第9話 学園生活と授業風景と、あと部活動の話2

食堂で朝食を食べていると、ライリーがやってきて、テーブルを挟んで目の前に座った。


「おはよぉ」


ライリーが欠伸混じりに言ってくる。


「おう、おはよう」


「いやぁ、上級生と一緒の部屋だと、気疲れするな。

でも、あのルギィたちと一緒より全然マシだけど」


それから他愛ない話をして、朝食を食べ終え。

俺は自室へ、ライリーは元の部屋へと戻ろうとした。

その際、食堂の出入口でルギィさんとすれ違った。

しかし、お互い無視するような形で通り過ぎた。


通り過ぎる際、ルギィさんを何気なく見ると、憎々しそうな表情をしていた。


それから、部屋で身支度を整えて部屋を出た。

部屋を出るとライリーが待っていた。

一緒に寮を出て、しばらく歩いていくと昨日と同じように、フィーがエリ姉と一緒にいるところに遭遇した。


「お、来たな。

少年たち」


エリ姉が楽しそうに言ってくる。

どうやら、俺たちが来るのを待っていたようだ。

お互い、朝の挨拶を済ませると、俺はすぐにフィーへたずねた。


「体、大丈夫か?」


フィーはニコニコと返してくる。


「うん!」


続いてライリーが、


「本当に大丈夫か??

あんなにたくさん血を吐いてたろ??」


「大丈夫!」


サムズアップして答える。

顔色はいいし、体がだるそうな感じもないので、嘘ではないのだろう。


「ごめんねぇ、心配かけちゃって。

なにしろ久々に人に使ったからさ」


と、フィーは言ってきた。


「オーレリアに聞いたけど、生徒指導室に連れていかれたんだろ?

怒られたんじゃないのか??」


俺の質問にエリ姉が反応した。


「怒られる??」


どういうこと?

と、エリ姉がフィーを見る。

フィーは頬をポリポリとかいて、昨日の実技授業のことを説明した。

時魔法についても、包み隠さずに説明している。


おいおいおい、大丈夫かこの子?!


エリ姉は本当に驚いたようで、目をまん丸にして聞き返した。


「時魔法って、え??

吐血した??」


エリ姉はどこから突っ込もうか迷っているようにも見えたし、心配するのが先か、怒るのが先か、やはり迷っているように見えた。


「大丈夫なの?!

いくらダンジョン内のダメージは無効化されるって言っても、今日、血を吐いた翌日だよ?!」


「大丈夫ですよー。

私、体は意外と頑丈な方なんで」


エリ姉が、フィーの額に手を当てたり、顔色を確認したりしている。


「そういう問題じゃないでしょう!!」


そりゃそうだ。


「全然平気ですよー。

昨日も生徒指導の先生に、体は大丈夫かと物凄く聞かれましたけど。

大丈夫でしたって言いましたし」


その理屈だと、高熱が出て咳や鼻水が酷くても本人が大丈夫って言い張ったら大丈夫ということになってしまう。

俺は、ライリーの顔を見た。

昨日、フィーの救命活動をしたのはライリーだ。

ライリーは、


『マジかよ』


とでも言いたそうな表情である。


「心臓止まって、息をしてなかったのは大丈夫に入ると思うか??」


ライリーは、俺に耳打ちしてきた。

入らないと思う。


「フィー、今日は休んだ方が良く無いか?」


さすがに俺はそう提案した。

フィーには生徒指導室でのことや、時魔法をつかったことによるペナルティなど、確認したいことが沢山あった。

けれど、それよりもフィーの体調がやはり気がかりであった。

エリ姉も口にしたように、ダメージが無効化するといったって、いくらなんでも昨日の今日で動くのはやはり止めた方がいい気がする。


「大丈夫大丈夫♪」


「カキタ君の言う通りだよ。

出席日数や授業のことを気にしてるなら、多分大丈夫だから今日は寮にもどろうか」


エリ姉が続ける。


「ほとんどの一年生は、多分今日は休むと思うから」


俺、ライリー、フィーの三人がエリ姉を見る。


「最初の実技授業の疲れって翌日に出るから。

毎年そうなんだよ。

だから気にせず休んでも平気なはずだよ」


改めて思う。


「とんでもねぇ、学校だな」


エリ姉に聞こえていたらしく、苦笑された。

けっきょく、フィーはエリ姉に説得され事もあって休むことになった。

欠席の連絡は、今回はエリ姉がしてくれるらしい。


フィーは、


「大丈夫なのになー」


とボヤきながら、エリ姉に付き添われ寮へと戻っていった。

俺たちはその背を見送ってから登校した。

途中でリリアさんと、オーレリアに遭遇した。


「フィーは?」


オーレリアが単刀直入に聞いてきた。


「実は……」


俺とライリーは、事情を説明する。

説明を聞いてリリアさんが、


「あー、うんうん。

そうだよねぇ」


となっとくしていた。


「私なんて、1週間くらい鬱だったよ。

なんでこんなに自分はダメなんだろうってなってね。

加えて寮生活でしょ?

