第10話 学園生活と授業風景と、あと部活動の話3

それから二週間は、なにごともなく過ぎた。


フィーに関しては、意外なことがわかった。

なんと、彼女は【時魔法】を特別に使える資格、いわゆる免許を所持していたのである。

彼女の家は、その魔法を使える者が多くその資格をほとんどの者が持っているとのことだ。

だとしても、いくら勉学に励むためとはいえ、国を出る許可がよく出たものだ。


昼休み、いつも通りのメンバーで昼食をとりつつ雑談をする。

そのなかで、フィーは自分のことを語ってくれた。


「んー、私、お父さんやお母さんより魔法が下手くそだから。

【時魔法】を暴走させる心配もないだろって判断されたみたいなんだよねぇ」


ようは国もちゃんと調べた、ということらしい。

しかし、それでも、だ。

それでも、そんな世界規模で影響を与えられる魔法を覚えた者を国外に出すだろうか?

疑問は尽きないが、でも国が良いと言ったのだから、良いのだろう。


「ねぇ、それより部活、どこにはいるか決めたのかな???」


頃合を見計らっていたのだろう。

エリ姉がそう聞いてくる。


「エリ姉はどこに所属してるんですか?」


「遊戯部だよ、おもしろいよー。

いろんなボードゲームあるし」


ニコニコと答えてくれた。


「リリアさんは?」


俺はリリアさんにも聞いてみた。


「龍球部ですよ」


「リリアはねー、エースだからね」


エリ姉が答える。

その横でリリアさんが言う。


「オーレリアのことも勧誘しようと画策中です」


俺はオーレリアを見た。


「すっごく迷ってるの」


と、オーレリアは言ってきた。


「迷ってる??」


「剣技部と拳闘部もいいなぁって」


ここでリリアさんが口を挟んだ。


「掛け持ちっていう方法もあるけど」


「お姉様、提案はありがたいんですけど。

できれば1つの部活に集中したいんです」


なんてやり取りをしているなかで、余裕綽々というか、悠々としている者がひとり。


「ライリーはどこに入るのか決めてあるの??」


エリ姉がライリーへ聞いた。

ライリーは自信満々に答える。


「迷宮実況部です!」


「え、あの廃部確定の??」


「今年入部希望者がいれば、とりあえず同好会として残るんすよ」


「あー、まぁ、そうだけど」


正気か、とでも言いたそうな顔である。

まぁたしかに、わざわざ廃部確定のところに入るようなもの好きはそうそういないだろう。

いろいろ大変そうだし。

次にエリ姉は俺に話を振ってくる。


「カキタはどこに入るか決めてあるの??」


「とりあえず、見学してからですけど。

家庭部か園芸部かな、と」


「「「え??」」」


エリ姉、リリアさん、そしてオーレリアの声が重なる。


「はい??」


「いや、てっきり運動系の部活に入るとばかり」


エリ姉がそう口にするよこで、リリアさんも頷いている。

オーレリアですら、


「カキタはてっきり、剣技部か拳闘部にはいるのかなっておもってた」


なんて言ってくる。


「勧誘もすごそうだしねぇ」


エリ姉がそんなことを口にする。


「勧誘??」


「そ、ルール上まだ勧誘はできないんだけどね。

今日の午後、部活説明会が終わったと同時に勧誘が解禁されるから」


そこで、エリ姉は俺をじぃっと見て、続けた。


「まぁ、攫われないように気をつけてね」


怖いこと言われたよ。

え、人攫い??

たかが、部活の勧誘で??

リリアさんですら、


「そうですねぇ。

皆、飢えた獣のような獰猛さでやってきますからね」


と言ってくる。

なに、俺喰われるの??

ちょっと不安になるよこで、フィーが、


「説明会、楽しみだねぇ」


とつぶやいた。

そういえば、フィーはどこに入るつもりなのだろうか??


