07 建設開始④ ~再びチートスキルを添えて~

*  *  *  *  *








 更に時は過ぎ、俺たちが砦の建築を請け負ってから20日後――




「……は冷えるっすねー」


「うむ。地面が乾いているせいかのう……」




 深夜、俺たちは再びモルニックの野へとやってきていた。

 理由はただ一つ。

 これから砦を建設するのだが、その様子をためだ。

 剣と魔法のファンタジー世界、しかも周囲には何もない荒野が広がる場所、更に真夜中ともなればそうそう見つかることはないだろう。

 一番近い都市――マスティフ隊長たちが次に狙うであろう場所だが――とも距離は相当離れているし、この辺りまで巡回が来ないことは事前にノンさんたちが確認済みだが、念には念を入れて、な。

 できればマスティフ隊長たちにも見られたくはない。

 ……ま、向こう側としては今日にいたるまで全く建築が進んでいないことは確認しているだろうから、ビックリはするだろうが。


 そう、俺たちはなのだ。


 この建設の過程は見られたくない。結果として不思議なことが起きたということはバレてしまうが、そこはもう仕方ないと割り切っている。

 邪魔されたくないという理由の他に、作っている最中を見られたくないがための真夜中の作業というわけである。




「ジーク、力仕事が必要になったら声をかける。それまでは念のため周囲の警戒は頼んだぞい」


「…………ああ」




 『調達部長』のジークにはもう一つの役職がある。

 肩書としては『警備部長』――俺たちメタストラクト工務店の社員の安全を守るという仕事だ。

 建設現場に危険な獣がいれば排除するし、作業中に妨害する輩がいれば制圧する。

 今回は出番はなかったが、顧客との商談で揉めたりしたら……当然それも制圧するという役割である。まぁ用心棒みたいなもんと考えて間違いない。




「よし、始めるぞい」




 親っさんが腕まくりしながらそう宣言――俺たちの『モルニック砦建設』の最終段階は始まった。








*  *  *  *  *








 ……この世界で言うことじゃないが、『魔法』とか『スキル』って――本当に『ズル』だと思う。




 今、俺の目の前で地面が蠢いている。




「むぅんっ!!」




 親っさんが気合を入れると共に地面のうねりが大きくなり、勝手に綺麗に整地されていく。

 大地魔法を利用して、地面を操作することで建物の『土台』を作っているのだ。

 ……これを人の手でやろうとすると結構手間なのは言うまでもないだろう。しかも、小さな家ではなくマンションくらいの広さの地面を一気に整地するのだ、工事用の機械もない異世界だったら一体何日かかる作業になるやら……。

 でも、魔法を使えば一発だ。

 もちろん、親っさんくらい大地魔法を極めていなければ、そしてこれから建てるもののイメージができていなければ、ただ土を耕すだけで終わってしまうんだろうけど。


 時間にして30分くらいだろう。

 あっという間に荒野に砦の土台が出来上がった。

 マスティフ隊長の要望としては、まずは砦本体があり、その周囲を防壁で囲みたいというものだった。

 なので、親っさんはまず砦の土台だけを作成する――まぁ防壁分の土台も作っていいんだが、砦を作っている最中にバタバタするので少し崩しちゃった利するかもしれないしな……すぐに直せるけど。




「では次じゃ。小僧」


「っす。ノンさん、お願いっす!」


「承知いたしました」




 土台は出来たので、ここからは本格的な建築に入る。

 まずはノンさんにお願いして、空間魔法で収納しておいた建築資材――煉瓦を次々と出してもらう。

 煉瓦と言っても一個ずつではない。そんなことをしていたら、今晩中にはとても間に合わないしな。

 俺の『スキル』を使って、幾つもの煉瓦を予めくっつけた『煉瓦の壁』を作っておいたのだ。ちなみにこれも『合成マージ』で作ったものだ――素材を文字通りの合成するだけではなく、組み合わせて一個の形を作ることも可能なのが便利だ。