やっぱり心細くてねぇ。

いつでも家とはメッセージや電話で連絡できるんだけど、それでも心細かったし」


程度の差こそあれ、だれでも通る道のようだ。

まぁ、フィーのメンタルはめたくそ頑丈そうなので、そっち方面では心配はしていないが。

生徒玄関まで来るとリリアさんとはわかれた。

俺たち3人は一年生の教室へむかう。


「フィーにいろいろ言うのはまた今度かなー」


教室の前でわかれるとき、オーレリアがそう言った。


「まぁ、明日以降のがいいだろうな」


オーレリアが隣の教室へ入っていく。

それを見届けてから、ライリーが聞いてきた。


「フィーに色々言うって、何の話だ??」


「あー、実はな」


俺は簡単に、今朝の散歩の時のことを説明した。


「たしかに、本来使っちゃいけない魔法なんだもんな。

それにあれだけ身体に負担がかかるとあっちゃなぁ。

昨日は色々仕掛けてあったダンジョン内だったからよかったものの、普通にあんな魔法ばかすか使ってたら命がいくつあっても足りないだろうし」


そうだ魔法のことなら、ライリーも詳しいのだ。


「俺からも注意しとこ」


ライリーとしても、フィーには思うところがあったのだろう。



教室に入ると、なるほど、たしかに昨日のような賑わいはなかった。

登校している生徒はまばらである。

やがてクラス担任がやってきて朝礼がはじまった。

簡単な朝礼が終わると、五分ほど時間をおいて授業がはじまった。

今日は数学からである。


そうして座学の4時間が終わる。

とは言っても、欠席者多数だったので自習として問題集をといたり、配られた小テストを解いたりで午前の授業は終わった。

教科担任たちも、ほんとに慣れているらしく、毎年のことなんだなと実感させられた。

午前の最後の授業は、世界史だった。

そのため、


「昨日の雑学の続き聞きたい人ー」


意外にも、出席者全員が雑学を聞きたがった。

そのため、教科担任は最初から授業をせず、雑学をおもしろおかしく話すだけで終わった。

話している教科担任は楽しそうだった。


そんなこんなであっという間に、午前の授業が終わる。


学食に行こうと教室を出たところで、リリアさんとオーレリアと、あとエリ姉とも遭遇した。

そのため、今日も一緒に昼食を摂ることとなった。


「フィーはずっと、大丈夫なのにって言ってたよ」


と、学食にてフィーの様子を教えてもらった。

なんだかんだと、今日も楽しく昼休憩がおわった。


午後は、美術室にて、美術の授業を二限やって終了である。

美術と一纏めにされてはいるが、絵を描いたりだけではなく、図工も兼ねていていろいろ作れるらしい。

最初は適当な画材と、廃材の山をみせられて、好きに作れと言われた。


「できたー」


ちゃちゃっと、俺は廃材から虫取り網とカゴをつくった。

それを見ていたライリー含めたクラスメイトたちが、美術の先生に進言する。


「せんせー!!

外行ってきていいっすか?!」


高校生ではあるが、遊ぶ気満々である。

欠席者が多く、人数も少ないこともあって許可がでた。

そして、はじまる虫取りバトル。

一番多く虫をとれたやつが優勝となる。

しかし、いつの間にか途中から学園の敷地内に生息する野良スライムで、一番デカいやつを捕まえたやつが優勝と、ルールが変わっていた。


その様子を、一部の女子がちょっと冷たい目で見ていたが気にしないことにした。


敷地内を走り回って汗をかいたため、その日の授業が全て終わると直ぐに寮へもどってシャワーを浴びた。

夕食までの自由時間に、ライリーと菓子を貪りながらだべっていた時だ。

会話の流れから、委員会と部活の話になった。


「二週間後に部活説明会をするらしい」


これは今日の朝礼で担任から説明があった。

どんな部活があるのかも、それを記載したプリントも配られた。

説明会のあと、さらに二週間後ほど放課後に各部活を見学できるらしい。


「気になってるとこあるか??」


ライリーに聞かれる。


「そうだなぁ」


俺は配られたプリントを見ながら、返す。



【剣技部】【拳闘部】【格闘部】【龍球部】【排球部】【卓球部】【蹴球部】【庭球部】【陸上部】【水泳部】【吹奏楽部】【家庭部】【遊戯部】【迷宮実況部】【園芸部】【散歩部】【昼寝部】【美術部】【探偵部】などなど。