「部活は、見学してから決めようかなって思ってるの」


フィーが俺たちにそう言ってきたのは、昼休憩後。

部活動説明会のために講堂へ向かう途中でのことだった。

部活動説明会のために、今日は午後の授業は無い。


「そっかー、じゃあ決まらない様なら、俺と一緒に迷宮実況部にはいろうぜ!」


ここぞとばかりに、ライリーは今から自分の入る部活に勧誘する。


「あ、いいかも。

動画でみたことあるし、楽しそうだし」


フィーが返す。

リップサービスなのか、それとも本気でそう考えているのかわからない。

そんなこんなで、全学年が講堂へ向かう。

一年生だけでなく、上級生も説明会に出席するのは勧誘メンバーとしてであったり、転部を考えている人向けという面もあるのだとか。

その道中で、オーレリアと遭遇した。

フィーが彼女に元気よく声をかける。


「あ、オーレリアちゃん!!」


オーレリアは、その声に気づきこっちを見た。

そして、あからさまにホッとしたような表情を浮かべる。


「さっきぶりー、一緒に講堂行こ」


フィーはやっぱりコミュニケーションお化けである。


「うん!」


オーレリアが笑顔で頷いたときだ。

視線を感じた。

直後、ライリーに肘で脇を突っつかれる。

そして、視線であっちを見ろ、と示される。

ライリーのその表情は、引きつっていた。

それとなく示された方を見ると、


「うわぁ」


思わず、声が出た。

ルギィさんが恨めしそうに、そして憎らしそうにこちらを睨んでいた。

目が合う。

俺たちを睨んでいるのは確実だった。

寮も移ったというのに。

と、そこで今度は背中をつつかれた。


「どうしたの?」


フィーが、首を傾げて聞いてくる。

位置的に、フィーは俺の影になっていて視線には気づかなかったらしい。


「なんでもないよ」


俺の言葉に、ライリーが続く。


「そーそー」


「そう?」


と、そこでフィーが何故か探るような目になった。


「それならいいけど」


それから、俺たちが見ていた方向へ視線をやる。

すでにルギィさんの姿はなかった。

フィーはすぐに切り替えて、オーレリアへ言葉をかける。


「ねえ!説明会終わったら、一緒に部活みてまわろうよ!」


「うん、いいよ」


オーレリアも微笑んで応えていた。



部活動説明会は講堂のステージにて、各部活の代表者が与えられた時間内に、PRするというものだった。

一番盛り上がったのは、剣技部や拳闘部のパフォーマンス、ではなく。


「すっげー!!」


「俺、絶対家庭部に見学いく!!」


「わたしも!!」


そう、家庭部であった。

家庭部は部長と副部長、そして、とあるものがステージに出てきたのだ。

そのとあるものというのが、


「クロカンブッシュか」


だった。

俺のつぶやきに、両隣にいたフィーとライリーが反応する。


「あのお菓子、クロカンブッシュっていうの??」


「シュークリームの山だ!スッゲェ!!

見学期間内なら、毎日作ってるのか、試食できるらしいな、絶対まわろう!!」


ライリーは涎を垂らしていた。

俺はフィーの疑問に答える。


「そ、主にお祝いごとの時に出すお菓子だよ。

別の名前もあるんだけどね。

中央大陸だと、西の方の国でメジャーな祝い菓子だから、ここヴェンデル国や、フィーの出身国であるアルストロメリア国だとなかなかお目にかかれないかな」


【クロカンブッシュ】は、ライリーの言葉通りの見た目をしている。

三角錐の台座に、小さなシュークリームを幾つも刺して積み上げ、山にしたものだ。

そこに、チョコソースや粉砂糖などをふりかけたりするのである。

今回の家庭部がつくったものは、キャラメルソースがかけてあった。


ちなみに、姉の友人が結婚式の二次会で店を利用した時、姉もこれを作っていた。

姉の友人が西の方の国の出身だったからだ。

そしてそれを手伝わされたのはいい思い出である。


「へぇー」


俺の説明を受けて、物珍しそうにフィーはステージ上の【クロカンブッシュ】を見ている。


ほぼ全ての部活動の説明は、部長と副部長によってされた。

ライリーが入ろうと考えている、【迷宮実況部】は顧問の先生が軽く説明するだけで終わった。

なんの魅力もない説明だった。

これでは、入部希望者などライリー以外皆無だろう。

雑学を話す時は、あんなにいろいろ喋ってくれたというのに。


部活動説明会が終わると、さっそく見学へとうつる。

ゾロゾロと一年生たちが動き始めた瞬間、それははじまった。


「新鮮な一年生じゃぁぁぁあ!!!!!」


「家庭部に遅れをとるなぁぁぁあ!!」


「あいつら、ズリィんだよ、毎年毎年食い物で一年生釣りやがって!!」


「進学にも有利な龍球部!!こちら龍球部!!

