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小野山由高

プロローグ

四天王との決戦!!

 大陸東部――神聖アルマギウス連盟圏の南東部。

 カッバレ平原、そしてその南方に聳え立つカッバレ山地の頂上付近に、壮麗な『城』が聳え立っている。

 古代においては『聖地』とされ、アルマギウス教の世になった今でも神聖な地として崇められていた山ではあるが、その頂に建つのは崇められていたものとは真逆の存在の『城』である。




 ――魔王軍四天王筆頭・"煌翼天"パッヴォーネの『極楽城』




 大陸最大の勢力と言っても過言ではない神聖アルマギウス連盟圏へと侵攻する魔王軍の城である。

 どれほどの労力を使ったのだろうか、カッバレ山の頂を大きく削って建てられた城だ。

 『極楽城』本城を取り囲む三重の城壁が取り囲んでおり、城壁自体もまた『城』であり各個突破しなければならないという、『ダンジョン』とも言うべき構造となっている。

 特筆すべきは麓のカッバレ平原からも視認できるほどの巨大さと、"煌翼天"の名に恥じない輝きを放っていることだろう。

 特に城の大きさは常軌を逸している。


 単に巨大な建築物というのであれば、この大陸には他にも幾つも存在する。この『極楽城』以上の城も珍しい存在ではない。

 『極楽城』が他の建築物と一線を画すのは、『立地』だ。

 『聖地』と崇められる山とは、すなわちである。

 山に棲まう獣であっても、空を舞う鳥であっても、この高き山の頂には至らないであろう――ましてや地を歩くしかない人間には。


 そんな場所に、常識外れの規模の城が建ったのだ。


 一体どうやって、

 カッバレの地に住む人々に


 人智を超えた建築物と魔王軍の侵攻に、人々は恐れおののくしかないのであった。






 そんな『極楽城』で、一つの戦いが新たな局面を迎えようとしていた。








◆  ◆  ◆  ◆  ◆








「アッハハハハハハ! ここまで来るとは流石だねぇ!」




 『極楽城』を背に、極彩色の翼を生やした美女が哄笑をあげる。

 空を自在に舞う鳥人バードマン――"煌翼天"パッヴォーネである。




「くそっ、降りてこいてめぇっ!!」




 パッヴォーネは自らの翼で宙を舞い、侵入者たちを翻弄している。

 侵入者たちのリーダーと思しき、剣を手にした少年が叫ぶものの、当然パッヴォーネが降り立つわけなどない。

 頭上を取る優位を自ら失う理由など何もないだろう。




「フッ……だが、本番はここからよ!」




 そう言うと共にパッヴォーネが『極楽城』の頂へと飛び、姿を消す。

 三層の城壁を乗り越え、更に『極楽城』をも超えてみせよということだろうか。

 ここまでの道のりも生半可ではなく、配下のモンスターとの連戦続きであった。

 となれば本丸となる『極楽城』には更に厳重な警備が敷かれている可能性は高い。

 侵入者たちの消耗を誘う作戦か――そう思われたが……。




「!? な、なんだこれっ!?」




 パッヴォーネが姿を消すと共に『異変』が起こり始める。

 『極楽城』が――否、カッバレ山そのものが大きく揺れ始めたのだ。

 地震……ではない。

 かなり強い、そして短い揺れが絶え間なく起こっている。




「ヤバいぞ! 一旦離れろ!」




 真っ先に異変に気付いたのは、先頭に立つ剣を持つ少年だ。

 彼の足元の大地が大きく裂け始めていることに気付いたのだ。

 彼と仲間たちは『極楽城』から離れ、再び城壁の方へと戻るしかなかった――なぜならば、大地は『極楽城』を中心に裂け始めているからだ。