これに加え、いわゆる同好会も多数存在する。


「家庭部か、園芸部かなぁ」


家庭部は、料理や裁縫などを作るのがメイン活動であり、場合によってはコンテストに出るらしい。

園芸部は、さまざまな植物の世話をし、やはり育てた植物をコンテストに出したりするらしい。

入部は強制なので、それなら慣れているものか興味のあるジャンルの部活に入部したい。


「えー、お前なら拳闘部とかじゃね?

もしくは剣技部」


「えー」


「なんだよ、嫌なのか?」


「体育会系は上下関係がめんどくさい」


「あー」


「そういうお前はどこにするつもりなんだよ?」


「そうだなぁ」


ライリーは部活一覧を見る。


「この【迷宮実況部】、とか??」


「なにその部活?」


「え、知らんの??」


「知らない」


「マジか」


ライリーは素で驚いているようだった。

迷宮、つまりダンジョンに潜って実況する部活なんだろうな、というのは名称からわかる。

しかし、そんな部活など小学校中学校にはなかった。

すぐに、空中で指を滑らせる動作をする。

それから、とある動画投稿サイトを表示させ、俺に見せてきた。

さまざまなダンジョン実況の動画が並ぶ。

その中の1つに触れて再生させる。


「これ、五年前のやつだけど。

英雄学園の【迷宮実況部】が投稿した動画。

同じジャンルの動画だと、今のとこ再生数は上位になってる」


再生数のところを見る。

三億回再生されているらしい。

動画内では、英雄学園の生徒がたった一人でダンジョンに潜る様子が映し出されている。


「動画が投稿された直後は、サイトのサーバーを落としたってことである意味伝説になった動画だよ」


「へぇ」


「この学園入ったら、絶対入部しようと思ってたんだ」


俺が動画を見ている横で、ライリーは楽しそうに言う。


「なにがそんなに魅力的だったんだ??」


「気づかないか??」


「悪いけど、実況系は見たことないんだ」


ダンジョン実況という動画ジャンルの存在は知っていた。

なんなら、オススメとして出てくることもあった。

しかし、興味がまるでわかなかったので、今まで見たことが無かったのだ。


「マジか、普段お前なに見てるんだよ?」


「……スライム幼稚園」


「は?」


「ほら、モンスターの赤ちゃんとか保護する施設あるだろ?」


「あるな」


「あれで赤ちゃんスライムだけ保護してる施設があるんだけど。

だから、幼稚園って呼ばれてる。

赤ちゃんスライムが運動場を遊び回ってる様子をライブで映してくれてるんだよ。

疲れた時とか見ると、いつの間にか時間が溶けてる」


説明しつつ、実況動画を見続ける。

そして、気づいた。


「この先輩、一人でダンジョンに潜ってるのか」


五年前の部活動の動画なので、この人は先輩ということになる。

そして、留年していなければとっくに卒業しているだろう。

トレーニングウェアで実況しているので、学年までは分からないが。

おそらく、背格好や顔の幼さからして一年生だろうと思われる。


「そういうこと」


ライリーが、大正解だ、とでも言いたげにうなずく。

俺は続けた。


「出てくるモンスターの種類からして、ダンジョンの難易度は中ランクから高ランクってところか」


「お、わかるのか?」


「俺の……」


義兄予定の青年の顔が浮かぶ。


「兄ちゃんが、猟師もしててたまにダンジョンに潜ってるから、いろいろ話は聞いてるんだ」


「あー、冒険者もしてるのか」


「まぁ、そんな感じ」


冒険者。

ダンジョンに潜る者たち、あるいはモンスターを討伐したり、さまざまな薬草や素材などを探し持ち帰ってくることを仕事にする者たちの総称だ。

かなりクラシックな呼び方であるが、定着しているので死語となり消えていく素振りはまったくない。


義兄予定のラト兄は、冒険者として時折ダンジョンにも潜っているのだ。

少し前に、そのダンジョンででっかい宝石を見つけてきて、それを手土産に改めて姉にプロポーズしたのである。

式で、姉は装飾品として加工されたその宝石を身につける予定である。


