ今日はその杖と武器に慣れてもらうため、モンスター討伐をしてもらう」


これは、事前に聞いていたとおりだった。

教科担任の説明によると、今回も班を作ってもいいし、一人で討伐をおこなってもよいということだった。

場所は、学園が所有する山の中。

ダンジョンの時と同様、転移魔法で移動となった。

移動してから、当たり前すぎる注意がなされる。


「高校生だから言わんでもわかると思うが。

武器や攻撃魔法は人に対しては使わない、いいな?」


その後、生徒たちはこれまたダンジョンの時と同様に、それぞれ班にわかれたり、一人で森の中へずんずんと入っていくのだった。

ちなみに、討伐するモンスターはプリントにて一覧がくばられた。

基本はスライム。

あとは、ゴブリンやアルミラージ、オオガエルなどである。

どのモンスターでもいいので、一人5頭倒せばいいとのことだ。

その際、モンスターが必ず持っている魔石を持ち帰ることで討伐したかどうかを判断するらしい。

つまり、魔石を五つ集めればいいのだ。


「よう、どうする?

今回も組むか?」


ライリーが声を掛けてきた。


「そうしようか」


俺はキョロキョロと周囲を見まわす。

フィーをみつけて声をかけた。


「フィー、また組むか??」


「そうする!」


即答だった。


「オーレリアちゃんにも声掛けてこようっと」


フィーが、オーレリアを探しに行く。

けれど、その行く手はとある生徒によって阻まれた。

その生徒とはルギィさん達だった。

ルギィさん達は、いきなりフィーの前へ立ちはだかったのだ。


咄嗟にトラブルになる、と考えた。

だから、俺はすぐに動いた。

少し遅れて、ライリーもルギィさんのことに気づいてついてきた。

しかし、俺たちがフィーの近くへ来た時には、すでにフィーは何かをいわれた後だった。


「なんで、そんなこと言うんですか!」


フィーが珍しく怒気をまとわせて、そう言い返す。

俺はフィーに声をかけた。


「どうしたんだ?」


「それが……」


フィーが説明するよりも早く、ルギィさんが口を開いた。

ルギィさんの取り巻きたちは、ニヤニヤと嘲笑を浮かべている。


「友人は選んだ方がいい、と忠告しただけだよ」


「は??」


俺はフィーを見た。

フィーはルギィさんを睨んでいる。


「まぁ、そこの彼にも言ったことだけど」


ルギィさんは俺の横に立っているライリーを見ながら言った。

ライリーは今にも掴みかかりそうなほど、ルギィさんを睨みつけている。

一触即発だ。

教科担任が気づかないか、とそれとなく探す。

教科担任は別の生徒から質問をうけて話していた。

ほかの教科担任も同じである。

タイミングが良すぎる。

ルギィさんをもう一度見た。

勝ち誇ったような表情がそこにあった。

それだけで、色々さっしてしまった。


(これ、仕組まれてる)


ルギィさんが言葉を続けた。


「君みたいな、デマを流すような卑怯者はこの学園には相応しくない。

そんな奴と友人になるなんて気が知れない。

卑怯で嘘つきな者からはさっさとはなれるべきだ。

そうでないと、その子や彼の経歴に傷がつく。

だから良かれと思って、わざわざ忠告してあげてるんだよ」


デマ、ねぇ。

なんで俺がデマを流してるなんて話になってるのか。

否定しても信じなさそうだしなぁ。


「おまえ、まだ言うか?!」


飛びかかりそうになるライリーの首根っこを掴んで止める。


「やめとけ」


「おや?いいんだよ?言いたいことがあるんだろ??

ほらほら、言ってみなよ??

そこの嘘つきな卑怯者を庇いたいなら庇えばいい」


ルギィさんが煽る。


「だってそうだろ??

こっちは良かれと思って、親切心で忠告してあげたのに、それを仇で返されたんだぞ??」


「寮が変わったことを言ってるんですか??」


「ほかに何がある?」


俺は周囲を見ながら、言葉を返す。

いつの間にかルギィさんのクラスのクラスメイト達が俺達を取り囲んでいた。

しかも、ほかの生徒には気づかれないような、つまり傍からみると班を組もうかどうか、相談しているような囲みかたである。

少しでもこちらが手を出せば、悪者にされる舞台がととのっていた。

しかも授業中なので、録画魔法なんて展開していない。


「あれは、寮長が決めたことだったはずですよ。

な? ライリー、そうだったよな??」


俺はほかでもない相談者のライリーへ言う。


「そうだよ」


ライリーがイライラしつつも、言葉を返してくる。

ライリーはルギィさんを睨みながら、半ば怒鳴るような声で言った。


「俺が、お前と同室は嫌だったからそれを監督生に相談した!

