第4話 初デートの約束
校内にチャイムの音が鳴り響く。
「やばっ、優真っちと話してたらもうこんな時間」
慌ただしくスカートのポケットから絵梨花はスマートフォンを取り出す。
「ほら優真っちもスマフォだして」
僕は言われるがまま絵梨花にスマートフォンを渡す。やはりセクハラの賠償としてスマートフォンをとられるということなのか。
とそんなことはなかった。
絵梨花は器用に両手で二つのスマートフォンを操る。
「はい、ライン交換しといたからよろしくね」
やたらと絵になるウインクをし、僕にスマートフォンを返す。日本人離れした外見だから、こういう仕草が似合う。
おっと絵梨花の美貌に見惚れていたら授業に遅れる。
僕たちはあわてて教室に戻った。
どうにか午後の授業には間に合った。
午後の授業はほぼうわの空でおわった。
脳内に絵梨花の声が何度もこだましてはなれない。
また彼女とアニメやゲームの話をしたい。そればかり考えるようになっていた。
絵梨花の笑顔がまたみたい。
だけど僕から彼女にはなしかける勇気はなかった。
放課後になり、絵梨花はトップカーストのグループと教室を出て行った。
僕にできたのはその背中を見送ることだけだった。
僕は自宅に帰った。いつものジャージに着替え、サブスクで見逃していたアニメを見る。そういえば絵梨花は機械仕掛けの聖騎士団が好きだと言っていたな。こんど彼女とあったときに話をあわせるために見直そう。
そう思いながら、アニメを見ているとスマートフォンがポンッと鳴る。
共働きの両親のどちらかからだろうか。
僕のスマートフォンが着信を告げるのは、両親か友達登録している声優かアニメの公式くらいのものだ。
スマートフォンの画面を見ると絵梨花からだった。
ソファーに寝転がっていた僕は思わず背筋をのばして座りなおす。太ももに絵梨花の肌のぬくもりが蘇る。
優真っちあんたの絵梨花だよ。今、何してる
なんだこのメッセージは……。
僕のスマートフォンを持つ右手が震えだす。
いつから絵梨花は僕のものになったのだ。
全部ひっくるめてどっきりなのか。だとしたら酷いはなしだが納得はいく。
どっきりが終わり、僕はもとの陰キャオタク生活にもどるのだ。まあ、もとにもどるだけなのだから、それでいいかも知れない。
ただ、何も返信しないのは悪いと思い僕はスマートフォンの画面をタップする。
アニメ見てる。
短く返信する。
何の?
秒で返ってきた。かわいいエルフの女の子の頭の上に?マークが浮かんだスタンプと共にだ。
機械仕掛けの聖騎士団と返信する。ヒロインのアリスのスタンプと共に返す。
親指を立てるエルフの女騎士のスタンプが返される。
そして次の土曜日暇?
というメッセージが送られる。
次の土曜日は午前はアニメを見て、午後はライトノベルを読む予定だ。
すなわち暇だ。
空いてる。
と返す。
よかった。じゃあ封印されし竜と千年の盟約見にいかない?
また秒で返ってきた。それにしても絵梨花は返信が早い。秒単位で返ってくる。これが陽キャののりなのだろうか。
僕はこんなにラインをやりとりがしたことがないので、指がふるえっぱなしだ。
たしか封印されし竜と千年の盟約は
まえまえから見にいきたいとは思っていたんだよね。
僕は指をふるえさせながら、生唾を飲み込む。
いいよと返す。
じゃあ十二時に難波駅集合ね。よろ。
またまた秒で返ってくる。
僕はあのクラスのカーストトップの千早絵梨花と映画を見に行く約束をしてしまった。そして土曜日になった。
僕は緊張しながら電車にのり、難波駅で降りる。
待ち合わせは駅改札を出てすぐのセブンイレブン前だ。
もしかしてやはりどっきりで僕が行くと誰もいなくて、一人寂しく帰るのではないかという不安に支配されながら、その場所に向かう。
その不安は一瞬で払拭された。
そこに絵梨花がいたからだ。
絵梨花はスカジャンにミニスカートというスタイルだった。竜の刺繍のスカジャンがかなりいかつい。でもミニスカートから伸びた長い褐色の足は魅力的だった。
あっこのスカジャンはたしか巻き戻し探偵神宮司那由多モデルのものだ。
僕をみつけた絵梨花はぶんぶんと長い手を振る。
まるで映画のワンシーンみたいだなと僕は思う。
たたたっと駆け寄り、なんと絵梨花は僕の腕に自分の腕を絡めてくる。
うっなにかとんでもなく柔らかいお肉のかたまりがおしあてられている。
「まったよ、優真っち」
にこにこと満面の笑みを絵梨花は浮かべている。
僕のほうがかなり背が低いので見上げる形になる。
見上げる絵梨花の横顔は息を忘れるほどかわいい。
「じゃあいこうか、優真っち」
僕は絵梨花に引きずられるようにして映画館にむかった。
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