第2話 入学式と余興 前編
数ヶ月後。
俺は英雄学園の制服に身をつつみ、その門をくぐっていた。
いいのかなー、俺みたいな喧嘩がちょっと強いだけの人間が通って、と思わなくもなかった。
まぁ、いいって言われたならいいか、と思うようにした。
ちょっと緊張する。
これから入学式なのだ。
見事に周囲には知らない顔ばかり。
そして、すでにグループが作られている雰囲気があった。
「友達できるかな」
何しろ、もうこの時点でグループが形成されているのだ。
つまり、同じ学校から来た者どうし、友人同士でグループが出来上がっているのだろう。
ましてや、農業系から来る者などほぼ皆無だと言っていい。
とにかくこうして、学園生活の一歩目を踏み出したのだった。
踏み出してすぐに、女の子とぶつかった。
「あ、すみません」
「こ、こここ、こちらこしょっ!」
女の子が噛んだ。
ド緊張しているらしい。
同じ新入生みたいだ。
雪のように真っ白な髪に、月並みな表現だが宝石のように紅い瞳の少女である。
少女は申し訳なさ一杯で頭を下げてくる。
その時だった。
少女が背負っていた鞄から、書類諸々がバサバサっと雪崩を起こしてしまう。
どうやら留め具がちゃんと止まっていなかったようだ。
少女が、カァァっと顔を真っ赤にさせる。
「ああああ、すみませんすみません!!
ほんとなんで私っていつもこうなの」
と泣きそうになりながら、少女はぶちまけたそれらを拾い集める。
俺も手伝う。
「すみませんすみません!!
本当にありがとうございました!!」
拾い終え、今度はちゃんと留め具をして少女はまた頭を下げてきた。
「あ、あの、同じ一年生、ですよね??」
怖々と少女が聞いてくる。
俺は頷いた。
「わ、わたし、フィオナっていいます。
フィオナ・スノードロップです。
友達や家族からはフィーって呼ばれています」
名前を教えてくれた。
知り合いもいなくて心細かった俺にとっては、知人が出来るまたとない好機である。
「カキタです」
ド緊張しているのは俺も同じだった。
ファミリネームを言い忘れてしまう。
「カキタ君ですね」
君付けは、こそばゆい。
「呼び捨てでお願いします。
慣れて無くて。
君のことはフィーさんと呼んでいいですか?」
中学の頃の同級生がこの場にいたら、絶対からかわれてた。
おめー、そんなキャラじゃないだろ、とか絶対言われてた。
「私も呼び捨てでいいですよ。
あ、いえ、呼び捨てでいいよ」
口調を崩してくれた。
こちらも崩すべきだろう。
俺たちはどちらともなく、並んで歩き出した。
目指すは入学式の会場である講堂だ。
道すがら、俺とフィーは雑談に花を咲かせた。
「私、アルストロメリアから来たんだ。
だから、知り合いもいなくて、心細くて」
「俺はこの国の端っこから。
知り合い居ないのは同じだから、こうして話せる人ができてホッとしてる」
雑談のお陰で、とりあえず初っ端からボッチになることは避けられたようだ。
しかし、アルストロメリアとはまた、凄いところから来たものだ。
アルストロメリア国は、この大陸――中央大陸で一番古く、そして一番発展している国でもある。
英雄学園の卒業生達の就職先である、【異世界管理局】や【捜査局】の本部がある国だ。
そして雑談をしていてわかったのだが、どうやらフィーとは同じクラスらしい。
「そういえば、カキタって同じ名前の子ですごい子がいるんだよ」
フィーは唐突にそんなことを言い出した。
「すごい子?」
自分の名前は珍しい名前になる
同じ名前の生徒がいるとは意外だった。
いや、でもそう珍しくもないのか?