「…………マジかよ……!?」




 揺れが続いたのは数分。

 恐る恐る城壁から『極楽城』の様子を窺った彼らが目にしたものは、信じがたい光景だった。




「城が…………!?」


「い、いや、だ!」




 つい先ほどまであったはずの『極楽城』が消え、替わりに深い穴がぽっかりと開いていた。

 咄嗟に上を見上げたメンバーの一人が、『極楽城』の行方を見つけ出す。






 周囲の大地ごと、『極楽城』が

 カッバレ山地の頂上付近から更に上空……たとえ翼ある者だとしても、辿り着くのは難しいであろうほどの高度だ。

 空中要塞――それこそが、『極楽城』の真の姿だったことに、侵入者たちは否応なく気付かされた。




「……どうすればいいんだ、あんなの……!?」


「飛行の魔術でなら――いや、でも城自体が動いてしまったら……」




 パッヴォーネを倒さない限り、カッバレへと侵攻してきた魔王軍を止められない。

 地上にいる魔王軍だけを倒したとしても、空中要塞から援軍を送られるあるいは空中からの攻撃で一方的に被害が広がるだけだろう。

 四天王筆頭は伊達ではない。

 ……そもそも『戦い』にすらならない状況に陥ってしまっている。




「どうにかしてあの浮遊城に乗り込む手段を考えないとな……」




 浮遊城を墜とす、という発想はない。

 現存するいかなる攻城兵器や魔法を用いたとしても、空高く浮かぶ城を墜とすことは不可能である。

 火力以前に射程距離が到底足らないのはわかりきっている。




「何かいい知恵はないのか、爺さん?」


「うむ……そうじゃのう……。

 ここより遥か東の地に伝わる『伝説の霊鳥』の力を借りることができれば、あるいは……」




 剣を持つ少年が仲間の一人――賢者然とした老人へと問いかけると、そう答えが返って来た。

 東方の霊鳥伝説は、大陸にも広く伝わるメジャーな伝説だ。

 ただ、あくまで『伝説』であり、本当に霊鳥が存在するかもわからないし、仮に存在していたとして浮遊城攻略に手を貸してくれるかはわからない――意思疎通できる相手かどうかも。




「他にいい案が思いつかないし、行ってみるしかないか……」




 剣を持つ少年の言葉が全てだった。

 他にいい案がない。

 そして、伝説の霊鳥も解決案になるとは限らない。

 それでも少年たちは東を目指すという選択を採らざるを得ない事情があった。






 なぜならば、彼らはアルマギウス聖法国によって選ばれた『勇者』たちなのだから――








◆  ◆  ◆  ◆  ◆








 大空を舞う『浮遊城』


 海底に揺蕩う『海底城』


 火山そのものを要塞とした『火焔城』


 ……それらを除いても、僅かな時間でありえない位置に『人類の敵』の居城は現れていた。






 この物語は、そうした人智を超えた居城を攻略し、魔王軍と戦う勇者たちの物語――








 








◆  ◆  ◆  ◆  ◆









 『極楽城』のあった山頂――の隣の山の頂にて。

 かなりの距離が離れてはいるが、『極楽城』はそちらからでも確認することはできる。それほど巨大な城なのだ。




「うおーっ! すっげー!!

 親っさん、マジで空飛んでるっすよ!!」




 『極楽城』が宙へと浮かび『浮遊城』となる瞬間を目撃し、黒髪の少年が歓声をあげる。




「うむうむ、にはなったようだな」




 『親っさん』と呼ばれた少年の隣にいる、少年の胸元くらいまでの高さの老人――否『ドワーフ』の男性が、長く伸びたヒゲを撫でながら満足そうに『浮遊城』が浮かび上がっていく様を眺めている。