監督生はそれを寮長へ相談した!!

そしてお前は、この二人から注意をうけた!!

それが卑怯だの嘘つきだのってことに繋がるなら、カキタじゃなくて俺に言うべきだろう!!」


「なんでだい??

だって、君はこの卑怯者に洗脳されてるんだ。

そこの彼女もな。

オーレリアさんは、危うかった。

でも、彼女へその毒牙が及ぶ前にひきはなせるのは僥倖だ」


洗脳って……。

また飛躍したものだ。

呆れて物が言えない。

話が通じないし、さてどうしたものか。


まぁ、無駄かもしれないけど俺の言い分も言っておこう。

俺が口を開きかけたとき、フィーが一際強い声で言い返した。


「卑怯者だとか、嘘つきだとか、くわえて洗脳??

ふざけんな!!」


フィーは絶対零度の瞳でルギィさんを睨み返している。

ルギィさん達が、フィーのその様子に怯んだようにみえた。


「……まぁ、もう忠告はしないでおくよ。

手遅れみたいだからね。

とても、残念だ。出来れば君たちは助けたかったのに」


ルギィさんは言うだけ言うと、俺たちに背を向け森の中へ入っていく。

取り巻きちがそれにつづいた。

これにライリーが毒づく。


「余計なお世話だ」


「ほんとにそう」


フィーも同意する。

そして二人同時に、森へ消えた彼らへあっかんべーをした。


オーレリアを探す。

彼女はこちらを気にしながらも、別の生徒たちと一緒に森へ入っていく。


「オーレリアは別の人と組んだみたいだし。

とりあえず、この三人で班になるか」


俺は2人へ声をかけた。

あ、忘れるところだった。


「それと、ありがとな」


二人が庇ってくれたことに対して感謝を口にする。


「お礼を言われることはしてないよ。

私は友達が悪口言われて貶されて、ムカついただけだから」


ライリーもうんうんと頷いていた。



森の中では、あちこちから生徒の声が聞こえてきた。


「そっちいった!!」


「まかせろ!!」


「あー、まってー!!」


「スライムはっけーん!!」


「かこめかこめ!!逃がすな!!」


「攻撃のタイミング合わせろよ!?」


「わかってる!!」


バタバタ、ガサガサ。

草や地面を踏み鳴らす音があちこちで響く。

そして、攻撃魔法の炸裂音。


「この辺だと、獲物の横取りとかありそうだし、もうちょい奥に行こうか」


今の所、横取りで騒ぎにはなっていない。

けれど、お互いその気は無くても相手が追いかけていた獲物を倒してしまう、なんて事故もおきかねない。

俺の提案に、ライリーとフィーは頷いた。


奥へ奥へと進んでいく。

事前に、自分たちの現在地を示してくれる魔法の地図を持たされているので、迷う心配はいらない。

やがて、他の生徒たちの喧騒が遠くなっていることに気づいた。


「あんまり、スタート地点から離れすぎてもまずくないか?」


ライリーがちょっと不安そうに言った。

たしかに、その通りだ。

いくら地図があるからといっても、先生たちのいるスタート地点から離れすぎるのも問題だ。


「じゃあ、この辺ではじめよっか!」


フィーがワクワクと杖を手にする。

俺たちは三人なので、合計15匹、対象のモンスターを倒して魔石を手に入れなければならない。


俺たちはモンスターを倒しまくった。

ライリーが後衛。

俺とフィーが前衛である。

俺はともかく、フィーも前衛なのは攻撃魔法が使えるからだ。

まぁ、それはライリーも同じなのだが。

ライリー曰く、暴走暴発させたくないとのことでこうなった。

ライリーの付与魔法で、攻撃力をあげてもらい、俺はモンスターをぶん殴り、フィーは氷雪魔法でモンスターを凍らせたり、氷で串刺しにしたりして倒していった。

あっという間に、魔石は集まった。


「ひぃ、ふぅ、みぃ、よ」


指差しをしてそれぞれが、魔石の数をかぞえる。


「俺はあつまった、ライリーは?」


「俺もノルマたっせい!」


俺たち二人はフィーを見た。