考えてみたら、大陸各地から生徒は英雄学園にやってくるのだ。
まぁ、それはこの国内なら英雄学園だけじゃないが。
とにかく、大陸中から生徒が集まるのだ。
同じ名前の一人や二人いても、不思議では無いだろう。
そう思っていた。
しかし話を聞いていくと、件の生徒は受験の戦闘科目の時に歴代最強と言われてる生徒会長をボコボコにした受験生がいるらしい。
「私は、ちょっと席を外してて見逃したんだけど。
もう本当に凄かったんだって!!」
「あ、あー、へー」
動画は見ていないのだろうか、というツッコミすら入れられなかった。
俺ですね、それ。
「動画もね、見よう見ようって思いながらまだ見れて無いんだよねぇ。
他に追いかけてる動画があって」
あるあるだね。
わかる。
俺の場合は、目的の動画を見てる途中で寝落ちして最後まで観られないことが多い。
「入学式終わったら、お茶するついでに一緒に見ない?」
ド緊張は解けたらしく、フィーはそういってお茶に誘ってきた。
ありがたいけれど、
「に、入寮式あるでしょ?」
そう、英雄学園は全寮制だ。
各寮では在校生による入寮式という名の歓迎会が行われる予定となっていた。
無論、男女は別々の寮である。
「そういえばそうだった。
私って忘れっぽいんだよねぇ。
じゃあ、どこかで機会見つけて鑑賞会しようよ」
言い出しづらくなってしまった。
もうここで言ってしまった方がいいよなぁ、あとでわかると気まずいし。
「あ、あの、さ」
一時の恥を我慢して口を開いた。
しかし、俺が真実を告げる前に周囲から黄色い悲鳴が上がった。
なんだなんだ、と俺とフィーはその声のした方を見た。
イケメンがいい笑顔でこちらへ歩いてくるところだった。
しかもアイドルのように、周囲に手を振っている。
さらに言うなら一人では無い、五人の集団である。
ガチのアイドルか?
英雄学園ってアイドル活動してる人もいるんだっけ??
生憎、アイドルにはくわしくないので、アイドル活動をしている生徒の有無はわからない。
姉の店【黒猫亭】の従業員にはアイドルが好きな子がいたはずだ。
その子ならわかったかもしれない。
すぐに五人組の中に見知った顔をみつけた。
受験会場で、他ならない俺自身が顔の形を変えてしまった人物である。
そう、生徒会長だった。
うっわぁ、うっわぁ!!
なんか、気まずっ。
見つからないように、人混みの中に紛れよう。
いや、向こうは覚えてないとおもうけど。
こちらとしては、なんかこう、罪悪感があるのだ。
念の為、隠れるのは、念の為だ。
「生徒会の人達だ!」
フィーの声が耳に届く。
今のメンバーなのだろう。
しかし、俺には関係ない。
俺は空気。
俺は空気。
俺は空気。
どこにでもあるけど、見えない空気。
俺はズリズリと後退して人混みの中に消えようとする。
が、それは適わなかった。
一瞬、生徒会長と目が合った。
かとおもうと、彼の口が動いた。
何か言った。
それは認識出来た。
でも、何を言ったのかまではわからない。
ただ、生徒会長の口が動いた、次の瞬間。
イケメン五人組の一人が姿を消した。
そう、本当に消えたかと思ったくらいだ。
ゾワっとした。
「みぃつけた」
そんな声が背後から、いや、耳元で聴こえた。
なにこのホラー。
振り返る。
五人組のひとりがそこにいた。
近くにいた生徒のひとりが、そのことに気づく。
二人目が気づく。
三人目、四人目、五人目と気づいていき。
「ぎゃぁぁぁあア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
という黄色い悲鳴なんだか、獣の咆哮なんだかわからない声が上がった。
うるっせぇぇぇぇええええ!!!!
鼓膜が破れるかと思った。
「おや、君は意外と冷静なんだね」
たぶん、そんなことをその人――生徒会メンバーAは言った。
唇の動きで、なんとなくそんなことを言ったんだろうという予想だ。
耳がキーンとして聴こえないのだから、口の動きで言葉を察することしか出来ない。
「で、君なんでしょ?」
通常運転のように、会話を続行しようとする生徒会メンバーAへ、俺はそこそこの大声で返した。
「はい??」
「だーかーらー、君が」
「すんませんねぇ!!もうちょい大声でお願いします!!」
「受験会場で!!暴れたの!!君でしょ!?」
ゆけんでれるの??
あ、よやくできるの、か??
なんでこの人、俺の実家が飲食店やってるって知ってるんだろ?
あ、家に来たあの先生たちに聞いたのかな。
そう考えれば、納得はできた。
あの先生たちが、生徒会長に俺の事を話して、その話をこの人にしたというながれなら納得できる。
「うちの店!!電話注文も承ってますよ!!」
「ごめん!!僕の言葉とどいてる!?きこえてる!?」
ちゃんとお届けできるか??
