第3話 入学式と余興 後編
担任がクラスメイトたちを落ち着かせる。
そんな担任へ俺は声をかけた。
「すみません、教卓の中見てもいいですか?」
「?」
「いや、この人たちを、ふんじばっておこうかとおもって。
結束バンドとか紐とかがあればな、と」
担任が目を丸くする。
担任はまだ若い。
たぶん、新人のような気がする。
もしくは……。
俺が思考を巡らせている横で、担任が教卓から文房具を漁った。
「無ければテープでもいいですよ」
と言ったものの、帰ってきたのはすまなそうな表情だ。
「どちらも無いな。
だいたいのものは準備してあるんだが」
まぁ、そういう事にしておこう。
そういうことなら、仕方ない。
「……そうですか」
俺は教室を見回した。
使えるものはあちこちにあった。
器物破損になるが、いちおう非常事態らしいから、これくらい許されるだろう。
俺は、窓に近づくと遮光のために設置してあったカーテンを引っ掴んで、ちょっと乱暴に取り外す。
クラスメイト達がザワつくのをやめて、こちらを見てくる。
そんな中、
「なにをしてるんだい?」
担任が聞いてきた。
「いや、この人たちをふんじばるロープ代わりにしようかとおもって」
言いつつ、俺は担任の表情をうかがう。
驚きを通り越して、どん引いていた。
顔をヒクヒクさせている。
「えっと、もしかしてこういう事態の訓練とか受けたことあったりする?」
担任が顔をヒクつかせながら聞いてくる。
俺の脳裏に、中学時代の楽しかった農業ギルド主催の勉強会、その思い出がよみがえる。
「……まぁ、嗜む程度には」
クラスメイト達が、またザワついた。
嗜む??
と首を傾げている。
人をふんじばることを嗜むって、なに?
とやっぱりザワザワしている。
ついには、
「強いけど、そういう趣味の子なのかな?」
「お、おとなだな……」
という、誤解まで生じつつあった。
なんなら顔を赤らめて、ちょっと興奮している。
耳年増な子だな。
その一言は、おそらく発した本人達にはその気はなかっただろう。
でも、こんな状況でも場を和ませる効果があった。
俺はカーテンを割いて、ロープ代わりにする。
それから教室に向かって声をかけた。
「あの、誰か!付与魔法ができるひといませんか?
できたら、強化系のヤツがいいんですけど」
割いたカーテンを、一時的にでも強化魔法で頑丈にして、なるべく解けにくくしたいのだ。
クラスメイト達が顔を見合わせる。
いないかな?
仕方ないか。
そう考えた矢先、手があがった。
少年である。
「おれ、一応付与魔法つかえる!!」
「じゃ、こっちきて、縛るから強化よろしく」
「了解!」
そこからは手際よく、作業を進めていくことができた。
それを見ていたほかのクラスメイトたちが、おずおずといった様子で声をかけてくる。
「あの、なにか手伝えることある?」
「あ、自分も付与魔法つかえるけど」
「じゃあ、そっちの侵入者たちをこうやって腕を後ろ手にして、割いたカーテンをこうやって縛ってくれる?」
いつ、気絶から目覚めるかわからない恐怖心もあっただろうに、クラスメイトたちは頑張ってくれた。
曲がりなりにも、【次代の英雄】を育てる学び舎の生徒ということだ。
それはそうと、念の為に縄抜けができない縛り方を教え、それを実践してもらった。
その様子を担任が珍しそうに見つめていた。
俺は逆に担任の様子を観察する。
担任は気づいているのかいないのか、なにか考える素振りを見せている。
さて、作業が終わった。
侵入者たちは目覚めることはなかった。
念の為に彼らの口へ手を当てる。
脈も確認する。
死んではいないな。
覆面を取っ払う。
全員が二十代から三十代の男性だった。
「指名手配犯とかではなさそうだな」
担任が言った。
悪者だが、有名人ではないらしい、と言いたいようだ。
フィーがそんな中、俺に近づいて声を掛けてきた。
「あ、あの、だ、大丈夫??怪我してない??」
空気こそ、緩んだものの、彼女は今にも泣きそうである。
よほど怖かったのだろう。
ということは、彼女はこういったことに慣れていないと見える。
「とりあえずは大丈夫」
まぁ、仮に怪我をしても自分でなんとかできるが、彼女の気遣いはうれしい。
その横で担任が、現状の危機的状況について通信魔法を使い、ほかの教師陣へ確認を試みようとする。
「ダメだな。妨害魔法が仕掛けられてる」
また不安が広がる。
他のクラスメイトたちも、メッセージ機能やら端末やらを使うが、外との連絡手段が絶たれたことが突きつけられただけで終わった。
クラスメイトの誰かが言った。
「ほんとに占拠されたんだ」
不安に満ちた声。
それが伝播する。
少しだけ緩んだ空気が、また元に戻ってしまう。
「わたしたち、どうなっちゃうの??」
こちらも女子で、やはり泣きそうな声である。
また、誰かがいう。
この不安や恐怖心を打ち消すように、勇気づける。
「大丈夫だよ!