「私もオッケーだよ」


全員、魔石を5個集められた。

よし、もどるか。

俺たちは、地図を片手にスタート地点へ戻ろうとした。


その、瞬間。


閃光が、空を走った。


「かみなり??」


フィーが言った。

しかし、空は快晴である。

雲一つない。


それに最初に気づいたのは、ライリーだった。


「!?」


その様子を訝しんだ直後、俺もそれの、否、それらの気配にきづいた。


「……おい」


ライリーが言ってくる。


「わかってる」


フィーだけがキョトンとしていた。


「二人とも、どうしたの?」


フィーの疑問は、すぐに解決した。

俺たちの周囲をモンスターがぐるりと取り囲んでいた。

それも、事前説明にあったスライムやアルミラージなどではない。

少なくとも、俺たち一年生では倒せないだろうと思われるモンスターばかりである。


「サイクロプス、ラミア、キラーベア……」


フィーが驚いて、見えている範囲のモンスターの名前を口に出す。

それらが数十匹ほど、俺たちを取り囲んでいるのだ。

しかも、怪しく目が光っている。


「なんで、こんなとこに」


ライリーが絶望したようにつぶやく。


「逃げよう。ライリー、念入りに全員に付与魔法かけてくれ。

攻撃力上昇もだけど、防御力、そして素早さも、とにかく最大限まであげろ」


「わかった」


なんだかんだ、これまでの二週間で実技授業を一緒に受けてきたからか、ライリーは俺の意図を正確に把握してくれたようだ。

こういった時の対応というか、逃げ方も俺たちは教わっていた。


「どこが一番壁がうすい?」


俺は続けてライリーへ訊いた。

ライリーの魔眼でこの場のモンスターの数なんかを把握してもらって、一番突破しやすそうな場所を見つけてもらうのだ。

このほうが、地図を見直すより早い。


「フィーが向いてる方」


ライリーから直ぐに返答される。


「フィー、合図したら」


「わかってる」


言い終わる前にフィーが言った。

心強い限りだ。


ジリジリと、俺たちはモンスターから目をはなさないようにして、フィーが向いている方へ後退する。

焦らない。

恐怖も見せない。

焦りも恐怖も、見せた瞬間にモンスターは襲いかかってくる。

いまのところ、その機会をモンスターがうかがっている。

つまり、こちらが自分たちより力が上か下か、見定めているのだろう。

フィーが移動しつつも、口の中でモゴモゴと詠唱しているのが届く。


そろそろか?


俺は合図した。


「フィー、いま!!」


フィーの詠唱が終わって、力ある言葉と共に魔法が放たれた。


「【氷獄のグラシエス・呪縛プリズン】!!」


全方向のモンスターが氷漬けになる。


「うっそ、思ってた以上に威力あがってる」


カチコチに凍ったモンスターの群れを見て、呆然とフィーがつぶやく。


「あ、手間が省けた」


俺は氷ごと、モンスターを殴って砕く。

まるでアイスクリームを潰すかのように、ぐちゃぐちゃになった。

そうして出来た、開けた場所から俺たちは逃げ出すことに成功したのだった。


走って、スタート地点へ。


そう考えていたのに。


「うわっ」


「へぶ」


「ぶふ」


俺たちは何かにぶつかった。

それは透明な壁だった。

文字通り、透明なのだ

たしかに先が見えているのに、そこに行けない。

手でふれると、弾力を持ったなにかに弾かれる。


「なんだこれ?!」


ライリーが声を上げ、魔眼で解析をはじめる。

すぐに解析結果がでた。


「結界?! なんで??!!」


「え、なんで??」


フィーも声を上げた。

俺はライリーを見た。

ライリーは、視線を透明の壁から俺へとうつす。

そして、口を開いた。


「俺たち、閉じ込められてる」


「閉じ込められてるって、なんで??」


俺は呟いた。

そして、考える。

どうしてこんなことになっている??

