第20話◆わたくしと封鎖された玄関
「うわぁ……これはエグい。よかった、正面玄関は何となく嫌な予感がして裏口から声をかけてよかった……って、何てものを正面玄関に仕掛けてるんですか!?」
「だって女の一人暮ら……使用人が最低限しかいませんから、目立つ侵入経路はできるだけ潰しておいた方が安全かと思いまして? ほら、現に時間稼ぎになってるじゃないですか。そういえば眼鏡君は初手から裏口派でしたわね……チッ、勘のいい眼鏡ね」
「今、舌打ちした!? 絶対しましたよね!? それと何か重要なことを言いかけませんでした??」
「いえいえ何も重要情報なんて言っていませんわ。それより、あまり騒ぐと見つかってしまいますのでお静かに」
「あ、はい。ところで気配を消すのが妙に上手いメイドさんですね」
「え? ほほほほ、メイドたるもの気配消しくらい得意なものですわ~。それよりご覧になって下さい、アグリオスの腰巾着君がトラップに引っかかって頭がチリチリになっていてザマァですわ。ザマァって気持ちいいですわね」
「え? 腰巾着君? あ、マジザマァ! 僕もあの人苦手なんですよね。ていうか、うっかりアグリオス様を呼び捨てにしてますよ!」
正面玄関付近での騒ぎ声が気になりアグリオスを迎え撃つ身支度は諦め、庭の正面玄関付近が見える建物の角へと移動して、気配を消しながらコソコソと正面玄関の様子を覗くわたくしと眼鏡君。
アグリオスは無駄に気配に敏感そうですから、あまり大きな声を出さないで下さいまし。
ていうか眼鏡君のくせに、気配を消すのが案外お上手ですわね。
アグリオスに気付かれないように王太子妃教育で習得した気配消しに加え、まさに今日冒険者ギルドの講習で習った更に上手く気配を消すコツを実践しながら、正面玄関前の様子を窺っていた。
正面玄関前では見覚えのあるヒョロヒョロ男が茶色い髪をチリチリにしながら、扉をドンドンと叩きながら無理矢理開けようとしているのが見える。
ああ~、お客さまぁ~~! その扉は強い衝撃を与えると雷魔法が発動してバチンと言ってしまいますわ~!!
静電気がやや強くなった程度のはずなのに、何回喰らった髪の毛がそんなにチリチリボサボサに逆立つのですか~~?
あ、また扉を叩いてバチンとなりましたわ~。ヒョロヒョロ男のくせに意外と頑丈ですわね。
そのヒョロヒョロの男の後ろには腕組みをしたアグリオスと、その部下だか取り巻きだからしい男が数名。
わたくしのところからではアグリオスの表情までは見えないが、おそらく眉間に皺を寄せた厳しい表情をしていることだろう。
アグリオスはもちろん別邸の鍵は持っているはずだが、鍵とは別にわたくしが内側から簡単な封印をしていたため玄関が開かなくてこの騒ぎになっているのだと思われる。
しかも無理矢理開けようとして、わたくしが仕掛けた侵入者排除のトラップが発動しまくってこの騒ぎの様子。
雷撃トラップのせいで髪の毛がチリチリになりまくっているヒョロヒョロ男は、学園時代にもいたアグリオスの腰巾着。
確かシャングリエ公爵家の傍系の家門出身で、学園でも常にアグリオスと共に行動をしていた男だ。
アグリオスとは乳兄弟らしく、名前は何といったか……そうそう、フィリップ・カバーンでしたわね。
フェンリルの威を借る何とやら。
学園時代では王太子の取り巻きのアグリオスの取り巻きとして、彼らが近くにいる時はやたら威張り散らしていたが、彼自身は子爵家の三男だったか。
単騎の時や、他の身分の高い家門出身の前では急に大人しくなる小物である。
こいつもフリージアに釣られていた一人だが、フリージアに釣られた男の中では低スペックすぎてフリージアには相手にされず、ただの賑やかし要員の全く目立たない男だった。 なのだが、王太子やアグリオスが近くにいる時やフリージアの前ではいきり散らしてわたくしによく嫌味を言ってきていた。
そんな奴が玄関を無理矢理開けようとして、わたくしお手製のトラップで頭チリチリなんてザマァですわぁ! もう少し強烈な雷撃にしておけばよかったですわぁ!
ついでにアグリオスも頭チリチリになってしまえばいいのに、後ろから見ているだけで用心深い男ですわね!
「ところでこの状況どうしたものですかね。アグリオス様を出迎えるのは諦めて、マルガリータさんは何か策はあるのですか? しかも玄関を内側から封鎖したりトラップを仕掛けたり、どう言い訳をするつもりですか?」
ええ、諦めました。
だって先触れと一緒にくるなんて非常識すぎですもの。
もちろんわたくしが別邸を抜け出して町へ行っていたことは棚に上げておきますわ。
出迎えるのは諦めたので、帰ってもらうしかありませんわね。
「そんなの簡単ですわ。マルグリット様は体調が優れず寝込んでいるので、明日の午前中に出直すようにとアグリオス様にお伝え下さいまし。こちらの生活に慣れず、この処遇にお心を炒められてお部屋に引き籠もられてますからね。明日の午前中で都合が悪いようでしたら、ご希望の日取りをお早めにお知らせ下さい、女の身支度には大変時間がかかるので――と念を押しておいて下さい。玄関の改造はそうですねぇ……使用人が少ないので安全装置を付けましたとでも言っておいて下さい」
眼鏡君に伝言をお願いして解決ですわ~~~~!!
身支度の時間がないのはどうしもない。ない袖は振れないのです。
なのでまた明日! 明日なら準備万端で迎え撃てますわ!
午前中を希望したのは、アグリオスと眼鏡をさっさと別邸からおいかえして、午後から冒険者ギルドで仕事をしたいからですわ~!!
「え、それを伝えるの僕がやらないといけないんです? 絶対、僕が嫌味を言われるやつじゃないですか。玄関のこともなぜ先に知らせなかったとか言われそうだし……玄関はマジで嫌な予感がしたから触らなくて、ホントに知らなかっただけだから……」
「ほほほ、ではそういうことで後は任せましたわ~!!」
「ちょっと!? あっ! 気付かれた!!」
眼鏡君の反論をサラッ聞き流しながら、わざと地面を踏む音をさせながら身を翻して裏口に向かって走り出した。
武術系の選考で好成績を残していたアグリオスなら、この音で確実に気がつくだろう。
そしてそこを見れば眼鏡君。
じゃ、そういうことで後はお任せしますわ~。
男を上手く使うのも女の立ち回り方なのですわ~!!
アグリオスとの勝負は明日にお預け、今日のところは腰巾着君のチリチリ頭で勘弁して差し上げますわっ!
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