だって先生方や生徒会の人たちだっているんだし」
そこで、俺を見る。
「それに、彼だっているんだよ!!」
放送は、あれから入っていない。
ほかの侵入者の仲間たちが駆けつけてくる気配もない。
「……ほかのクラスはどうなってるんでしょうね?」
俺は担任へ言葉を投げる。
その反応を観察する。
「占拠されたのだから、ほかの担任はおそらく……」
暗い顔だ。
言葉の先は生徒たちの不安を煽ると考えて、濁している。
「それにしては、悲鳴が聞こえませんでしたけど」
「各教室、防音仕様になっているんだ。
授業に集中できるように」
なるほど。
俺は担任の言葉を受けて、教室の扉へ向かう。
開けて、廊下の様子をみる。
見張りは、っと。
あ、いた。
顔を出した俺に気づいた覆面が、杖を向けてくる。
魔法陣が展開する。
それが攻撃魔法ということはすぐにわかった。
畑泥棒が使うのと同じ魔法陣だったのだ。
俺は、魔法が発動するよりも早く覆面との距離をつめる。
そして、教室に乱入してきた者たちへしたように、杖を持つ手を蹴り上げ、掌底を顎へ叩き込んだ。
覆面が気絶する。
周囲を確認する。
とりあえず廊下には、他に仲間はいないようだ。
防音処理のせいなのか、他の教室からも気配がまるで感じられなかった。
占拠した他のものたちが出てくる感じもなかった。
「…………」
俺は、たったいま仕留めた覆面をズルズルと引きずって教室に戻る。
「廊下に見張りがいた。この人も拘束よろしく」
俺の言葉に、この短時間で作業に慣れたクラスメイトが、あっという間に拘束してしまった。
「でも、これからどうしよう?」
また、クラスメイトの誰かが言った。
「ジッとしてても仕方ないし、こっちから動いた方が良くない?」
「あぶないよ。ここで待機しようよ。そのうち助けが来るかもしれないし」
そして、何故かクラスメイト全員が俺を見てくる。
「レッドウェスト君はどうしたらいいと思う?」
え、なんで俺に聞くの……。
俺は担任をそれとなく観察しながら、言葉を選ぶ。
「このままこうしていても、いつか数で押されたらアウトだと思う。
いま、こうして倒せたのは運が良かったって部分も大きい」
侵入者が、俺という予想外の存在に驚いていたようにも見えたのだ。
それが無ければ、危なかったとおもう。
この大人数のなかで俺のように動ける者が他にもいれば別だろうけど。
うーん、実戦慣れしてるとはちょっと思えないんだよな。
下手に動くと、誰かが怪我をするかもしれないし。
回復魔法があるといっても、誰かが傷つくところは見たくないものだ。
それでも、動かないわけにはいかないだろう。
俺は言葉を選びながら、その場の全員に聞こえるように言った。
「だから、まずは自分たちだけでも逃げて、外にこのことを知らせた方がいいかと思う」
これには、クラスメイトの何人かが驚いた顔をした。
「え、なんで?」
「悪者たちを倒しに行かないの?」
行けるわけない。
俺は、自分の考えを説明する。
「危ないから、行かない方がいいとおもう。
まず、向こうは殺す気で来ると思う。
それに……。
あんまり聞きたくないけど、この中で生き物を、自分の手で殺したことある人いる??」
クラスメイト達は顔を見合わせる。
「モンスターなら、ボーイスカウトで倒したことがある」
と、誰かが言った。
俺はさらに質問をする。
「それは、攻撃魔法で?