わからない。


「どうしよう??」


「あ!アプリ!!通信アプリで連絡とれるんじゃ??」


フィーとライリーが、通信アプリをつかってとにかく外へ連絡を取ろうとする。

しかし、


「クソっ、つながらない!」


ライリーが吐き捨てる。


「さっきのモンスターといい、この結界といい何なんだよ!?」


ライリーが、見えない弾力性のある壁を殴りながら言った。


「ねぇ、私たち以外にも閉じ込められてる人って、いないのかな?」


たしかに、俺たちが森の奥に来たのは、ほかの生徒と獲物の取り合いにならないようにするためだ。

そう考えたのは、俺たちだけとは限らない。

実際、ほかのグループも近くに気配を感じていた。


「ライリー、魔眼で調べられないか?」


「やってみる」


ライリーの魔眼は本当に便利だ。

実際、魔石あつめもこれで捗ったのだから。

さらについさっき、モンスターに取り囲まれた時もいち早く、それに気づいたのはライリーだった。


やがて、ライリーが言った。


「ダメだ。

俺たちだけみたいだ」


フィーが口に手を当てて、息を飲む。


「そんな、どうしよう??」


フィーが縋るように俺を見た。

俺は逆に、魔法に詳しい二人を交互に見やる。


「あのさ、俺、魔法にそんな詳しくないんだけど。

こういうことって、起きやすいのか?」


「こういうこと?」


ライリーが言葉を繰り返す。


「さっきのモンスターの出現は、スタンピードっぽかったけど、違和感があるんだ。

加えて、この結界。

スタンピードのことは、それなりに知ってるんだけど、結界がともなうスタンピードなんて聞いたことないし。

自然界で、結界がなんの脈絡もなく現れる事象って、魔法使いの界隈だと起きやすいことなのかな、とも思ってさ」


二人は首を横に振った。


「結界ってのは、人が作り出した魔法技術、つまり人工物なんだよ。

だから、自然に発生するなんてことありえないんだ」


ライリーがそう説明してくれた。


「つまり、誰かが結界魔法を使わないと発生しないわけだな」


では、誰が?

初日のダンジョンのことがあるので、怪しいのは教師陣だが。

でも、だとすると俺たちだけ閉じ込める意味がわからない。

ダンジョンの時は、ほかの生徒たちがいた。

でも、今回は俺たちだけ。

狙ってそうやったと考えるのは、考えすぎだろうか。

いやいや、普通に魔法事故の可能性だってある。


「まぁ、そういうことになる」


ライリーは結界に触れたまま返してきた。

俺はさらに訊いた。


「それじゃあ、これは誰か生徒のミスによる事故って可能性もあるんだな?」


結界魔法をつかって、モンスターを囲いこもうとして失敗した。

その際、運悪く俺たちだけが結界の中に取り残されてしまった。

俺はそう考えたのだ。


「まぁ、その可能性もあるだろうな」


ライリーは、なにか言いたそうにしつつも、そう答えてくれた。

もちろん、ライリーもわかっているのだ。

それだけでは説明できない点があることに。


「でも、それって……」


フィーがなにか言いかける。

でも、すぐに、


「ごめん、なんでもない」


おそらくフィーも、俺たちと同じ考えに至っている。

説明できない点。

さきほど俺たちを取り囲んだ、モンスターのことだ。

モンスターの出現が先だったため、結界はその後にはられたのではないか、と考えそうになるが、これが逆、あるいは同時だった場合。

嫌な考えが脳裏にちらつく。


つまり、というものだ。


フィーは言いかけた言葉の代わりに、


「先生たちが気づいて助けにきてくれるかな?」


そうきいてくる。


「授業の終わりに必ず点呼をするから、気づくと思うけど」


俺はそう返したものの、確信はなかった。

もし、万が一、そんな言葉がチラつく。

もし、万が一、なにかしら手違いが起こって、俺たちの不在が知られなかったら??


ありえない。

仮に授業の点呼で気づかれなかったとしても、俺たちは寮に住んでいるのだ。

つまり、遅くても寮の消灯時間の点呼の時には不在に気づいてくれるはずである。

けれど、それまで何時間ここで待たなければならないのか。


俺は見えない、弾力のある壁に触れてみる。


「これ、思いっきり殴ったら壊せないかな?」


「その腕がぶっ壊れて、二度と使い物にならないことを覚悟してるなら止めないけどな」


ライリーがガチめの警告をする。


「結界魔法の強度ってのは、基本的にそれを施した術者の力量と人数にも左右される。

この結界魔法は、すくなくとも複数人が施してるはずだ」


「なるほど、じゃあ、殴ってみるか」


「おい、今の話きいてたか?!」


「平気平気、俺、蘇生魔法つかえるし。

お前に防御力限界まであげてもらったら、大丈夫かもしれないだろ」


「そういう問題じゃないだろ!