「えぇ!!事前に予約してもらえたら!!出前も出来ますよ!!届けられますよ!!
この学校も出前圏内なので!!」
「君のご実家が食事処なのはわかったけど!!聞いてないよ!!そんなこと!!??」
ごはんはやってるの??
「ランチもやってますよ!!」
ディナーもやってほしいという声もあるにはあるが、それだと夕食という家族団欒の時間がなくなってしまう。
そのため、姉は店でディナーをやる予定は無いらしい。
「だから!!そうじゃなくて!!」
俺の背後をとったイケメンが難しそうな顔をして、さらに叫んでいるが、耳が遠くなっていてよく聞き取れない。
「ああもういいや!!
ちょっと君、こっち来て!!
確認もままならないなんて初めてだよ!!」
俺は腕をつかまれ、ぐいぐいと引っ張られる。
周囲の生徒の熱狂が増した気がした。
俺は生徒会長のところへ連れていかれる。
心配そうに、フィーが着いてきた。
一部の女子の視線が、フィーへ突き刺さっている。
女子なのに、アイドルグループの1番近くへ来たからか。
しかし、フィーはおどおどしているけど、その視線は気にしていないように見えた。
実はけっこう肝が据わっているのかもされない。
生徒会長がフィーに気づいて声をかけようとする。
しかし、なにか考えてすぐにほかの四人へ指示を出した。
まだ耳は遠いままだ。
俺はまたグイグイと腕を引っ張られた。
移動するようだ。
フィーを見ると、彼女は生徒会長にエスコートされていた。
嫉妬深い視線が、やはりフィーに向けられている。
フィーはさすがに気まずそうに、恥ずかしそうに顔を伏せていた。
しかし、そんな視線を向けている生徒へ、他ならぬ生徒会長が笑顔を向け手を振る。
すると、視線の主たちはその場に失神してしまった。
すぐに保健委員だと名乗る生徒が現れて、失神した生徒の介抱をはじめたのがみえた。
そんな混沌と化した現場から連れ出され、俺たちは講堂の裏へと案内された。
なんだろう、アイドルグループからのカツアゲだろうか??
ここに来てようやく俺の聴力が回復しはじめた。
「ひさしぶり、俺のことはおぼえているかな?
というか、耳はだいじょうぶかい??」
爽やか金髪イケメン、つまり生徒会長に訊かれ、頷く。
「あ、はい、なんとか」
まだ少しキーンとしているが、それでも彼の言葉を聞き取れるくらいには、聴覚がもどりつつあった。
俺の返答に、背後をとったり腕をグイグイ引っ張ったりしていたイケメンがつぶやく。
「やっぱりちゃんと聴こえていなかったのか」
ほかのメンバーも苦笑している。
俺と生徒会長のやりとりをみて、戸惑っているのはフィーだけである。
「ね、ねぇ、生徒会の方々と知り合いだったの??」
と、フィーは聞いてきた。
「あー、うん、まぁそんなとこ」
フィーの反応に、生徒会長が物珍しそうな視線を向ける。
「おや、君は知らない子だったか」
一方、生徒会長はそう言ったかと思うと、受験のときのことをフィーへ説明した。
生徒会長からの説明を聞いていくうちに、フィーの目が丸くなる。
俺をまじまじと見る。
やがて、
「カキタのことだったの?!」
悲鳴に似た叫びが彼女の口からあがったのだった。
自分で説明する前にバレてしまった。
「あ、あー、うん、まぁ」
俺は言葉をさがして、つづけた。
「おどろいた?」
「うん、とってもおどろいた!!」
でもすぐにコテンと首をかしげる。
「でもなんで、今呼び出されたの??
この場合は連れ出された、になるのかな??」
フィーが生徒会長たちを見た。
俺も彼らを見る。
「俺もよくわかんない」
生徒会長たちは笑っていた。
別に嫌な笑いではなかった。
「いやなに」
生徒会長が言ってくる。
「たまたま見知った顔を見つけたから、覚えてるかなぁって挨拶しようと思っただけだよ。
間違えて受験してたらしいとは聞いてたけど、まさか入学するとはおもってなくて。
ふつう、志望校のどこかへ行くものだしね」
どうやら情報の流出とかではなかったらしい。
本当に、まさかいるとは思ってなかった、といった反応である。
続いて俺の背後をとって、結果的に腕をグイグイ引っ張ってきた人が口を開いた。
「俺は、会長に連れてこいって言われただけなんだけど、思った以上の騒ぎになっちゃったからさ。
落ち着いて話が出来るってなると、ここくらいだったし」
講堂の裏が?