「とはいえ、やはり事前に確認できないというのはなぁ……」


「っすねー。多分、勇者たちに城壁を突破されたんで『浮遊城モード』にしたんでしょうけど、不発に終わったら超ダサいっすからねー……」


「……まぁ、依頼人クライアントからは『城を飛ばす方は自分で何とかするから、飛ばす負荷を減らすように』と言われてたしな」


「飛ぶの失敗しても、俺らのせいじゃないっすよねぇ?」


「……と言いたいところじゃが、何が原因で飛ばなかったかがはっきりせんと、責任がこっちにくるかもしれんなぁ。

 まぁ何にせよ、成功してなによりだがなぁ」




 少年とドワーフの老人が和やかな会話をしている横で、一人の女性が地面に崩れ落ちていった。

 彼女の背には翼が生えている――パッヴォーネと同じく、バードマンである。




「くぅぅ…………!!」


「え!? 何がっすか、リザさん!?」




 がっくりと崩れ落ちていたバードマンの女性――『リザ』は、少年の言葉に反応し『浮遊城』を指差し叫ぶ。




「あそこ見なさいよ、タケル!! ……そう城の下側よ!

 あああああああ……あんな土塊がくっついて……ひぃぃぃぃ!? ボロボロと鳥の糞みたいに土が零れ落ちていってるぅぅぅぅ!?

 な、なんて美しくない……!!

 ぐあああああああああやっぱもう少し工期もらって浮遊城モードになった時のデザインを凝らせてもらえば良かったぁぁぁぁぁ……あぁぁぁぁ……」


「お、おう……そっすか……」




 ひとしきり叫んでまた崩れ落ちていくリザに、黒髪の少年――『タケル』は気圧されればいいのか慰めればいいのかわからず少し混乱したが、




「ま、まぁとにかく今回のはこれで完全に終了ってことで!」




 適当に茶を濁すことにしたようだった。

 勇者たちとは異なるルートでカッバレ山地を登り、『極楽城』および『浮遊城』を眺める彼らは――




 と、そこで彼らの背後の空間に『穴』が開く。

 ――大陸でも使い手の限られた、空間転移魔法が使われたのだ。




「お疲れ様です、皆さま」




 空間の『穴』から、ピンと先端がとんがった耳が特徴的なエルフの女性が現れる。

 すらっとした長身の美女だが、にこりとも笑わない表情が『冷たい』『厳しそう』という印象を与えている。

 彼女の言葉に、『タケル』『親っさん』が振り返り、へこんでいた『リザ』も立ち上がり膝の砂を払う。




「「「お疲れ様です!」」」




 まるで軍隊のように、三人は声を揃えエルフの女性へと敬礼を行う。

 ある種異様な光景ではあるが、この場にいる誰も気にはしていない。

 敬礼された女性も気にすることもなく、手元に持った何らかの書類に軽く目を通し、三人に告げる。




「パッヴォーネ様の依頼はこれにて完了となります。

 『営業部長』より次の案件の話が来ておりますので、このまま皆さまを『事務所』へとお連れいたします」


「「「……」」」




 エルフの女性の言葉にひきつった表情となりつつも、三人の誰も否を返さない。

 ……あるいは返せないのか。

 無言は承諾ととったか、そもそも三人の意思など考慮する気もないのか、エルフの女性は自分が通って来た『穴』の前から一歩横へ。


 ――このまま『穴』に入れ


 そういう意味なのは、何も言われずとも三人にはわかっていた。




「……じゃ、行くとするかの」


「……っすねー」


「はぁ、まーたお仕事かー……」




 小声でブツブツと呟きつつ、諦めたように三人は『穴』の中へ。

 入ると同時に三人の姿はこの場から消え、別の場所へと時間も距離も無視して移動していった。




「――ふむ。暇よりは忙しい方が良いと思いますが」




 一人残ったエルフの女性は、最後の『リザ』のつぶやきに対して独り言でそう返してから、彼らの後を追って『穴』へと入る。

 そうして、彼女が消えた後に『穴』も消え――後には何も残らなかった。








◆  ◆  ◆  ◆  ◆








 この物語は、人智を超えた居城を攻略し、魔王軍と戦う勇者たちの物語




 人智を超えた居城を建築することを生業とする、とある工務店の物語である。

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