 この煉瓦壁をブロックのように組み合わせ、敷き詰めていくことで砦が作られていくのだ。


 とはいえ、これを手で並べていくのは大変だ。

 そこで活躍するのが、『合成マージ』『解析アナライズ』『複製コピー』に続く機能『操作オペレート』である。

 少し限定的な機能となるが、『俺のスキルで作ったもの』に対して自由自在に操作できるというものだ。

 どんなに重い煉瓦壁でも、この機能を使えば軽々と動かせるというわけである。

 ちょっと応用的な機能ではあるけど、煉瓦壁から一個だけ煉瓦を引っこ抜くとかもできる。




「並べた壁を『合成』でくっつけて……っと」


「……よし、良いぞ。そのまま続けろ」


「っす!」




 並べた壁と壁を『合成』でピッタリとくっつけて離れないようにする。

 細かい位置とか、ちょっとした歪みとかは親っさんがチェック。その都度俺に指示を出してスキルで修正する。

 これもまたスキルの機能の一つ『変形デフォーム』のおかげだ。

 『操作』に近いところはあるが、こちらはその名の示す通り『形を変える』機能だ。

 煉瓦を作る時に『合成』で土を混ぜ合わせてブロックの形にしたわけだが、やろうと思えばボール状にしたりとかもできた。『変形』を使えば、できあがった煉瓦の形を変えることもできるし、何なら液体状にすることさえも可能だ――スキルを切った時点で形は固定されてしまうんだけど。

 『解析』『合成』『模倣』で建物の部品を作り、『操作』で組み立てて『変形』で微調整する――『変形』は部品作りにも使うが――この5つを使って建物を建てるのが、メタストラクト工務店における俺の役割になる。


 ……『建設部所属』の平社員、ってところだろうか。後はその他雑用かなー……。


 ともあれ、親っさんの監修のもとモルニック砦の建設は順調に進んで行く。

 親っさんが設計書を作り、そこにぴったりと嵌るように部品を予め作っておいて、後は組み立てていくだけ――部品同士をくっつけるのは俺のスキルで行うだけ。

 ……言っちゃなんだが、俺としてはプラモデルを作ってるような感覚だ。

 設計図と部品作りだけはどうしても『センス』とか『作業時間』が必要になるけども、そこさえクリアしてしまえばどんな規模の建物だろうと短時間で作れてしまうと思う。






 ――この世界に来る前、ファンタジー物のRPGとかやってた時にちらっと思った疑問がある。

 『敵』側の城とかって、一体どうやって作ったんだろうか、って。

 何か思ったよりも近くに村があったりする魔王城とか、逆に前人未踏の地にある謎の塔とか、罠だらけの洞窟とか……。

 ゲームの都合だ、って言えばその通りではあるんだが……。


 ……そういう理屈に合わない変な建物を自分で作ってるんだよなぁ……。

 今回のモルニック砦は、マスティフ隊長たちが敵対している都市から見ると、『突如現れた魔王軍の砦』になっちゃうんだよな。

 一体誰が、どうやって作ったんだ? となるに違いないだろう。

 ま、今後俺たちの名が売れて依頼が増えていったらバレるかもしれないけどなー。社長たち、そうなったらどうするつもりなんだろ……?








 土台の上に床を作り、壁を作り、ジークの力を借りてでっかい柱を建て、それをスキルでちょこっと加工したり変形させたり……。

 そんな作業を繰り返すこと2時間ちょいくらいか。時計がないからわからん。




「ひとまず、ガワは完成かの」




 砦そのものは形となった。

 ただ、窓や各部屋のドア、それに照明器具を取り付けるものとかは全くない状態だ。

 こちらについてもパーツはできていて、後は各所に取り付けするだけだ。

 この作業については俺のスキルが余り有効ではない……ので、親っさんがやることになる。数は結構多いが、親っさん曰く『この程度の規模の建物なら大して手間にならん』とのことなので、安心して任せられる――もちろん、俺も手伝いくらいはするけどな。




「次は外壁じゃな。

 引き続きたのむぞい」


「っす」




 外壁を作る手順も同じだ。砦本体に比べて部品が結構大きめになるくらいしか差がない上、基本的には砦を囲むように立てていくだけなので、さっきと同じくらいの時間でできるはず。

 妨害されることも今のところない、

 ……これなら何事もなく完成までいけるかな?

 『魔王軍』からの初の依頼だ、ちゃんと完成させておかないと『次』に繋がらないからな。




 ちょっとだけ一息入れて、俺たちはその後もモルニック砦の建設を続ける――








*  *  *  *  *








 ――そして、夜明け前に無事に砦は完成。

 ノンさんが一人でマスティフ隊の駐屯地へとワープし、砦の完成を告げに行くのだった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る