まぁ、たしかに誰も来ないが。
あれだけの騒ぎだ。
追いかけてくる生徒くらいいそうなものだけど。
……いない。
なにかカラクリがあるのかもしれないけれど、まぁいいや。
「さて、それじゃ改めまして。
第99代目生徒会長をしている、アーネスト・ヴァーストライトだ。
カキタ君の背後を取ったのが、書記のフェス」
「どうもー」
「で、この眼鏡が副会長のレナルド」
レナルドさんがキビキビした動きで会釈してくる。
生真面目そうな人だ。
「こっちの二人は、会計係のフレディとローガン。
俺も含めて全員二年生だ」
珍しいな。
時期的に三年の前期までが任期かなって思ってたから、てっきり三年生だとばかり。
フィーも不思議そうに首を傾げているところをみると、会長たちを三年生だとおもっていたようだ。
「うちの学校変わってて、前期と後期で立候補した生徒たちで総当たり戦やって勝ち残ったら生徒会長になれるんだよ」
俺たちの疑問にフェスさんが答えてくれた。
……へぇ、ほかにもあるんだそういう学校。
「あんまり驚いてないね?」
生徒会長のアーネストさんが言ってくる。
これに答えたのはフィーだ。
「選挙じゃないんですね」
アーネストさんは答えた。
「五十代目くらいの時までは選挙だったらしいんだけど。
ちょっとこう、不正というかそういうのが問題になって、殴って決めた方がはやいってなったらしくて」
学生の選挙とはいえ、不正が横行したらしい。
なかには賄賂とかそういうので、票を得るものもいたとか。
「わ、ワイルドですね」
フィーが引いている。
「ほかのメンバーもそうやって決まったんですか?」
引いてはいるが、興味はあったらしくそう訊いた。
アーネストさんが答える。
「会長と副会長が指名できるんだ」
「へぇ。
ということは、最後は生徒会長と副会長の一騎打ちだったんだ。
さぞ、盛り上がったでしょう」
俺はそんなことを口に出していた。
書記のフェスさんがなんか笑い出した。
会計のフレディとローガンさんも、ニヤニヤと生徒会長と副会長を見ている。
「それが、三日三晩なぐりあったのに決着がつかなくて」
「え、じゃあどうやって今の役職に落ち着いたんですか?」
「ジャンケン」
「え」
「このままだと七日七晩まで決着つかなそうだなってなって、ジャンケンで決まったんだよ」
マジか。
フィーもその決着の仕方は予想外だったのか、ポカンとしている。
「と、そろそろ入学式の時間だ。
まぁ、君への挨拶はこれくらいにしておこうか。
そうだ、カキタ・レッドウェスト」
「はい?」
「もしかしたら、余興に付き合ってもらうかもしれないからそのつもりで」
アーネストさんはそんなことを言って、去っていった。
余興、ねぇ。
宴会芸なんてやったことないんだけどな。
なにやるんだろ?
ほかの生徒会メンバーもそれに続く。
その背をフィーと見送る。
見送ってから、
「とりあえず俺達も講堂に行こうかね」
「そうだねぇ」
フィーと一緒に移動した。
案内に従って、用意されていた席に着く。
幸いと言うべきか、フィーとは隣同士で座ることができた。
周囲から視線を感じる。
恐らくさきほどの騒ぎで俺も顔を覚えられてしまったのだろう。
それとはまた別のざわつきで、講堂は満たされている。
「余興って何するんだろうな?」
「んー、なにするんだろうね?
手品とかかな?
それとも、演劇とか?
去年は、アイドルグループが来て、ライブをしたらしいよ」
フィー曰く、英雄学園の入学式でやる余興はそれなりに有名らしい。
たまに卒業生が悪ノリで企画を提案し、在校生と協力して披露することもあるとかなんとか。
楽しみだ。
そこからは粛々と入学式が進んでいった。
校長の祝いの挨拶。
生徒会長の歓迎の言葉。
来賓者たちからの祝いの言葉。
新入生代表、つまり首席生徒の答辞と続いた。
新入生代表となったのは、燃えるような赤い髪が特徴の女子生徒である。
名前はオーレリア・ネルバルというらしい。
ぼんやりと彼女を見ていると、目があった。
そして睨まれたようにみえた。
(?)