「つーか、お前兄ちゃんもいたのか」


「正確には兄ちゃん予定、なんだけどな」


「なんだそれ?」


話がだいぶ逸れそうだったので、俺はダンジョンのことについて話をもどした。


「この動画はつまり、若干十代半ばにして高ランクダンジョンに一人で潜ったことと」


俺は動画内で、バッタバッタとモンスターを倒しまくる少年の姿を見ながら続ける。


「本来なら苦戦するはずのモンスターを次々軽快に倒していくのが受けたってことか」


「そういうこと」


十代半ばでダンジョンに挑戦するのは珍しいことではない。

珍しいのは人数だ。

壁役やら回復役やら、とにかく他の役割を担う者たちとチームを組んで潜るのがふつうである。

一人で潜るなど、自殺行為にもほどがある。

それとも、この先輩は前向きな自殺志願者だったのだろうか?


この辺のことは、ライリーが説明してくれた。


「なんでも、元々この人は実況動画が好きでいろいろ見てたらしいんだよ。

で、自分もいつかは、って考えていた。

そして英雄学園に入学して、そういう部活を作ればいいんだって思い至ったらしい」


「それで部を立ち上げた、と??」


「そういうこと。

入学してすぐに動いたらしい。

この動画は、部を立ち上げた後で実績作りのために撮った動画らしい」


なるほど。

入学してすぐに部を立ち上げるために動いた、ということは、やはり一年生らしい。


「まぁ、でも。

最初はこの人しかいなくて、同好会からのスタートだったらしい。

部員を集めるためにも、インパクトのある動画をってこともあって、この動画がつくられたんだ」


なるほどなぁ。


「で、この動画がバズって腕に覚えのある入部希望者が続出。

ほかの部活から目の敵にされた、なんて逸話も残ってる」


「へぇ」


2000年の歴史のある学校で、たった五年前の逸話だ。

それでも、五年もあれば伝説も逸話も残せるということだろう。


「じゃあ、今も人気なのか、この部活」


「んー、それがさ。

立ち上げたこの人が卒業したら、不人気になったらしくて」


まぁ、よくある話だ。


「去年までは、4人所属してたけど全員卒業して。

今年誰も入部しないと廃部になるらしいんだ」


「なるほど。

じゃあ、廃部になる前に入れるから良かったな」


「まぁ、でも入部希望者が俺だけだと同好会になるらしい」


それはまた、人数集めが大変そうだ。

なんて、俺が呑気に考えている間に、動画は終わりに差し掛かっていた。


「まぁ、それなら最初から実権握れるし、気楽に活動出来ていいじゃん」


俺は俺で、特にこれといったやりたいこともないので、適当な部活に入って、緩く活動できればそれでいい。




数日後。


その日は休日だった。

俺は、すでに日課となった朝の散歩から帰って来たところ、ルギィさん含めた数名が、学園の職員と警備員に付き添われそこそこの大荷物を持って寮を出ていくところに出くわした。


その時、彼らにギロリと睨まれた。

しかし、なにも言わずに彼らは寮から去っていった。

寮に入ると、寮長がいた。


俺は挨拶をした。


「おはようございます」


「おはよう、レッドウェスト」


「あの、ルギィさん達って……」


「あぁ、引っ越しだ」


「えっと、この前のことで?」


「まぁな。

でも、他の寮でもいろいろあったんだ。

それでちょうどいいからってことで、彼らと交換になったんだ」


他の寮でも、なにかしらトラブルがあって、生徒の交換となったのか。


「なるほど」


去っていく彼らの中に、ライリーの姿はなかった。

ということは、ライリーはこの寮に留まることになったという事だ。

ちょっと安心した。


ちなみに、入れ替わりでこちらの寮に移ってくるのは上級生らしい。

逆に、ライリーはもっと気を使うことになるんじゃないだろうか。


「それで、ヒューリンガムから聞いてると思うが」


【ヒューリンガム】とは、ライリーのファミリーネームである。


「部屋割りが、今日から変わるからな」


……は??