この結界を破壊したときの衝撃のこと考えてるか?

防御力あげたところで、どうこうなるもんじゃないんだ。


それだけ強い衝撃が予想される。

良くて意識不明、最悪即死だ。

つまり詠唱出来ないってことだ。

そうなったら詰むだろうが!」


そこでチラッと、ライリーはフィーを見た。


「それとも、フィーに無茶させる気か?」


暗に、ダンジョンの時のようなことになるぞ、と言われてしまう。


「あ、いや、そんなつもりじゃ」


痛みには耐性がある。

初日のダンジョンの時のように、腹に風穴を開けられても正確に蘇生魔法を使える自信はあった。

ただ、以前全くの別件で同じことをして、姉や義兄(予定)にはしこたま叱られたことも事実だ。

それに、そもそも結界を壊すと同時に意識不明、もしくは即死というのは考えていなかった。


「じゃあ、やめとけ」


「でも」


「でも、じゃねぇだろ」


ライリーは、なにか悩みつつもそう返してくる。

悩んでるように、見えた。

やがて、頭をガシガシ掻きながら、こういった。


「……仕方ねーな」



「方法をひとつ、思いついた」


マジか。

フィーも反応する。


「え、どんな方法??」


「ほんとはやりたくないんだけどな」


などと言いつつ、ライリーは身の丈もある杖を振った。

そうして俺たちの防御力を最大限まで上げる。

さらに、ダンジョンの時のように【防御結界魔法】を展開した。

ただ、それは俺とフィーを取り囲んでいる。


「え、おい?!」


「防御結界魔法なら、結界破壊時の衝撃にも耐えられるはずだ。

でもな、その中からだと攻撃魔法が使えないんだわ。

跳ね返るから」


嫌だなぁ、とかなんとかブツブツ言いながらライリーは続けた。


「蘇生魔法使えるやつがいるからやるんだからな?

そうじゃないと、絶対やらねぇ。

俺は怪我をしたくないし、なにより死にたくないからな」


「ちょっ、何言ってんだ?」


「俺が攻撃魔法苦手なのは話したよな?

その理由も」


覚えてる。

たしか、俺たちを巻き込みかねないとか、なんとか……。

おいおいおい、まさか!?


「待て待て!!

それお前が、大怪我するやつ!!最悪死ぬやつ!!」


「最悪死んでも、お前が蘇生魔法つかえるなら大丈夫だろ。

俺は、はやくここから出て、部活見学にも行きたいし。

今日こそ家庭部のスイーツビュッフェ食いたいし。

じゃ、死んだら蘇生よろしく。

あと、目は閉じてろ」


と言って、ライリーは詠唱を開始した。

同時に、杖が変形をはじめる。

フィーは言われた通りに目をつぶった。


ガショガショ、ガッシャン。


杖の先端、魔石のあったところが変形する。

大砲のような形になる。

詠唱とともに、杖の先に魔法陣が展開していく。

やがて、詠唱が終わる。


「【 神々しきセレスティアル裂傷バースト】!!」


光が走ったのがわかって、慌てて目を瞑った。

直後、まぶた越しでもわかるほど、眩い光が放たれる。

音はなく、ただ衝撃が伝わった。


「ライリー!!」


フィーの声が上がる。

しかし、返事はない。

俺は目をあけた。

そこに、光はなかった。

ライリーが、倒れていた。

四肢がへんな方向に折れ曲がっている。

目が半開きになっている。

そこに光はない。

そして息もない。

俺はライリーにかけよって、蘇生魔法を展開、発動する。


すぐにライリーは蘇生した。

変な方向に折れ曲がっていた四肢も元通りになり、呼吸がもどったことは、その上下する胸の動きでわかった。

とりあえず、眠ったままの状態となった。


ライリーを背負って、俺はおもむろに、結界があった方へ手を伸ばした。

あの弾力のある見えない壁は消えていた。


こうして俺たちは、脱出に成功したのだった。

程なくして、クラスメイトたちと遭遇した。


「いたー!!」


「先生!いました!!みつけました!!」


クラスメイト達が声をあげた。

その声を聞きつけて、教科担任達がやってきた。

教科担任たちは、ホッと胸を撫で下ろしている。


「よかった、地図にも反応がないし。

いったい何処にいたんだ?

