04 建設開始①

*  *  *  *  *








「ここが建設予定地かー……」




 マスティフ隊の駐屯地から外へ出て、彼らの目が届かない位置へと移動。

 その後、俺たちは今回の目的地である砦の建設予定地へと移動していた。

 もしかしたらマスティフ隊の誰かが俺たちのことを監視していたかもしれないが、いたとしたら今頃驚いているだろう。

 ほんの一瞬で俺たち全員の姿が消えていたのだから……。




 これがノンさんの持つ特殊能力――の効果だ。

 異世界の魔法についてはまだ勉強中なので俺の理解が間違っている部分もあるだろうが――

 ざっくりと言うと、俺たちの今いる世界空間とは別の空間……とりあえず『亜空間』と呼べばいいのだろうか、そういう『別の空間』を自在に操ることができる魔法らしい。

 ノンさんはこの亜空間を利用して色々と物を収納したり、亜空間の出口をこの世界の別の場所につなげることで『ワープ』することができるのだ。

 、ノンさんの空間魔法のおかげなのである。

 で、今度はマスティフ隊の駐屯地から砦の建設予定地へとワープしてきたというわけだ。

 ちなみに、ワープ自体は距離に関係なくできるのだが、ワープ先はらしい。

 ……ノンさんはエルフだし寿命が長いのだろうからあちこち旅していたから、という理屈はわかるが……あまりにもワープで行ける先が多すぎる気はする。

 ま、その辺りの秘密を問いただせる度胸は俺にはないけどな……。いつか知る日が来るのやら。




 ともかく、俺たちはこれから砦を建てるところへとやって来た。

 ……んだが……。




「これは――見事に何もないっすね」




 見渡す限りの荒野って感じの場所だ。

 本当に何にもない……。




「ふーむ……」




 親っさんは辺りを見回したり、あちこちに地面に手を置いて色々と調べたりしている。

 さっきの話し合いの最中からだろうが、現地に来て親っさんの頭はフル回転で『設計図』を描いていることだろう。

 ……『ドワーフ』というと、手先が器用な種族というイメージは日本人でファンタジー作品を少しでもかじったことの人なら共通でもっているものだろう。

 この世界のドワーフは俺のイメージするドワーフとほぼ同一と言っていいと思う。

 でも、『手先が器用なドワーフ』が得意とするのは、武器とか工芸品とかそういう物作りをイメージするのではないだろうか。

 それも合っている。

 親っさんは体格もそうだが、その点においてもドワーフの中ではかなり珍しい――『異端』と言っても差し支えない存在なのだ。


 もちろん親っさんもドワーフだし、いわゆる『鍛冶師』がやるようなことは一通りできる。

 それ以上に親っさんが興味を持ち心血を注いで打ち込んでいるのが、『大きな建物の建設』なのだ。

 鍛冶師としても一流だった親っさんが、ドワーフが中心となって組織している鍛冶師組合ギルドを抜けてうちの会社に務めているのはそういう理由があるらしい。


 そんな親っさんも、ノンさんの空間魔法のように『親っさんにしかできない』技能を幾つも持っている。

 そのうちの一つが『極め尽くした大地属性の魔法』だ。

 今やっているのは、大地魔法を使って地盤の強度や質の確認といったところだろう。もしかしたら、ついでに地下に『水』があるかも見ているかもしれない。


 で、地面を調べつつ頭の中では建物の設計図を描いているって感じだと思う。

 ……この状態の親っさんに話しかけても、空返事しかしてくれないんだよなぁ……怒鳴られるよりはいいかもだが……。




「「……」」




 …………めっちゃ空気が重い。

 何を考えているのか全く読めない、無表情で佇むノンさん。

 その後ろには、ノンさん以上に何を考えているのかわからない――しかも体格や見た目から黙っていても周囲に威圧感を放つジーク。

 親っさんの作業が終わるまでは皆してここにいるしかないのだが、雑談でもして時間を潰すってこともできない面子だ。

 俺たちの主な移動手段がノンさんの空間魔法なので、親っさんだけ残して一度事務所に戻るというわけにもいかないので仕方ないんだが……。




「にしても、こんなところに砦なんて建てて意味あるんすかねー?」




 返事は期待せず、俺は俺で独り言を呟いて気を紛らわせるしかない。

 まぁ返事が返ってきたらそれはそれでびっくりだが。




「…………意味は、ある」


「うおっ!? ジーク!?」




 ……マジでビックリした。

 俺のつぶやきにぼそっとジークが返してくれたのだ。

 珍しい。いつもむっつりと黙っているのに……。

 ちなみに、ジークの声は割と低めで渋かっこいい。声までイケメンとか羨ましすぎる。




「……意味って?」


「…………中継地、だろう」




 わからん。




「おそらくは、ここ――『モルニックの野』に拠点を築き、北方への足がかりとする計画なのでしょう」




 ノンさんが言葉足らずなジークの補足をしてくれる。

 『モルニックの野』……ってのは、今いる場所のことだろう、多分。




「『魔王軍』の本拠地は南方の海を渡った先――この大陸の南岸部には進出できても、そこから北方へと進むには不安が残ります。

 『魔王軍』としては急ぎ南部を奪うことが望ましいですが、容易ではありません。戦力次第ではありますが、長期戦になることは必至でしょう」




 まぁそれはわかる。

 『魔王軍』の本拠地は、海を渡った先にあるのは俺も知っている。

 そして、そこから沿岸部へと進出して、南部の国々へと侵攻しているということも。

 でも、更に北――目指して進むことは困難だ。その最中には幾つもの連盟国があるのだから。




「先程のマスティフ様の仰った要件から推察するに、求めているのは前線への補給を行うための拠点でしょう。

 建築する砦の規模からして大軍の拠点としては不向き。そして『水』に拘りがない――モルニックの野では水が取れないことは承知の上で、水を始めとした各種物資の保管庫としての役割が主になると思われます」


「はぁ……そういうことですか」




 要するに、でっかい倉庫をここに建てて利用しよう、という腹積もりということか。

 で、マスティフ隊自体は倉庫の周囲に今まで通り野営するのが主になり、その防衛を行う。

 後方から届く物資は砦に集めて、そこから北方へと展開する部隊へと分配して輸送。

 首尾よく北方を落としたら、そっちを拠点として態勢を整えつつ、作った砦はそのまま中継点として扱うってことなのかな。

 元居た世界みたいに、海を跨いで飛んで行くミサイルとかがあるわけでもない。地面での切った張ったがメインとなる世界だ、じわじわと進める範囲を広げていくしかないのだろう。




「上手くいくっすかね?」


「…………それは、オレたちの、知るところでは、ない」


「……っすよねー」




 わが社の威信にかけて砦自体はちゃんと作るけど、それでマスティフ隊、ひいてはその背後の『魔王軍』が思う通りに事が運ぶかどうかは知ったことではないか。

 精々、あっさりと崩れないような頑丈な建物を作ってあげることくらいだな、やれることは。








 こんな感じでポツポツと会話をしつつ時間を潰すこと数十分くらい。




「よしよし。なかなか良いものが作れそうじゃ。

 事務所に戻るぞい」




 一人ご機嫌な親っさんの言葉に従い、俺たちは再びノンさんの空間魔法によって移動することとなった。

 ……へと。

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