頑張ってる姿を見せて恋人をつくろう!!

部内恋愛おっけーな部活だよぉぉぉおおおお!!」


「はーい、家庭部見学希望の一年生はこちらにきてくださーい。

見学期間中は、スイーツビュッフェもやってますよー。

シュークリームだけじゃなく、中央大陸各地のスイーツもあります。

是非ご賞味あれ~」


「家庭部部長を黙らせろ!!」


「スイーツビュッフェはずりぃだろぉぉおおお!!!!」


「ずるくありませーん!!

立派な勧誘方法でーす!!」


「俺も勧誘すっぽかして行きたいんじゃボケェえええ!!

去年食ったローストビーフ美味かったぁぁぁあ!!」


なにこの熱気と殺気。

怖いよ。

各部活がここぞとばかりに声をはりあげ、勧誘してくる。

中には、


「新鮮な一年生みっけた!!

それ、ワッショイワッショイワッショイ!!」


と、文字通り担ぎ上げられ、連れ去られていく者もいた。

一年生が攫われていく光景は、怖いの一言に尽きる。

エリ姉が言ってたのコレかぁ。


「すごいねー」


フィーが楽しそうにニコニコと、その光景を見ている。


「まるで屍肉に群がる獣みたい」


言い得て妙だけど、もうちょっとこう、言い方。


「カキタ~」


喧騒の中、弱々しいオーレリアの声が届いた。

見ると、


「首席の子ゲットーー!!

それ、ワッショイワッショイワッショイ!!」


オーレリアがどっかの部活に拉致られていた。


「助けて〜」


ガチで逃げられないらしい。

なるほど、オーレリア自身がいつか口にしていたが、ここの生徒たちは化け物揃いというのがよくわかる。


オーレリアが助けを求めたものだから、化け物たちがこっちを見た。

化け物、もとい先輩の誰かが叫んだ。


「生徒会長ぶっ飛ばしたやつだ!!」


あちこちにいた、手の空いていた勧誘メンバーの視線が俺に集まり、突き刺さる。

彼ら彼女達の目の色が代わり、肉食獣さながらに飛びかかられた。


「ぎゃぁぁぁあ!!!???」


俺は逃げた。

入試の時並に、頑張って逃げた。

その様子を、ライリーとフィーがサムズアップして見ている。


助けろやぁぁぁぁ!!!!


乱戦混戦極まる中、俺はなんとか逃げ延びることが出来た。

今日は見学は諦めて、寮に戻ろう。

そう思った時だ。


「君、大丈夫??」


声を掛けられた。

見ると、私服姿の生徒がいた。


「へ?あ、はい」


「勧誘、驚いたでしょ?」


「え、えぇ、はい」


「もし良かったら、休んでいく?」


もしや勧誘か、と思った。

しかし、その生徒はすぐに、


「あ、勧誘じゃないよ。

まぁ、そうとってくれてもいいけど」


なんて言ってきた。

なんだろ、どっかで会ったような気がする。

気のせいかな?


「どうしたの?

俺の顔になにかついてる?」


んー、思い出せない。


「え、と、休むって??」


「こっちこっち」


手招かれるまま、着いていく。

そこは別棟だった。

他の棟よりも古くてぼろい。


「旧校舎なんだよ」


「へぇ」


「ほとんどの部活動や同好会は、あっちの普通の校舎や部活棟で部屋を割り当てられてる。

でも、部屋を与えられない同好会もあるんだ。

そういう場合は、月ごとに申請書を出さないとなんだけど」


「はぁ」


「面倒くさくて、ここで適当に活動してる」


いいのか、それ??

