第3話 褐色ギャルの告白

 昼休みになり、僕は学校の中庭にむかった。

 この友ヶ浦高校の中庭にはいくつかベンチがおかれていて、カップルたちがお昼ご飯を食べている。そう、ここは僕にとって一番縁遠いところだ。

 入学してから片手で数えられるほどしか訪れたことがない。


 そのベンチの一つに千早絵梨花が腰かけていた。長い足を組み、紙パックのイチゴオレを飲んでいた。

「ああ、来た来た」

 千早絵梨花は僕にむかって手をふる。ご立派な胸もゆれている。僕は思わず見惚れてしまう。仕方がないだろう、これが男のサガっていうやつだ。


「また優真っち、アタシのおっぱい見たでしょう」

 にゃははっと千早絵梨花は笑う。


 僕は理解した。

 僕が呼び出されたのは千早絵梨花をエロい目で見たからだ。

 セクハラで僕は退学になるのだろうか。

 女子がそういえば、有罪は確定するのだ。

 背中に冷たい汗が流れる。


「ほら、ここに座りなよ」

 どんどんと千早絵梨花はベンチをたたく。

 きっとセクハラの罪で僕を追い詰めようと彼女はしているのだ。

 僕はよくて高校中退なのか。

 震えながら、ベンチの端にすわる。


「はあっ!? そんな端っこで話せないでしょうが。こっちに来なよ」

 またばんばんと千早絵梨花はベンチをたたく。

 僕はおそるおそるベンチを移動する。

 人一人分ほどの距離を開けて座る。

 これ以上セクハラの罪を重ねるわけにはいかない。

「もしもし、アタシの言ったこと聞こえてますか」

 千早絵梨花は僕のみみたぶをつかむ。

 自分の隣に引き寄せる。

 僕は千早絵梨花のすぐ隣にすわることになった。

 千早絵梨花のむっちり太ももが僕の足にふれる。

 うっ柔らかくて温かい。

 僕の心臓が早鐘を打つ。


 そうか真横で僕のセクハラの罪を問いただそうというのか。

「ごめんなさい、千早さん」

 僕はせめて罪を軽くしてもらおうと先に謝った。


「えっなんで優真っちが謝るの。うけるんだけど」

 ちゅるちゅると千早絵梨花はイチゴオレを飲む。

 カバンからもう一つのイチゴオレを取り出し、彼女は僕に手渡す。

「それアタシのおすすめ。飲んでみてよ」

 言われるまま、僕はイチゴオレにストローをさし、一口飲む。たしかに甘くて美味しい。

「でしょう、これ美味しいよね」

 またにゃははっと猫娘のような笑い方をする。大きな目がほそめられ、人懐っこい顔だ。か、かわいい。


「そ、それで千早さんは僕に何の用があるんですか?」

 僕は千早絵梨花にそう訊く。

 やはりセクハラで断罪するためだろうか。


「なんで同い年なのに敬語なの。アタシのことは絵梨花でいいよ」

 どんどんと背中をたたかれた。

 息が苦しい。

「そ、それでえ、絵梨花さんは……」

 言葉を遮られた。

 ぎゅっと頬をつかまれたのだ。

「だから絵梨花でいいっていったでしょう」

 キラキラネイルが頬にささって痛いです。

「じゃ、じゃあ絵梨花……」

 僕が絵梨花とよぶと彼女は満面の笑みを浮かべる。

 絵梨花の笑顔ってずっと見ていたいほどかわいいな。


「ねえ優真っちアニメ好きだよね」

 じゅるじゅると絵梨花はイチゴオレを飲み干す。紙パックをくちゃっと握りつぶし、ごみ箱に投げ入れる。すとんと紙パックはごみ箱に吸い込まれる。

「え、ま、まあ……」

 僕は答える。

「実はアタシもけっこうオタクなんだよね。ちな今期の推しは機械仕掛けの聖騎士団のアレクシア様かな」

 それは思ってもいない発言だった。

 どこからどう見ても陽キャの褐色ギャルがオタクだなんて。

 絵梨花の言ったアニメのタイトルは知る人ぞ知るアニメだ。かなりのオタクでないとこのタイトルは出てこない。かくいう僕も機械仕掛けの聖騎士団は毎週欠かさず見ている。


「優真っちは何か見てる?」

「ぼ、僕は時忘れの城と輪廻の王女かな」

 僕は絵梨花にこたえる。

 彼女はきらきらした目を僕に向ける。

「ああっ時輪ね。たしかにあれは泣けるよね」

 うんうんと絵梨花はうなずく。


 このあと僕たちは昼休みが終わるまでオタクトークをした。



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