13.最強の助っ人

「……ありました……あそこです」


 セナが少し離れた一本の低木を指差す。


 そこには鳥の巣のように枝が組み立てられ、その中央には、巨大な卵が5つ並んでいた。


「よし! 主は不在のようね! さっさと拝借して撤退しましょう!」


 ユシアが嬉しそうに言う。


「まぁ、二つくらいあればいいかね? 兄貴も一つ持ってくれ」


「おーけー」


 俺とハルは巣から卵を一つずつ拝借する。


 かなり大きいので、お腹の辺りで抱える必要がある。


 しかしそれほど重いとは感じない。


 レベルが上がって肉体的に強化されているからだろうか。


「さて……さっさと撤退しま……」


 ユシアが早く立ち去りたそうにそう言いかけた時、近くで物音がする。


「あ、親トカゲだ!」


 地面に這いつくばるようにワニのように大きな数匹のトカゲが威嚇の奇妙な呻き声をあげながら、カサカサと近寄ってくる。


「いやぁああ゛ああああ゛ああああああ!!」


「え……?」


 勇者さまは半べそ……いや、全べそかきながら、全速力で走り去っていくのであった。


 ◇


「いない!? もういないよね!?」


 ユシアは、まるで不審者のように狼狽ろうばいしながら、何度も確認する。


「もう、いないですよ」


「!? ……ふぅ……助かったー……」


 俺の言葉に、額の汗を拭うような仕草で、本気で安堵する様子を見せる。


「また、意地を張るから……」


 セナが呆れたように言う。


「ごめん……でも、困難から逃げるのは、勇者としてのプライドが……」


 ユシアは情けないというように謝罪する。


「まずトカゲが無理。そして、小さければ小さい程、もっと無理」


 どおりで最初に会った時、アイロンクラッド・ドラゴンから逃げていたのだなと今更ながら思う。

 奴は今回のトカゲより幾分大きかったが。


 しかし、ふと思い返してみる。


 初めて遭遇したアイロンクラッド・ドラゴンの時は逃げていた。


 その後の3つのクエストはハルが全て瞬殺してしまった。


 人魔の時は、俺が敵を退けた。


 そして、今回……、


 もしかして……この勇者さまは、これまでいいところが、何一つとしてな……、


「あ、ちょっとこっち迂回しよっか」


「……」


 急にユシアが何の変哲もない道で方向転換を提案する。



 ◇◇◇



 なんで急に方向転換を……?


 校内最多勝ペアの千川と代川は静かに憤る。


 鴨達の進路は、完全に自分達の想定通りのルートに入っていた。


 だが、不自然に方向転換し、完璧であったはずの軌道から外れてしまった。


「どうする? ……千ちゃん」


 代川が尋ねる。


 待ち伏せが基本戦略であるなら、その戦略を突き通すのがセオリーではある。


 だが、先程のあの快楽……ターゲットが最期に見せてくれた絶望の表情が彼の判断力を鈍らせていた。


「ここで逃すのは勿体無い……追おう」


「わかったわ♪」


 ◇


「あー、ダメだ。来ちゃうみたい」


 ユシアが警告を発する。


 APS(アクティブ防護システム)がプロテクト・モードで作動する。


 奇襲をされる、その前に威嚇射撃で対象を牽制する。


「なっ!?」


 奇襲者は驚きの声をあげる。


 初撃の失敗が想定外であったのかそのまま茂みに身を隠す。


「おい……あいつらって」


 ハルが緊張感のある声で言う。


 恐らくプレイヤーであろう。


「……」


 ハルがそっと卵を地面に置く。


「えっ!? 置いちゃうの!?」


「……!?」


 まさかの人物がそれに異論を唱える。


 ユシアだ。


「え? でも流石にこのままでは……」


 ハルは腕を動かすことにより照準を合わせないと戦うことが難しい。


 つまり卵を抱えたまま戦うことは不可能に近い。


「ま、まぁ……また取りに行けば……」


「……!?」


 ハルの発言に、ユシアは絶句し、真っ青な顔になる。


「あ、アオイぃ……お、お願いだから……卵を守って……」


 ユシアは懇願するように眉を八の字にして言う。


「……」


 卵を守るとなると防護対象は6……。

 俺の通常時の防護対象は最大4だ。

 困ったな……仕方ない、あれを使うか……。


「ハル、エコノミー・モードでいく」


「まじか」


 俺はAPSをプロテクト・モードからエコノミー・モードに移行し、防護対象5に卵1、防護対象6に卵2を設定する。


 エコノミー・モードにすることで、防護発動のタイミングを実質的な危機に絞り、守りに専念することで防護対象を8枠まで拡大することができる。


「ユシア、卵は守るよ」


「なんかよく分からないけど、ありがとう……」


 ユシアは安心したように、にこりと微笑む。


「よし! じゃあ、あいつらは私がやるよ!」


 そうユシアが名乗り出る。


「えっ!?」


「いつも二人に手伝ってもらってばっかりで悪いし、それに、人間相手に四対二は卑怯だと思うんだよね」


「そ、それなら俺らが……」


「アオイはちゃんと卵を守ってね!」


「……だ、大丈夫?」


「アオイ……私のこと単なるへたれだと思ってない?」


「……」


「あ、その顔は思ってるな!? まぁ、トカゲの前では、そうかもだけど、私、こう見えて勇者なのだぞ!」


 勇者というものがどれ程すごいのか俺達は知らないのだが……。


 まぁ、エコノミー・モードとはいえ、APSも作動しているし、大丈夫ですかな……。


「それじゃ、行くから!」


 ユシアはそう言うと勢い良く駆け出す。


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