09 魔王軍
* * * * *
『神聖アルマギウス連盟』と『魔王軍』との争いは、約500年前くらいから続いているらしい。
軽く世界情勢について触れておこう。
……とは言っても、この世界の事情は俺も人から教えてもらっただけなので理解は結構浅いとは思うが。
『神聖アルマギウス連盟』とは、俺たちの住む大陸の中央から東部と南部にかけて広く信仰されている『マギウス教』を主教として掲げる国の連盟だ。名前通りだ。
連盟とある通り国と国の間に上下関係は本来は存在しないが……マギウス教の『整地』とされる場所を有するアルマギウス聖法国については、明確に他より立場が強いらしい。
この連盟が一致団結して、西の大河を挟んだ向こう側の『異教徒の大帝国』の侵略を防いでいる――というのが500年前までの
500年前から、この連盟に対して攻撃を仕掛けているのが『魔王軍』となる。
本拠地がいまいち不明なところはあるのだが、どうやら大陸の南方――海を渡った先の『魔大陸』からやってきている……らしい。
連盟国の大半が海に面していない上、この世界の海は巨大モンスターの巣窟となっていてとても危険なため、あまり航海技術は発展していないようだ。少なくとも、大航海時代で新大陸を発見! なんてことは起きていない。
なので、『魔大陸』というのもマギウス教の偉い人が言っているだけで、実態は全然わかっていないのだ。
それはそれとして、大陸の外から攻め込んできているというのは事実である。
……そもそも、
そこからだろうか。
神聖アルマギウス連盟においては、『かつて
善なる神に創造された人類や動物たちとは異なり、悪の神によって創造されたのが魔族やモンスターである、とマギウス教は語る。
そして、追放された魔族を統べる存在が『魔王』――故に『魔王軍』であるという理屈だ。
神話とか伝説とか、昔話とか……。
それが100%の真実ではないことは俺は知っているし、かといって100%の創作であると断言できないのもわかっている。
ある程度の真実と創作が程よく混じり合ったものなのだろう。割合はわからんが。
そんな考えを踏まえて、俺の知識によると――
故に、『魔王軍』は呼称としては誤っていると言える。
現にマスティフ隊長と初めて会った時に彼はこう言っていた。
――『この部隊を預かるマスティフだ』
これだけだ。
俺たちは『魔王軍』とわかりやすく呼んではいたが、彼自身は一度として『魔王軍』を名乗っていない。
彼らのリーダーは自らを『魔王』とは呼称していないし、彼らも『魔王』とは呼ばない。
あくまでもマギウス教の方から見た時の呼び名――ぶっちゃけただの『レッテル貼り』である。
ただ、現実として『魔王軍』は攻撃を仕掛けてきているわけだし、マスティフ隊長たちの部隊はこの後北方へと侵攻を開始することになるだろう。マスティフ隊長の部隊以外にも、大陸南方では『魔王軍』がそれぞれ展開しているはずだ。
この戦争は一体何なのか?
『魔王軍』の正体は何なのか?
……正解かはわからない。俺も人から聞いただけだし、何しろ発端は何百年も前のことだ。資料が残っていなければわからないし、その資料だって改ざんされていない保証はない――俺に話してくれた人は『歴史なんぞ当てにならん』と吐き捨てるように言っていた。
それはともかくとして、俺の知識では――『魔王軍』とは
別にマギウス教が悪いとかそういうのではなく、人類の営みとして普通に起こりえることが起きた結果、争いの火種が生まれただけではないだろうか。
歴史の授業で少ししか習ってないが、前の世界でもそういうのは普通に起きていたと思う。
俺の聞いた話を纏めると――
何百年も前――500年前の戦争開始よりも更に昔、現『アルマギウス聖法国』が『聖地』に住む人々を追い出して占領した。
その後、勢力を拡大するアルマギウス聖法国が追い出した人々を『魔族』とし、マギウス教の影響の及ぶ範囲で迫害……大陸の外まで追い出してしまった。
そして今から500年ほど前に反攻した……ということらしい。
……俺の立場で迂闊にどっちが正しくてどっちが間違っているとは言えないし、おそらく誰であっても断定は無理だろう。
遥か昔の出来事な上、残っている史料なんて都合のいいように改ざんされている可能性もあるので、『真相』は闇の中だ。
ただ明らかなのは、
――『あと少しで
そう漏らすくらい、『魔王軍』の面々は信じているということ。
そして、対する神聖アルマギウス連盟側もまた、彼らを魔族と断じていること。
……この戦いを完全に終わらせることは、容易ではないということだ。
俺たちがやることに色々と思うところはあるが――
「どお~もお~。
お支払いについてはあ、あたくしの
俺が物思いに耽っている間、ノンさんたちの方で『お金』――というか報酬についての話をしていたわけだが、少し難航していたみたいだ。
そんな時、妙に間延びした女の声が割り込んで来た。
「……うおっ!?」
俺も考え事を中断してそちらへと意識を戻すと……。
そこに異様な『女』がいた。
「
あたくし、『冥主』様の代理として参りましたあ~。
『モロカ』とお呼びぃください」
……モロカと名乗った女は、異様な風体だった。
声は女の人っぽいんだが、本当に女かどうかはわからない。
なぜならば、モロカは全身をだぼっとした真っ黒な服で覆っている上に、顔には黒いベール……って言うんだろうか? 映画とかで見る、外国の女性が葬式の時につけているようなものを被っていて、ほとんど顔が見えない。
唯一見えている手も、やはり黒い手袋をしていて肌は全くと言っていいほど見えないのだ。
……加えて偏見かもしれないが、異様な長身である。
ここにいる面子だと、ジークとマスティフ隊長がかなりの長身であるが、モロカはそれ以上――多分だが2メートルを余裕で越えている。
もしかしたらそれは種族的なものなのかもしれない。人間やエルフではなく別の種族なら、そういうのがあるかも……パッと見た感じだとわからん……。
それはともかく、『冥主』というのは……一体誰のことだ? いわゆる『魔王』に該当する人物なのだろうか?
「『冥主』殿の……!?」
「……かしこまりました。マスティフ様、よろしいでしょうか?」
「あ、ああ……申し訳ないが、報酬についてはモロカ殿と話していただけるとありがたい」
マスティフ隊長の感じからすると、『魔王』的な人とはちょっと違う感じか?
察するに、『魔王軍』の偉い人なんだろう。そこを俺たちが突くわけにもいかないし……ノンさんが迷うことなくモロカの方と話を進めようとしているので、きっと問題ないんだろう。
「それではあ、また後日ということでえ~」
二人の間で少しやり取りをし、別途日を改めて……ということに決まったみたいだ。
支払われるまでは完全に終わったわけではないが、とりあえず俺のやることは一段落したかな?
「マスティフ様、ご依頼の砦の引き渡しは完了いたしました。
もし何かあれば、再び依頼いただければ対応いたします」
「……ああ、本当に感謝します……!」
本当に深々と――頭を下げて、マスティフ隊長、そして彼の部下たちが俺たちに向かって感謝を示してくれた。
……ぶっちゃけ、俺たちのやってることって戦争に加担しているようなもんなんだけど……。
――それでも、祖先の住んでた地へと帰りたい、という彼らの気持ちはわかるので、助けになれたことだけはちょっと誇らしく思うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます