第2話 悪夢
直進道路。普段、この時間にはほとんど車も通らない、何もない道路だ。だからこそ、スピードを出してもその恐怖も何もイメージできない道路。そんな道路に、普段ならばないものがあった。
走行車線にあったのは、1台の車。路上駐車をしていたのだ。運転手がそれを見つけたのが一瞬遅れたため、急ハンドルで対向車線へと飛び出る。対向車線には車は停まっていない。路上駐車を避けてから元の走行車線に戻れば何も問題はなかった。車内では急に車が揺れたため、乗っていた子たちはそれぞれに手すりに掴まったり椅子をしっかり押さえたりした。さっきまで大はしゃぎだった車内が一瞬にして、悲鳴が飛び交った。
バスは対向車線へと飛び出し、路上駐車を避けた後に走行車線に戻ろうとしていたが、駐車していた車の横を通り過ぎようとした時、対向車線側の端から人が飛び出してきた。おそらく駐車していた車の持ち主だろう。バスの運転手はその人を避けようと再び急ハンドルを切る。今度は走行車線に戻ろうとしたが、戻り切れなかった。直進道路には等間隔で中央分離帯が置かれていた。走行車線に戻れなかったバスは、このコンクリートでできた中央分離帯にぶつかり、止まった。
車内の子たちはその衝撃で、今までいた場所に留まれていた子はひとりもいなかった。椅子から落ちた者、後部座席から前方へと転がってきた者、座席の下に挟まれた者…。何が起こったのか。それを正確に把握できていた者は車内には居なかった。おそらくハンドルを握っていた運転手でさえ、それは同じだっただろう。
交通事故。これは本当に一瞬の出来事だ。車内にいたのは運転手を含めて全部で6人。バスの中には、5人しかいなかった。その5人は、泣きわめく者、声も出せないほど
ようやく我に返り、運転手は車外に出た。そこに6人目の乗車していた子の姿を見たのだ。大人は路上駐車していた男性と運転手だけ。この二人で救急車を呼び、警察に連絡をした。外に投げ出された子以外の子供たちは救急車が来るまでバスの中で待機となった。そして、程なくして救急車が到着した。
車外に投げ出された子のもとへ救急隊員が駆け寄る。
「大丈夫ですか?分かりますか?」
救急隊員の声の先に居たのが、昭子だった。昭子は、
「足が…ないんです」
と救急隊員に告げた。救急隊員は、昭子を見た。頭からは出血をしているが意識があるため座った状態。そして何度も「足がない」と繰り返していた。
「こちらが重傷です!先に搬送します!」
救急隊員の声が暗くなった現場に響き渡った。
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