02 マスティフ隊

*  *  *  *  *








 『廃墟』と言っても差し支えのない場所を、俺たち『メタストラクト工務店』社員の4人は歩いていた。

 相手方の案内人に続いて、先頭を堂々と進むのは、金髪美女エルフのノンさん。


 その次に進むのが、ずんぐりとした体形のヒゲ面の爺さん――『設計部長』の親っさん。

 年寄で背が低い……というわけではない。それなりの歳なのは間違いないだろうが、実年齢は知らない。

 親っさんは『ドワーフ』という種族なのだ。

 種族全体の特徴として、身長は結構低め――親っさんは大体150cmくらいだろうか。本人曰く、ドワーフの中ではかなりの長身だそうだ。

 背は低いが体格はかなり良く、一見すると太ってるようにも見える……が、その実、全身筋肉の塊となっている。腕なんて、俺の倍以上の太さはある。


 親っさんと並ぶ位置を進むのが俺――タケル。

 黒髪黒目、日本にいたら一切目立つことのない至って普通の男子だ。

 ……が、周囲の視線の多くは超美女のノンさんではなく俺に向けられている。より正確には、ノンさんに視線を向けてあまりの美人度に思わず視線を逸らし、次に目立つ俺を見るって感じか。

 理由はまず間違いなく『服装』だろう。

 俺が着ているのは、日本だったら目立つことはないがこの世界だと目立ちまくる……『学ラン』だ。

 もしかしたら、『どこかの軍人なのか?』とでも思っている人もいるかもしれない。


 最後――俺たちの後ろを歩いているのは、大柄な青年。

 俺と同じ黒い髪に、首から下を黒い鎧で覆っている、いかにもな『騎士』だ。ただし、武器になるようなものは一切手にしていない。

 さっき親っさんがドワーフにしてはかなりの長身と言ったが、この青年は人間にしてはかなりの長身と言える。多分だが、2m近くはあるんじゃないだろうか……ドワーフやらエルフやらがいるこの世界でも、ここまでの長身はかなり珍しいと以前聞いたことがある。

 いつものことだが、ノンさん以上の鉄面皮で一見すると怖い印象があるが、当然のようにイケメンなのでむしろ『寡黙なイケメン』って評価になる。ちょっと羨ましいような気もする。ないものねだりだけどな……。

 名前はジーク。彼も当然『メタストラクト工務店』の一員である。






 俺たち一行が進んでいるのは『廃墟』……のように見えるが、そうではない。

 ここは『魔王軍』のとある部隊の野営地の真っただ中だ。

 『廃墟』というのは実際はそう的外れな感想ではなく、昔は小さな村があった場所らしい――廃村になったところをこの部隊が野営地として利用しているというわけである。

 というわけで、さっきから俺たちに視線を向けているのは『魔王軍の兵隊』ということになる。

 ……ぶっちゃけ、俺は内心かなりビビッているんだが、表情や態度に出さないように必死に堪えている真っ最中だったりする。

 まぁってわかってはいるが……。






 微妙に落ち着かない道行を進むこと数分。

 俺たちの行く先に、他よりは少し立派なテントがあった。

 テントと言ってもキャンプで使うようなものじゃなく、戦争物の映画とかで見るような……『臨時の指揮所』って感じの大きなテントだ。

 そのテント前には、兜こそ被っていないがジーク同様に鎧を着込んだ大柄な男たちが待ち構えていた。




「よくぞ来た」




 男たちの中心にいる、厳めしい鎧をまとった大男が偉そうな口調でそう言う。いや、実際偉いんだろうな、多分。




「この部隊を預かるマスティフだ」




 ほらやっぱり……。

 部隊の隊長ってことね。

 マスティフ隊長は――をしているので、正直年齢どころか表情自体も俺には読み取れない。もしかしたら犬じゃなくて狼かもしれないが。

 この世界において『獣人』と呼ばれる種族なのは間違いない。

 ……ちなみに、獣人は例外なくマスティフ隊長みたいな感じの姿だ。

 簡単に言えば、『動物の頭』『人間の身体』をしている。

 よくあるケモ耳の生えた萌え萌え獣人は存在していないらしい。まぁ別にどうでもいいけど。




「本日はお時間を割いていただきありがとうございます」




 魔王軍の部隊長相手にも全く変わらぬペースでノンさんは深くお辞儀をして返す。

 親っさんもジークも、特に何とも思っていないみたいだ……肝っ玉太いなぁ皆……。




「うむ。こちらまで来てもらって感謝する。

 早速で悪いが、『仕事』の話をしたい。こちらへ」




 こちらの反応が期待通りだったのかどうかわからないが、マスティフ隊長は――少なくとも俺には判断がつかない――特に表情を変えることもなく、自ら幕屋の奥へと俺たちを導く。

 何はともあれ、『仕事』の話が肝心だ。そのために俺たちはここまできたのだから。

 そう、『仕事』だ。

 『仕事』なんだから相手の素性なんて気にしてはいられない――きちんと対価を支払ってくれるなら、たとえ『魔王軍』であろうとも関係ないのだ。

 ……俺たちメタストラクト工務店が、今まさに『魔王軍』に攻め込まれているアルマギウス聖法国に居を構える会社だとしてもーー

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