それとも、弱ってるところに武器でトドメを?」
「こ、攻撃魔法で。
処理は、大人たちがやってくれた」
「対人格闘は?」
「す、スポーツとしてならやったことがある」
「そっかー。
うーん、じゃあ、殺す気で向かってくる人を相手にしたことはないわけだ」
俺はぐるりとクラスメイトたち全員の顔を見る。
この事態に興奮している者、恐怖している者、さまざまだ。
「質問を変える。
この中に、人を殺したことがある人はいるか?」
誰も手をあげない。
つまり、そういうことだ。
「なら答えは決まったな。
逃げる一択だ」
不満そうなクラスメイトもいるので、俺はダメ押しで行動に出ることにした。
「どうしても、悪者退治がしたいなら」
俺は言いながら、ぐるぐる巻きに拘束した侵入者を見る。
教卓から、そこそこ鋭いハサミを見つけ、取り出す。
本来は文具でしかないが、立派に人を傷つけることが出来る。
俺はハサミを掲げる。
「この人たちを自分の手にかけてからだ」
妙な静けさが、場を支配する。
これには、担任も息を飲んでいる。
まさかこんなことを言い出す者が、生徒の中にいるなどとは思っていなかったのだろう。
俺は続けた。
「悪者退治をするってのは、そういうことだ。
できない、無理だっておもったやつがいたら、それは正しい。
こんなこと、しないならそれにこしたことはないんだよ」
この言葉は、以前、姉に言われた言葉だ。
タチの悪い畑泥棒を捕まえた時のことだ。
当時、怒り心頭だった俺は、
『こんな奴ら殺してしまえばいいんだ』
と、本気で姉にこう言ったのだ。
姉は首を振って、それを止めた。
そんなことをしてはダメだ、と。
そう俺へ言い聞かせてきたのだ。
『手を汚してまで裁くのは、裁きじゃなくて私刑だよ。
そもそも、罪を犯した人を裁くのは私たちの仕事でもなんでもないよ』
そんな姉の言葉がよみがえる。
人を裁く、その仕事をする人は別にいる。
だから、裁くのは俺たちじゃない。
罪人を裁くのは、俺たちの仕事じゃない。
姉はそう言っていた。
俺は納得は出来なかったし、俺の中に不満が残ったのも事実だ。
俺の言葉に、クラスメイト達が自分たちで拘束した侵入者を凝視する。
その様子を担任が静かに見つめていた。
また、誰かが言った。
「……君ならできるんじゃないの?」
その言葉に、担任がハッとする。
そして咎めるような視線を、言葉を口にしたクラスメイトへ向ける。
そのクラスメイトはイタズラをする子供のような、無邪気な笑顔で俺を見ていた。
そいつは、言葉を続けた。
「だって、歴代最強の生徒会長に膝をつかせたんだ。
さっきもその男たちを無力化させることができた。
なら、本気を出した君ならできるんじゃない?
それに、殺したって蘇生魔法で蘇生させられるでしょ?」
それもそうだ、とクラスメイト達の視線が俺に突き刺さる。
「どうなの?」
まるで俺に殺しを促すかのようなセリフだ。
ゾッとした。
とても気持ち悪い。
あぁ、なるほど姉の判断は、言葉はやっぱり正解だった。
しかし、俺はここまでされるようなことをしただろうか?
していないはずだ。
でも、茶番とはいえ言われっぱなしは癪である。
だから、
「望みなら、みせてやろうか?」
ついそう口から言葉が滑りでていた。
この際だから、悪ノリして度肝を抜いてやろうと、おもったのだ。
それくらいしないと、あまりにも不快だ。
俺に対して遠回しに殺しをしてみせろと言ってきた生徒は、俺の悪ノリに気づいているのかいないのか、わからない。
俺は、ハサミを手にしたまま、かつて姉が俺を教育するためにそうしたように殺気を纏う。
かつて姉は、『殺せばいい』という、自分が吐き出した言葉がどんな結果を伴うか。
後日、その最悪の結果を俺に見せてきた。
荒療治ではあったけれど、アレは俺にとってとても効いた。
さてさて、誰が声をあげるのか。
それとも上げないのか。
ふと、フィーを見る。
フィーは怯えた顔で、まるでお化けでもみるような顔をしていた。
あ〜、これはやっちゃったなー。
せっかくできた友達だったのに。
ほかのクラスメイトも、理解不能な化け物を見るかのような顔をしている。
俺はゆっくりと、拘束した侵入者達に近づく。
ハサミを振り上げようとしたところで、
「ダメ!!」
そう声を上げ、俺に飛びついてでも止めようとする者が現れた。
フィーだった。
「ダメ!ダメだよ!それはダメ!!」
カタカタ震えながら、大粒の涙を零しながらフィーは止めてくる。
蘇生魔法を俺が使えることを知っていて、それでもなお止める。
それは、物凄く大切なことだと知っている。
俺は、フゥっと息を吐き出すと、担任を見た。