ダメなやつなんじゃ……。


「あ、同好会の名前、まだ言ってなかったね」


微笑みつつ、その人は旧校舎へと入る。

俺もそれに続く。


「お茶菓子研究会っていうんだ。

まぁ、早い話がおのおの好きなお菓子やお茶を持ち寄って、好きに過ごす。

そこの小説や漫画読んだり、他に人がいたら適当に駄べッたり、持ち込んだゲームで遊んだり、昼寝したり。

そんな風に過ごす同好会だよ。

今日は俺だけだし。

まぁ、好きなだけ休んでいってよ」


今日は、ということは、他の日には別の人もいるのか。


通されたのは、空き教室を改装した部屋だった。

絨毯が敷かれ、少し古臭いデザインの一人掛けのソファと、二人掛けのソファが置いてある。

その中央には、やはりデザインが古めのテーブルが鎮座していた。

部屋の隅には、小さめの冷蔵庫、テレビ、古いタイプのテレビゲームが置いてある。

電気も通ってるのか、ここ。

ちなみに、冷蔵庫は一番上が冷凍庫になっているタイプだ。

それ以外のスペースには、所狭しと本棚が並び、本がぎゅうぎゅう詰めになっていた。


「アイス食べる??

オレンジ味しか無いけど」


冷凍庫から棒アイスを取り出して、見せてくる。


「あ、はい、頂きます」


俺はアイスを受け取って食べ始めた。

立ったまま食べていたら、


「ほら、好きに座りなよ」


一人掛けのソファをすすめられた。

先輩の方はと言えば、二人掛けのソファに寝転んでアイスを食べている。


「失礼します」


俺は言葉に甘えて、ソファに腰をおろした。


「君、真面目だねぇ。

もしくは、実家はマナーに厳しい家なのかな??」


「んー、どうでしょう??」


俺はアイスを食べながら、あちこち見回す。

先輩の方はあっという間にアイスを食べ終わっていた。

身を起こすと、今度は冷蔵庫の方の扉をあける。

そこから、焼いたパイ生地を皿にして盛られたシュークリームが出てきた。


「家庭部部長に泣きつかれて、説明会用のシュークリームを作る手伝いをした報酬としてもらってきたんだ」


「サントノーレだ」


「おや、サントノーレを知ってるんだ。

それじゃ、クロカンブッシュも知ってるんだね?」


「はい。実家が飲食店で菓子も取り扱ってるので」


【クロカンブッシュ】と【サントノーレ】はどちらも小さなシュークリームを積み上げた祝い菓子である。

このふたつの違いは、【クロカンブッシュ】は山のように積み上げたもの。

【サントノーレ】は、それより小さく積み上げたものになる。

パイ生地とミニシュークリームのケーキと言った方が正しいかもしれない。

少なくとも、姉はそうやって区別していた。

沢山盛るか、小さく盛るかの違いしか知らないが、もしかしたら、ほかに違いがあるのかもしれない。


「なるほどねぇ」


言いつつ、先輩は俺に紅茶をいれてくれた。

紅茶の注がれたカップを受け取りつつ、俺は先輩を見る。

やっぱり、どこかで見た顔だ。

それも、この学園に入ってから。

上級生の知人は何人かいるけれど、その中の誰でもない。


「……さっきから俺の顔ジロジロみて、どうしたの??」


「いや、あの、どっかで会ったことあるかなぁっておもって」


「え、気づいてない??」


「はい??」


俺はさらに穴が空くほど、先輩の顔を見る。

姿全体をみる。

首を捻るばかりだ。


「あ、そっか」


やがて、先輩の方がなにか思いついたらしく、自分の頭をクシャクシャにした。

かなりだらしない印象になる。

さらに教室の隅で制服に着替えて、猫背になって俺の前に改めて立った。


「あ、ああああ!!!!」


その姿には見覚えがありすぎた。


「隣の部屋に越してきた先輩のひとり!!」


あの甘い焼き菓子の匂いを漂わせていた上級生の一人だった。


「大当たり~。

ふだん、ちゃんとした格好するのめんどくて、コレで過ごしてるんだけど。

おかげで誰も俺の事にきづかないんだよねぇ」


「はあ、なるほど」


「俺たちが引っ越してきた理由、知りたい?」


「いえ、べつに」