待って何それ聞いてない。


「お前のとこにヒューリンガムが移動する。

で、ヒューリンガム達が使っていた部屋を、別の寮から引っ越してくるやつらが使うことになった。

ヒューリンガムの奴には、昼までに引っ越し作業終わらせるように言ってある。

お前の部屋の空いてる方の鍵もあいつに渡してあるから」


この話を聞いて俺は、すぐにライリーが寝ている隣室のドアを叩きに行った。

ライリーは直ぐに出てきた。

寝癖のついたボサボサの髪を手でかきながら、なんなら欠伸もしている。


「なんだよー、今日休みだし。

ようやっと気が楽になったのに」


眠気まなこで、ブツブツ文句を言ってくるライリーを俺は問い詰めた。


「部屋割り!!変わる!!俺知らない!!

お前知ってる!!」


覚醒しきっていない頭にも伝わるように、なかば叫んだ。

ボーっとしていたライリーの頭がだんだんハッキリしてきたのか、やがて、ハッとした顔になる。

そして、手をポンっと叩いた。


「あ、言うの忘れてた」


忘れてた、じゃないよ!!


「今日、別の寮から新しい人来るんだろ?

なら、部屋をさっさと空けないと!」


「えー、まだ大丈夫だろ」


だぁぁぁ!!

もう!!


「昼までには終わらせないとだろ!!

とにかく、さっさと顔洗ってこい!

朝食たべてから片付けるぞ!!」


入学して数日、そして隣の部屋への移動とはいえ、早く終わらせるに越したことはない。

ライリーはまだ眠そうにしながら、それでも着替えてすぐに出てきた。

そして、俺と一緒に寮の食堂へとむかう。

休日ではあるが、寮の食堂ではちゃんと食事ができる。

ちなみに、学食の方は休みである

ありがたい限りだ。

さっさと朝食を食べると、すぐに俺たちは作業に取り掛かった。

まぁ、個人のスペースとはいえ数日もあれば部屋というのは散らかるものらしい。

部屋の窓を全開にして、出入口も開けっ放しにする

通りかかった寮長に言って適当な箱を用意して貰う。

その中に手当り次第ライリーの私物をぶち込んでいく。

バタバタとそれを繰り返し、やがて部屋の中がスッキリした。

次は掃除をしなければ。

そこへ、早朝によく顔を合わせる先輩方が物見遊山よろしくやってきた。


「あ、なんかやってる」


「どしたどした??」


「部屋替えか??」


そう聞かれた。


「えぇ、俺じゃなくてアイツがですけど」


ヒィヒィ言いながら、荷物を運び出していくライリーを見る。


「手伝おっか?」


1人がそう言った。

聞こえていたのだろう、ライリーが目を輝かせる。


「いいんですか!!」


ライリーの言葉に、手伝いを申し出てくれた先輩が返す。


「自分の部屋は掃除も片付けもしたくないけど、他人の部屋の掃除はなんか楽しいから」


それは、まぁ、うん。

わかる気がする。

俺と同じ気持ちなのか、ほかの二人の先輩達もうんうんと頷いている。

そこからはあっという間に作業が進み、お昼前には片付いてしまった。

俺とライリーは、先輩達に頭を下げた。


「本当にありがとうございました。

助かりました!!」


ライリーの方は深々と頭を下げ、感謝した。

先輩達はいい暇つぶしが出来た、みたいなことを言って去っていこうとしたので、


「あ、よかったらこれ、皆さんで食べてください!」


姉から毎日のように届くお菓子の詰め合わせを、箱ごと渡すととても喜ばれた。


「黒猫亭のやつだ!!」


「やったー!!」


「俺、このナッツの入ったクッキーもーらい!!」


わやわやと、箱を掲げながら去っていった。

先輩達の姿が消えると、ライリーが言ってきた。


「なんか、お前、母ちゃんみたいだな」


「蹴るぞ。

つーか、お前もあらためてお礼言いに行けよ」


「わかってるよ」


その後は、運び込んだライリーの荷物の荷解きを手伝って時間が溶けた。

気づくとお昼だったので、寮の食堂へむかおうと部屋を出た。

その時、廊下で見慣れない上級生たち三人とすれ違った。

一人は生真面目そうな人、もう一人は言い方は悪いがチャラついた感じの人、最後の一人はモサモサ髪で猫背の人だった。

お互い会釈する。


彼らは、今朝までライリーとルギィさんのいた部屋へ入っていく。

寮を移ってきた上級生とは彼らのことか。

見た感じ、トラブルを起こしそうな人達には見えなかった。

モサモサ髪の人からは、焼き菓子のような甘い匂いがした。

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