気のせいだろう。
彼女ははじめて見る生徒だ。
新入生で知り合いとなったのは、今の所フィーだけである。
「綺麗な子~」
フィーはそんなことを述べている。
女子からみると新入生代表は綺麗な子になるのか。
俺も新入生代表を改めて見た。
フィーが静かな月のようなイメージなら、彼女は燃える太陽と言ったところか。
勝ち気な瞳と自信満々なオーラが漂っている。
「綺麗で勉強もできて優秀なんて、すごいよねぇ」
フィーも美少女と呼ばれる部類だと思うが、彼女はそう思っていないようだ。
俺は、新入生代表を見る。
何故か姉を思い出した。
新入生代表と姉は似ても似つかないのに。
帰ろうと思えばすぐに帰れる距離の実家が、もう恋しくなっているのかもしれない。
「やっていけるかなぁ」
いまさらながらに、中学までの知り合いがいない現状に不安をつのらせる。
周囲をそれとなく見る。
人間、魔族、エルフ、ドワーフ、龍神族まで、実に多種多様な種族がいる。
しかも、そのほとんどが国こそ違うものの上流層よりの中流層の出なのだ。
兼業農家出身の俺は異物もいいところだ。
そういえば、フィーはどの種族なのだろう?
外見は人間種族に見える。
けれど混血の可能性もある。
そうなると見た目こそ人間種族だけど、実際はエルフだったりドワーフだったり、はたまた龍神族だということも考えられる。
これは逆もまたしかりである。
たとえば、どこからどうみても手乗りサイズの妖精種族に見えても、人間種族扱いだったりする。
見た目からではどの種族かわからない、というややこしさがあるのだ。
これを調べるのは市役所、あるいはその支所である。
もともとは教会や冒険者ギルドで、専用のマジックアイテムを使って調べていた。
しかし、時代が流れるにつれ、市役所等でも調べることができるようになったらしい。
だいたいは出生届を提出する際に、親が生まれたばかりの赤ん坊を連れて行って調べるのだ。
これで、いわゆる【取り替え子】といわれる先祖返りの赤ん坊の種族がはやくにわかるようになった。
それにより全然成長しないなぁ、おかしいなー、同種族の他の子となんか違う、という事態が減ったらしい。
ちなみに、本人が話さない限り、種族のことを聞くのはマナー違反である。
入学式が終わる。
この後は、各教室へ戻って担当教師から今後の説明を受ける。
それから寮へ行き、やはり過ごし方の説明を受けるという流れだ。
「そういえば、余興がどうのって生徒会長さん言ってたけど。
なにもやらなかったね」
フィーがそんなことを言った。
言われてみればそうである。
「そういえば、そうだな」
「手品みたかったなー」
彼らは手品とは言っていなかったと思うが、フィーにとって余興の代表格が手品なのだろう。
教室に移動した。
「あ、隣だー。
よかった」
フィーと俺は隣同士の席になった。
席について、担任から今後の説明を受ける。
英雄学園の授業には、一般的な高校でやるものもあるが、特別科目が存在している。
【基礎魔法学】、【攻撃魔法学】、【回復魔法学】、【召喚魔法学】、【世界魔法歴史学】、【世界史】、【薬草学】などがそれである。
なんで、歴史系の授業が2種類もあるのか不思議でならない。
ひとつで良くないか?
ちなみに、これらは座学だ。
一方、体を動かす授業もある。
【体育】とは別に【実技】とよばれる授業があるのだ。
「実技では実際に魔道具や、攻撃魔法を使って模擬戦をしてもらうことになる。
そのため、プリントに書いてある杖などは、実技授業のときにで検査するので、その検査結果を持って受け取りに行くように」
クラス担任の説明に、俺は首を傾げる。
魔法の授業なんて、小中学校ではちょろっとしかやったことがない。
そのあとは、独学と農業ギルドが主催する勉強会で覚えてきた。
そのため、なぜ検査をするのかがわからなかった。
「どうしたの?」
フィーが俺の様子に気づいて、聞いてきた。
俺は質問をぶつけてみる。
すると、フィーは丁寧に教えてくれた。
「あぁ、それはね。
授業に使うものではあるけど、個人個人に特性というか魔法属性の相性があってね。
私は氷雪系と回復治癒魔法っぽいのが得意だから、それに合う杖とかを選んでもらうの。
でも、私の場合、武器だと筋力があまりないから、大剣はダメなのね。
だからそっちも私に合ってる短剣とかナイフとか、そういうのを選んでもらうの。
だから実技授業で動き方とかを見て、検査するんだよ」
ぽい??
