CASE01:モルニック砦建設案件

01 メタストラクト工務店

*  *  *  *  *








「魔電話ありがとうございます。こちら『安心と信頼のダンジョン建設』でお馴染みの、メタストラクト工務店でございます」




 透き通った綺麗な、けれども感情のこもっていない平坦な口調でそう喋る女性を横目に、俺は自分のデスクで暇を持て余していた。




「はい…………はい。ええ……」




 左手で魔電話の受話器を持ち会話を続けながら、右手に持つペンは止まることなくさらさらと手元のメモに色々と書き記している。

 ぱっと見ただけなら、電話の受け答えをしているOLとかなんだけどなー……と思うけど、現実はそうではない。

 魔電話を受けている女性は一見すると金髪の人間の女性だが、人間ではありえないくらい耳の先端がとんがっている。


 ――『エルフ』ってやつだ。そのくらいは俺でも知っている。


 電話番しているエルフとか、まぁかなり非現実的だよな……エルフの存在自体がって言われれば、まぁそれはそうなんだが。






 俺が今いるのは、日本じゃない――いわゆる『異世界』なんだなぁって思い知らされる。毎度のことだが。

 流石にもういい加減慣れた気ではいるんだけど、時々こうして思ってしまうってことは……やっぱり『未練』があるってことなのかなともちょっと思う。

 ……ま、それはどうでもいいことか。




「――失礼いたします」




 十分ちょっとくらいだろうか。

 通話は終わったようで、彼女が受話器を戻す。




「……『仕事』の話っすか?」




 内容は当然わからないけど、畏まった口調だったしそうなんじゃないかなと、思ったままのことを聞いてみた。

 単に無言の空間に耐え切れないので、という理由もあるが。




「はい」




 当然のこと聞くんじゃねーよ、という気配もなく、淡々とただ聞かれたことに答えましたという風に返される。

 うーむ……見た目が超美女なだけに、『冷たい』というより『クール』という印象になる。




「タケルさん。設計部長と一緒に会議室へと来てもらえますか?」


「っす。呼んでくるっす」




 どうやら速攻で仕事の話が始まるらしい。

 ま、暇だったからいいけど……。

 ちなみに、『タケル』というのが俺の名前だ。

 肩書は…………一応『平社員』になる。悲しい。

 伝えるべきことは伝えた、とばかりに彼女はさっさと自分の荷物を纏めて席を立ち、一足先に会議室へと向かおうとしていた。




「あー、ノンさん」


「なんでしょうか?」




 『ノン』――それが、先ほどから会話しているエルフの超美女さんの名前だ。

 一応肩書としては、『社長秘書』兼『総務部長』兼『経理部長』兼『受付窓口』兼その他諸々になる。

 仕事がめちゃくちゃ多そうに見えるし実際多いんだが……色々と兼任しないとやってられない規模だからなぁ、

 それはともかく。




「……もしかして、、とか……?」





 おーぅ……やっぱりかー……。

 無駄口一つ叩かず、無駄行動もしないノンさんならそうだろうと思ったよ……当然、お客さん――さっきの魔電話相手とも調整済みなんだろう。

 普段は暇なのに、いざ仕事となったら急に過密スケジュールになるのがちょっとなぁ……ってとこなんだよな、この会社。




「…………了解っす」




 他に用事はないのか? と無言で問いかけてくる澄んだ瞳に意見など言えるはずもなく。

 俺は大人しく親っさん――設計部長のところへと向かうのだった。

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