「そこは、聞きたいっていうとこだろ」


「えー」


「そんな面倒くさそうな声出すなよ」


ケラケラ笑って先輩は、一方的に語り出した。


「前の寮で菓子パーティして騒ぎすぎてさ。

加えて、完全なる偶然でネズミとゴキが出て、追放処分受けたんだよ。

部屋はちゃんと掃除してたから、ネズミとか出たの、アレ絶対ほかの部屋のやつのせいだぞ」


騒ぎすぎたのも原因なんだから、一概に言えないのでは。


「騒ぎすぎたって、そんな騒ぐことあります??」


「まぁ、ほら、ボンボン菓子、つまりはボンボン・ア・ラ・リキュールで酔っ払う事だってあるんだよ」


ボンボン菓子、もしくはボンボン・ア・ラ・リキュールとは、ウィスキーボンボンのことである。

この国ではチョコレートを使ったウィスキーボンボンが主流だ。

飲酒扱いにはならないだろうが。

それでも酔っ払うとは、どれだけ食べたんだ。


「こっちの寮に移ってからは、騒いでないですよね?」


「そりゃ、俺たちだって反省くらいするさ」


それもそうか。

等と納得していると、


「反省を活かして、音が漏れない魔法を頑張って覚えたからな!」


なんて堂々と言われてしまう。

頑張る方向はそれでいいんだろうか。

まぁ、隣室の俺たちに害がなければそれでいいのだけど。


そこそこ雑談をして、それから本棚を物色して時間を潰した。

小説に図鑑、漫画に百科事典と幅広いラインナップに関心した。


「明日はもうちょっとジャンクなお菓子も食べる予定だから。

気が向いたら、また来なよ」


も??

ほかにもお菓子を用意して食べるのだろうか。


気づくと日が暮れていた。

寮の門限もあるので、俺は先に旧校舎から出た。

先輩の方は後片付けをしてから帰るとのことだ。


「そうします」


かなり居心地が良かった。

ほかの部活の見学もしたいけれど、でも、また明日来ようと即決してしまう程度には、俺はあの空間を気に入っていた。


どうせまた後で寮にて顔を合わせるのだが、先輩とは一旦別れの挨拶を済ませた。

寮に戻る道を歩いていると、俺は設置されたベンチにグッタリと座っているオーレリアに遭遇した。


「あ、おつかれさん」


俺の言葉にオーレリアが顔を上げる。

ついでに手もあげて応える。


「つかれたー。

カキタはよく逃げきれたねぇ」


「まぁ、運良くな」


「どこ見学したの?」


「同好会の方を見てた」


嘘では無い。


「運動系の部活には入らないの??」


「あー、うん」


「みんな、入部してほしがってたよ。

目が獲物を狩る肉食獣のそれだったし」


「フィーもそんなこと言ってた」


「そういえば、フィーやライリーは?

てっきり一緒だとばっかり」


「あの騒ぎだったからなぁ。

逃げるのに夢中だったから」


たぶん、二人で見学に行ったんだと思う。


「そっかー。

フィーは結局どこに入るんだろ?」


「見て決める、とは言ってたけど」


「まぁ、まだ時間はあるからゆっくり決めるのかな?」


「たぶんな」


なにしろ本人がいないのでなんとも言えない。


「ね、今日はこんな騒ぎになっちゃったし。

明日は四人であちこち見てまわらない?」


「……え」


「?

都合悪い?」


「いや、そんなことは無いけど」


「それじゃ、ライリーにも言っておいてね!

私はフィーに言っておくから」


お互い連絡先を交換してるんだから、自分で言えばいいのに。

もしくはグループメッセージを使えば一発だ。


「わかったよ」


しかし、俺も疲れていたのだろう。

提案はせずに、了承して終わった。

そして、寮へたどり着く頃に気づいた。


「お菓子先輩の名前、聞いてなかった」


そもそも挨拶すらまともにしていないし、こちらから名乗ってもいなかった。


でも、まぁ、同じ寮なわけだし。

明日も旧校舎には行く予定だ。

どこかで挨拶と自己紹介の機会くらいあるはずだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る