いや、それよりも」


教科担任の一人は、俺の背中にいるライリーに気づくと、彼にいったいなにがあったのか聞いてきた。


「実は……」


俺とフィーは、なにがあったのか包み隠さず説明した。

見る見るうちに、説明を聞いた教科担任たちの顔が青ざめていく。


「と、とにかくヒューリンガムを保健室へ運ぼう。

スノードロップと、もう何人か付き添ってくれ。

レッドウェストは、ほかの先生にモンスターに取り囲まれた場所を案内してくれ」


スノードロップとはフィーのことである。

教科担任たちが目配せしあい、頷き合う。

そこからは早かった。

指示をだした教科担任が、ライリーを担ぎあげてほかの生徒とともに転移していった。


俺は言われた通りに、指示を出したのとは別の教科担任たちを案内した。

そこにはたしかに、モンスターの死骸が残っていた。

氷はとけつつあった。

俺は、教科担任たちに聞かれるまま、その当時の状況を説明した。


説明が終わると、俺も学園へ帰された。


そのまま保健室へ直行する。

途中で、慌てた様子のオーレリアと遭遇した。


「あ、良かった。

なんか色々あったって聞いて……」


「うん、まぁな」


「カキタやフィー、ライリーが大怪我してるって聞いたんだけど」


「まぁ、うん。

ライリーがな。

とりあえず、蘇生魔法使ったから怪我は大丈夫だよ。

でも無茶してな。

寝たままだったから、保健室に運ばれたんだ。

フィーはその付き添い」


「そっかぁ」


とりあえず、全員怪我がないことを知って安心したらしい。


「でも、なにがあったの??」


とくに口止めはされていないので、俺は起きたことを説明した。


「今は先生たちが現場検証してるはず」


「なるほど。

それなら、すぐに犯人がわかるかもね」


「犯人、か」


「うん、だって。

そんな突然に結界の中に、それもカキタたちだけ取り残されるなんて、ありえない。

結界の自然発生もありえない。

ありえないことが起きるのは、基本的に人が関わってるはず」


「それはそうだけど。

でも、謎というか不思議というか」


言ってしまえば、俺たちだけ標的にされたということだ。

標的にされる理由がない。

そして、誰かの標的になる理由がないのだ。

たとえばこれが、持ち物を隠されたり壊されたりと言った嫌がらせだったなら、まだわかる。

けど、今回のこれは、下手すると三人全員が死んでいた可能性だってあるのだ。


ルギィさんやその取り巻きたちの顔が浮かばなくはなかった。

たしかに、刺されるような身の危険も感じたことはある。

でも、彼は、彼らはそれを実行に移さなかった。

やろうと思えば、どこででもやれただろう。

でも、しなかったのだ。


仮に彼らがやったとして、どうして今回だったのか?


わからないし。

そうでないと、信じている。

だって、こんなことをして、捕まりでもしたら人生を棒に振ることになるのだ。

他人が気に食わないからって、ここまでやるだろうか?

やるなら、こちらを悪者に仕立てた方が、まだいいはずなのだ。

人生を棒に振るようなリスクを背負う必要がないのだから。


「カキタは、他の誰かを疑いたくないの?」


「まぁ、うん。

だってこれ、下手すると殺人未遂だぞ。

状況からして、生徒の誰かが関与したって考えるのが自然ってのはわかる。

わかるんだけど、でも、そんな目で誰かを見たくないじゃん」


そんな目で見てしまえば、オーレリアだって容疑者になってしまう。

それは嫌だった。

友達を疑いたくなんてない。


「そうだね。

とりあえず先生たちが動いてくれてるなら、遅かれ早かれ捜査局に通報するだろうし。

そうなったら、ちゃんと捜査局が調べてくれるはず。

全部、捜査局にまかせた方がいいよね」


オーレリアは、自分に言い聞かせるようにそう言った。


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