苦笑してみせる。
担任はそこで、ようやく俺がこの茶番に気づいている、ということに気づいたようだ。
「はい、ここまで!!」
俺も、ほかのクラスメイトもその大声に驚いて担任を見た。
それから担任は、使えないはずの通信魔法を使って、どこかと連絡を取った。
直後、放送が流れた。
『英雄学園演劇部OB、OGによる、新入生歓迎余興、フラッシュモブ如何でしたでしょうか?』
ザワザワと、クラスメイトたちが、またざわめく。
戸惑いが大きいようだ。
「え、どういうこと??」
フィーが鼻をすすり、目を擦りながら俺に聞いてくる。
「茶番だったんだよ。
これ、ぜーんぶ、茶番。
学園が用意した、悪趣味なショーだったの。
まぁ、本人たちは歓迎のつもりだったみたいだけど」
担任が、侵入者たちの拘束を解いていく。
「ほら、生徒会長が余興がどうのって言ってたでしょ?」
「……あ」
「そういうこと」
侵入者たちが苦笑しながら、クラスメイト達へ説明している。
泣いているフィーにも、これでもかと頭を下げた。
本当に悪いと思っているようだ。
それから、舞台で役者がカーテンコールでやるように、侵入者たちは1列に並び、頭を下げた。
担任も、そしてクラスメイトだと思っていた生徒何人かも、その列に加わってお辞儀をした。
担任は演劇部の顧問であり、侵入者役の人たちと同様この学園演劇部のOBらしい。
生徒の方は、彼ら彼女らは現役でこの学園の、演劇部所属ということだ。
つまり、先輩である。
迫真の演技で、こちらには本当に騙されてしまった。
「いやぁ、ごめんね。ついつい熱くなって煽っちゃって」
そういって、人好きのする笑みをむけてきたのは、俺に対して人を殺せる云々を言ってきた女子生徒だ。
聞けば彼女は、俳優活動もしている役者であり、演劇部の部長もしているとのことだ。
「後学のために知りたいんだけど、どこで気づいたの??
私が煽った時には気づいてたよね?」
俺と部長さんの会話に、その教室にいた者全員が耳を向けてくる。
視線ではなく、耳だ。
俺は言った。
「はじめから」
担任を見ながら、説明する。
「まず、侵入者役の人たちに殺気がなかったんです。
でも、先生に杖を向けていて、魔法の展開もしてたので、イタズラにしてはタチが悪いし。
あの距離だと、先生の目に杖が刺さってもおかしくなかった上、まちがって攻撃魔法でも炸裂したら致命傷になりかねないな、と考えたんです」
実際、魔法の暴発事故というものは起きている。
安全は確保されていただろうが、それでも気づいたら体が動いていたのだ。
「それで飛び出した?」
「えぇ、まぁ。
掌底までしたのは、やり過ぎたかなとは思いました」
「なるほど~。
そういうことらしいですよ、先輩方?」
部長の言葉に卒業生達が、ハハハと笑った。
「参考にさせてもらうよ」
と、俺が叩きのめした侵入者役の人達が口々に言ってくる。
なんの参考にするつもりだろう?
今後もこの余興をやるような予定があるのかな。
それにしても、俺はこの余興がとても不快だった。
相手を怒らせる覚悟で、俺はその事を指摘する。
「参考にするなら、ご勝手に。
でも」
俺は、フィーを見ながらつづける。
「この余興はタチが悪すぎますよ。
できれば、それこそヒーローショーのようなもっと楽しいものにしてほしかったです」
「まぁ、それは私達も言ったんだけどねぇ。
でも、仮にも英雄学園に入学したんだから、こういうことに遭遇した時の練習にもなるでしょって、先輩たちが言い張ったの。
それに、君の行動が想定外だったのもあるんだよ」
たしかに、俺が動かなければもっとふつうに事が運んでいたのだろう。
けれど、そんなこと知らなかったのだから仕方ない。
部長さんの言葉に、担任と侵入者役の人達が手をパタパタ振る。
「いやいや、俺達も反対はしたんだぞ?
でも、劇団の団長がいい機会だからって言ったんだ」
劇団の団長さんが何歳かは知らないが、老害といってもいいだろう。
許可すんなよ、こんなこと。
こちとら新入生だぞ。
「こっちも可愛い後輩に泣かれるのは本意じゃないよ。
だから、君、もし次があるならどういった余興が見たい?」
侵入者役の一人が、フィーに訊ねる。
フィーは、鼻をすすって、目を擦りながら答えた。
「手品がみたいです」
ぶれないな、フィーも。
これには劇団員たちも苦笑せざるをえない。
手品は演劇とはまた別のジャンルだからだ。
「しかし、本来のシナリオとまったくちがう方向に転がった時はどうしようかと思った」
別の侵入者役の人がそんなことを漏らした。
俺は興味本位で聞いた。
「元々はどんな流れだったんですか?」
「ん?