「なるほど」
ぽいってなんだろ?
まだ完全に習得してないとかかな?
それにしても学校が違えば、本当にいろいろなところが違うのだな、と思った。
「じゃあ、俺は土魔法系になるのかな?」
「土魔法が得意なの?」
「得意っていうか」
畑をいじる時に使うので、農家の子は誰でも使えるのだ。
それを簡単に説明する。
「なるほどー」
「回復魔法、治癒魔法、あ、あと蘇生魔法も使えるよ。」
「それは知ってる。
蘇生魔法つかえるなんて凄いねー」
凄いか?
下手すると、手や足がちぎれたりすることが多い職業だから、俺だけでなく姉や、義理の兄(予定)も使えるのだけど。
まぁ、職種が違えば使える魔法もちがうものか。
そこで俺は思い出した。
蘇生魔法を使った時にやけに驚かれていたことを。
「……あのさ、蘇生魔法って使うのに資格とかいる?」
「え、なんで??」
「あー、ちょっと気になって」
「商売にしてなければ大丈夫だったと思うよ。
私のお母さんも、ちょっと指切った時とか、普通の回復魔法つかうより、綺麗に傷口治るからって、よく蘇生魔法を使ってるもん」
なるほど、それなら大丈夫だな。
「ただ、使えるようになるまで物凄く勉強したり、何回も回復魔法を使ってコツを覚えなきゃいけないから、大変なんだよ。
だから使える人って珍しいみたい」
俺もだが、フィーのお母さんも珍しい人に入るということか。
なるほど。
「あー、たしかに俺の場合、実家で使いまくってたから。
それでか」
妙に納得してしまった。
さてそうこうしているうちに、担任の説明が終わる。
これで解散だ、となった瞬間だった。
ジリリリリリっ!!
けたたましいサイレンが鳴り響いた。
なんだなんだ、とクラスメイトたちがざわつきだす。
ふと担任を見る。
担任は落ち着いていた。
やがて、サイレンが止まった。
教室はザワザワと騒がしい。
続いて、校内放送が流れた。
『緊急事態発生。緊急事態発生!!』
全員がその放送に耳をすます。
『外部から複数の侵入者あり!!
侵入者たちは、教師陣を殺害後、アーネスト会長を』
そこで、
ダンっ!!
という音とともに、放送が途切れる。
ほとんどの生徒がビクッと体をふるわせた。
『あ、あー、聞こえてるか?クソガキども??』
放送が再開される。
聞こえてきたのは、野太い男の声である。
『このクソ学校は、たったいま俺たちが占拠した』
その言葉と同時に、教室へ顔を隠した黒づくめの者たちがドタドタと入り込んできた。
かと思うと、担任の頭に魔法杖を突きつけ攻撃魔法を展開、使用する。
担任は杖を構える間もない。
このままだと、杖の位置からして致命傷を負わせられるだろう。
違和感はあった。
それでも、俺はクラスメイトたちの誰よりもはやく動いていた。
杖を向けていた者に飛びかかる。
腕を蹴り上げ、顎へ掌底をうちこむ。
倒れ込んだ侵入者に、その仲間たちが戸惑う。
その一瞬の戸惑いが、隙になる。
俺はその隙を逃さず、全員を殴り倒し、床とキスをさせたのだった。
全員気絶させた。
教室が静まりかえる。
「うそだろ、おい」
担任が小さく呟くのが聞こえた。
しかし、聞かなかった振りをする。
俺は他ならないその担任へ声をかけた。
「あの、大丈夫っすか?」
魔法の発動はなかったように思う。
けれど無詠唱魔法、というものも世の中に存在していることを、俺は中学校の授業で習ってうっすら覚えていた。
だから、担任に怪我がないか確認しようとおもったのだ。
「あ、あぁ、ありがとう。
おかげで助かった」
その直後、
「スッゲーーーー!!」
「めっちゃ強いじゃん!!」
誰かがそんなことを叫ぶと、一気に割れんばかりの歓声があがった。
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