06 建設開始③ ~チートスキルを添えて~
* * * * *
マスティフ隊長との話から
「よし、始めるぞ、小僧」
「っす!」
俺たちメタストラクト工務店一同は、とある地方にある会社の『工房』へと集合していた。
いつも通り、ノンさんの空間魔法でだけ行ける場所にある、事務所からかけ離れた場所である。
ちなみに、ジークが一人で頑張って採掘した成果――比喩でなく本当に『山』となっている土を置いても余裕があるくらい広い場所だ。外からは見えないように『工夫』はされているが。
さて、俺たちがこれからやろうとしているのは、今回の砦――マスティフ隊長の依頼した『モルニック砦』建設の『要』となることだ。
「まずは
「っす!!」
親っさんの指示に従い、俺は目の前に広がる巨大な『山』――実は1つではなく2つある――それぞれから土を適当な量だけ取り出す。
それを自分の手元に。
更にその隣には一個のブロックが……。
このブロックは、昨日親っさんが先行して作った『煉瓦』みたいなものだ。
「えーっと、土の量は――」
「『赤煉土』が2、『白粘土』が1じゃ」
「っす。ちょっと白が多いけど、まぁ大丈夫かな?」
親っさんの作った煉瓦は、2種類の土を一定の割合で混ぜて作ったものだ。
大きさの割には軽く、けれど硬さも耐火・耐水性も高いという建築材料である。
今回のモルニック砦を作るメインの材料となるのが、この煉瓦だ。
その煉瓦を作る材料を前にして、俺は目を閉じて意識を集中させる――
――
頭の中に『イメージ』が現れる。
一つは、親っさんのサンプル。
一つは、煉瓦。
もう一つは、赤と白の土塊。
まずは煉瓦に意識を集中――しながら、土塊へも意識を向ける。上手く説明しづらいのだが、目線をどこか一点に定めつつその周囲まで広く見るような感じだ。実際にやろうとするとかなり難しいが、大分慣れて来たな。
――
――
――
煉瓦からは2種類の土の混じり具合や焼き固めた状態を『属性』として抽出。
サンプルからは縦横高さの寸法を『属性』として抽出。
2つの『属性』を組み合わせることで、『サンプルの大きさと一致する煉瓦』という『型』が出来上がる。
後は『型』に2種類の土を放り込めば、自動的に煉瓦が完成するという流れだ。
「……どっすか?」
集中していたのではっきりした時間はわからないが、今までの経験からして多分1分くらいで終わったと思う。
俺の前に置いておいた土塊が、煉瓦へと変わっていた。
それを親っさんは手に取り、触ったり軽く叩いてみたりして確認。
「――よし、問題ないぞい」
「おっしゃ!」
髭に隠れた口を確かに笑みの形にしてくれたのであった。
『スキル』――魔法とは異なる、はっきりと言ってしまえば『超能力』としか表現のしようのない能力が、この世界にはある。
そして俺にもなぜかスキルが与えられている。
俺のスキルは、『様々な物質を自在に操作する』ものと言える。
今やったように、完成品のイメージと必要な素材さえ揃っていれば、過程を無視して一気に結果へと至らせることが可能だ。
本来ならさっきの煉瓦は、2種類の土をちゃんとした割合で、適宜水を加えながら捏ねて混ぜてから型に押し込んで高熱で焼き固めるという手順が必要なのだが、俺のスキルであれば面倒な手順は全て飛ばして煉瓦が完成する。
煉瓦がどういうもので作られているのかを知らないと流石に作れないが、これもスキルで解決できてしまう。
煉瓦を作ったのが『
煉瓦がどういう組成なのかを知るのが『
順番としては、『解析』して知ってから素材を集めて『合成』するということになる。
このスキルのやべー点は、『作り方のわからなくなった伝説の金属』とかであっても、『解析』さえしてしまえば材料がわかるし揃えられれば『合成』できるというところだろう。
……まぁ建築する分にはそんな伝説の金属とかいらないんだけどな。
「そのまま煉瓦作りを頼むぞい」
「っす。ここにある山の分、全部同じ大きさでいっすか?」
「うむ、微調整が必要なら後でワシがやるでな。まずは煉瓦の数を揃えてしまおう。
その間にワシは次のことをやっておこう」
「了解っすー」
さて、スキルにはまだ続きがある。
材料があれば何でも作れるのは凄いとは言え、じゃあこれで砦を建てることができるかと言えばノーだ。
一個一個煉瓦をスキルで作っていたら、時間はともかく俺の精神が持たない。
そこでスキルの次の機能――『
今度は余り意識を集中する必要もなく、俺は土の山を視界に収めつつ脳裏に完成品の煉瓦を思い浮かべながらスキルを使用する。
すると、土が勝手にもぞもぞと動き出して次々と煉瓦へと姿を変えていく。
『複製』は文字通りで、材料さえあれば『合成』で作ったものを延々とコピーし続けるという便利能力だ。
親っさんがマスティフ隊長に『一ヶ月で砦を作る』と言った根拠の一つが、俺のスキルであることはもう言うまでもないだろう。
建物を作る上でかなり大変そうな『建築資材』を、短時間で簡単に作れるおかげで時間を大幅に短縮できるのだ。
一つ注意点があるのは、『複製』自体はいつでも使える――が、マジでコピー元と同じ形になってしまうというところかな。
親っさんの作った煉瓦でもコピーは可能だが、もしどこかがわずかに欠けてたりしたら、それもまるっとコピーしてしまうのである。
……まぁ親っさんの腕ならめちゃくちゃ綺麗な形の煉瓦なんて簡単に作れるんだけど、敢えて一度俺に『合成』させたのには
土の山を一瞬で煉瓦にすることは流石にできない。
感覚だと……多分、今日明日、明後日くらいはかかるかもなー。一個当たり大体1分ちょいで作れるっぽいし。
俺が『複製』で煉瓦を量産している間に、親っさんたちは並行して別の作業を進めていくみたいだ。
その方が効率いいしな。まぁ仕方ない……んだけど。
「…………誰とも話さず黙々とこれやり続けるの、微妙にしんどいんだよなー……」
意外と俺はさびしんぼうだったのかもしれない。
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