あぁ、一年生は全部で三組あるだろ?
だから、生徒会の無事だったメンバーがそれぞれの教室にやってきて、俺たちを倒す。
あの先生への攻撃は寸止めで終わる予定だった。
仮に間違って発動しても、あの先生は自分自身に付与魔法をかけて体を強化してあったし、常時発動してる回復治癒魔法もかかってたから、怪我の心配もなかったんだ。
で、やってきた生徒会メンバーは、生徒会長が人質になっていることを一年生達に伝え、逃げるか助け出すかって方向に持っていくつもりだったんだ。
それでグラウンドへ逃げ出すか、流れによっては人質になっている生徒会長が監禁されてる教室まで行って、ネタばらしって流れだったんだ」
なるほどなー。
「でも、結果的にはそうならなくて良かったとは思うよ」
と、小さく俺にだけ聞こえる声でそんなことを言った。
「?」
「これで成功体験得ちゃったら、やっぱり将来悲しい結果になりかねないから」
そこで、さらに小声になって俺に言う。
「英雄の末路はさ、多くはそうなっちゃうんだよ。
誰かを救う、助ける。
でも、時にその代償として悲しい結果が、結末がついてくる。
とくに、君みたいな子は頭でわかってても、その結末にたどり着きかねないから」
「はあ?」
「ここは、そういう子を育てる場所だって理解はしているけどね。
でも、やっぱり思うところはあるんだよ、卒業生としてね。
君だから言うんだ。
君はきっと、そういう子だろうから」
「注意喚起ってやつですか?」
「まぁ、そういうこと」
「肝に銘じておきます」
そんなやり取りのあと、俺たちはゾロゾロと中庭へむかった。
ガーデンパーティの準備がされていて、在校生たちが俺たちを迎えてくれた。
ほかの組の一年生の生徒たちはいない。
「生徒会長を助けに行ってるっぽいよー」
と、三年生の一人が教えてくれた。
どうやら、合同で生徒会長救出に行ったらしい。
ネタばらしされた時の反応が気になる。
それを教えてくれた三年生は、女子生徒だった。
優しいお姉さん、といった印象を受ける。
「ほら、あっちのスクリーン見てみて」
言われて視線を向けると、ほかのクラスの様子が動画で流れていた。
なるほど、ここで俺たちの様子も放映されていたようだ。
「それにしても、君、ほんとにすごいねー。
首席ちゃんも中々だったけど、あんな風にあったばかりのクラスメイトまとめあげるなんて」
まとめあげてただろうか?
気のせいじゃないかな?
「ハサミ持って演技してるとこなんか、見ててドキドキしちゃったよ」
「はぁ、どうも」
続いて、その三年生はフィーを見た。
「でも、君もやりすぎだよー。
この子泣いてたし、怯えてたよ?」
それは、悪いと思ってる。
「ま、とにかく入学おめでとー。
ほら食べて食べて、こっちにはジュースもあるからね」
優しいお姉さん先輩は、そういって俺とフィーにテーブルに並べられている料理を皿にとって渡してくる。
元気づけようとしているらしい。
「あ、ありがとうございます」
フィーが皿を受け取った時。
動画を見ていた人達歓声があがった。
どうやら、無事生徒会長は救出され、ネタばらしされたようだ。
その動画の中に、首席入学の子が映っていた。
ネタばらしされて、なんとも微妙そうな顔である。
「首席ちゃんは気づいてなかったんだ」
先輩が言う。
「まぁ、それもそっかー、なにせ国立劇団【フォーシーズンズ】が本気だして協力してくれたんだし」
名門劇団じゃねーか。
姉ちゃんがチケットを買おうとしても、ことごとくご用意されない劇団である。
「それに気づけたカキタって、やっぱりすごいね!!」
フィーがそう言ってきた。
見れば、もぐもぐと料理をかきこんでいた。
美味そうだな、俺も食べよ。
料理を食べつつ、俺はフィーに返した。
「ありがと」
怯えさせたけど、どうやら嫌われてはいないらしい。
そのことにホッと息をついた。
手違い受験から始まる英雄学園生活 ぺぱーみんと @dydlove
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