05 建設開始②

*  *  *  *  *








 我らがメタストラクト工務店は、長い歴史――なんてない、めちゃくちゃ最近できた会社だ。

 具体的には、俺がこの世界へとやってきて現・社長と『営業部長』に拾われてからになる。

 業務内容は『建設』だ。

 小さな物置から巨大な『ダンジョン』まで、何でもござれというのが一応の売りではある……が、実績は乏しい。まぁ出来立ての会社だしな。


 ……最初にマスティフ隊長から魔電話がかかってきた時に、ノンさんが『安心と信頼のダンジョン建設でお馴染みの』とぶっこいてたが、あれは――まるっきりの嘘ではないんだけど『メタストラクト工務店として』の実績ではなかったりする。

 俺がこの世界へ来る前、社長・営業部長・ノンさん、それに親っさんがとあるダンジョンを建設したことがあり、その時のことを言っているのだ。

 まぁ創業メンバーが作ったものだし、完全な嘘ではない……はずだ。






 それはともかく。

 アルマギウス聖法国首都にある我らが事務所へと戻って来た後も、親っさん一人が慌ただしく動いていた。

 やるべきことは山積みなのだが、それらを片付けるための『前準備』をここでしておく必要があるからだ。




「ジーク、素材集めは頼んだぞい。

 採ってきて欲しいものと量はここにまとめてある」


「……わかった」




 親っさんがまとめたメモをチラリと見てから、ジークは言葉少なく頷く。

 そう、ジークの役職は『調達部長』……建築資材の調達を担っているのだ。




「ジーク、どのくらいの期間が必要でしょうか?」


「……とりあえず、3日、くれ」


「承知いたしました。

 レオナルド様、ジークを連れて行ってきます」


「うむ、頼んだぞい」




 言うなり空間魔法でノンさんとジークが姿を消す。

 向かう先は、うちの会社が確保している鉱山の一つだろう。

 ……土地の権利? そんなものありませんが何か?

 どこかの国なり個人なりが所有しているところなら当然違法採掘だろうが、おそらくはノンさん以外に誰も足を踏み入れていない場所なら……まぁグレーなんじゃないだろうか。下手したら『大陸の外』かもしれない。

 この世界の土地とかの権利については、結構アバウトなのだ。割と言った者勝ちな面があることは否めない――将来的に色々と法律が整備されたり、国家間で認識が共有できるようになれば話は別なんだろうが、今時点ではそうではないので我々は好きにやらせてもらっているって感じだ。

 今更言うまでもないと思うが、我が社は『個人の持つ技能』にかなり依存している。

 親っさんの建築に関する技能なんかもそうだし、特にノンさんの空間魔法がなければ諸々成り立たない商売をしているという自覚はある。

 まぁそこを今後どうするかについては、社長たちが考えることだし、一平社員の俺が考えることではないか。意見を求められても何も出せないだろうし。


 …………あ、ちなみに『レオナルド』は親っさんの本名だ。




「親っさん、俺は?」


「少し待っとれ。今から『さんぷる』を用意するからの。

 ……ああ、そうじゃ。ワシの『魔晶板』の準備をしておいてくれ」




 『サンプル』――この世界にはこんな言葉はないが、俺が持ち込んだ言葉が色々と浸透している。わかりやすいので俺としても助かる。




「っす」




 ともあれ、親っさんが『サンプル』を用意するまでは俺にできることは何もない。

 言われた通り『魔晶板』の準備をして待っていることとしよう。




 『魔晶板』とは、元の世界だと……液晶タブレットかな? 自由に絵や文字を書き込めるタイプだ。

 これは別に俺が持ち込んだ知識ではない。超高級品ではあるが、魔電話同様にこの世界に元からある技術である。

 仕組みとしては単純で、魔力に反応して発光する性質を持つ『魔晶石』を細かくタイル状に並べ、魔力のオンオフで明暗を分けるというものだ。

 あんまり詳しくしらないけど、元の世界の液晶と仕組みとしてはほぼ同じなんじゃないかな? 電気か魔力かの差があるだけで。

 ただ、流石にカラー表示にはまだ対応していないらしい。一般にはほとんど流通していないので、研究もあまり進んでいないんじゃないかな……。

 モノクロで色々描ける……ということを考えると、液晶タブレットというより電子メモに近いかもな。


 ちなみに魔電話も『魔晶石』を利用した通信機だ。

 こちらは、特定の周波数――この世界では『魔力波』というらしい――の魔力を送信し、対応する受信側とつなげるという技術らしい。

 遠距離にいる相手との会話をする魔法自体は元から存在していて、それを『魔晶石』を使うことで誰でも使えるようにしたものが魔電話とのことだ。


 ……あれ? となると一個疑問がある。

 

 『魔王軍』相手でも構わず仕事をするが、だからと言って国を跨いだ先にまで『うちの魔力波電話番号はこれでーす』なんて宣伝はしていない。仮にしていたとしたら、もっとうちの仕事はいっぱいあるはずだ。ま、うちの規模じゃ回らないだろうが。

 うーん……? ランダムな魔力波を出し続けていれば偶然繋がるってことはありうるらしい。出鱈目な電話番号でつながる時があるのと同じ理屈で。

 ただ、明確な目的=砦の建設があって、そんなことするかって疑問は残る……。

 となると――誰かから聞いた、としか思えない。


 ……んで、その『誰か』に滅茶苦茶があるんだよなぁ……。

 その心当たりに問い詰める――のも難しいか。今どこにいるかわからねぇしな……。




「おーい、準備はできたかの?」


「あ、っす。『魔晶板』はオッケーっす。

 ……親っさん、茶ぁ飲むっすか?」


「……おう、そうだな。一杯頼まぁ」




 ドワーフは酒好きってイメージもあるが、親っさんは流石に仕事中は飲まないのだ。

 飲んでも酔わないが、本人曰く『微妙に頭が鈍る』とのことだ。

 そーゆーもんか。俺、未成年だし、真面目だし……酒飲んだことないからわからんけど。

 本人の希望もあるし、俺は熱い茶を準備するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る