14.裸エプロンでも文化なら恥ずかしくないもん
★敵サイド視点
はぁ……!? 何でプレイヤーでもないよく分からない女が突っ込んで来るんだ?
千川は動揺する。
そもそも潜伏しているのに、何で正確に俺達の位置がわかるんだ!?
だが、相手が向かってくる以上、こちらも迎え撃つ他ない!
千川、代川は待ち伏せ戦略を完全に放棄する。
「うおりゃああはああ!!」
一人、突進してくる謎の女に重機関銃をぶち込む。
「!?」
しかし、彼らの弾丸が女に命中することはない。
女は、信じられない速度で動き回り、身体能力だけで弾丸の軌道上から逃れる。
「なんなの!? あいつ!?」
「知るか!? とにかく撃ちまくれ!」
「わかってるわよ!」
だが、一向にターゲットに命中する気配はない。
そう言っているうちに、女は、どんどんと距離を縮めてくる。
だが、千川、代川にも打つ手がないわけではなかった。
「あれを使うぜ」
「わかったわ」
千川の言葉に、代川が相槌をうつ。
それはちょうど昨日、入手したニューウェポンであった。
ヨタ、デンヤを”倒して奪った”ステルス・アーマー……散弾銃だ。
千川、代川はありったけの散弾を撒き散らす。
「うらぁああああ!! いくらてめぇの動きが速かろうが、この広範囲は避けきれねえだろう!?」
「うん、まぁ、避けられないけど、避ける必要もないよね?」
「……うっ!?」
信じられないことに放たれた散弾は謎の女の手前で全て停止している。
「私は常に防壁魔法を使ってるので、並の攻撃は防がせてもらっちゃいますよ」
魔法? 何のことだ?
というか、並だと? 散弾とは言え、ステルス・アーマーなら、ぶち抜くくらいの威力はあるはずだ。
千川は目の前で起こっていることが信じられないというように、目を見開く。
どうする? 機関銃に戻す……いや、奴にそんな隙はない……!
「っ!?」
悩んでいる間にも女は一気に距離を詰め、そして、片手で剣を振り上げる。
「剣と魔法の世界へようこそ……そして、さようなら」
女の目に明確な殺意が宿る。
「……っ!!」
衝撃と恐怖で千川の顔は極度に強張る。
これが……絶望……か……
「って、あれ……? 殺すのはまずいか」
謎の女は剣を振り下ろすのを止める。
「ちくしょおおおおお!」
「っ!? やめっ……!」
代川が何を血迷ったのか効かないと分かっている散弾を撒き散らそうとする。
「君はちょっと寝ててね」
「かっ……!」
代川は剣の腹で頭をバシっと叩かれ、そのまま倒れ込む。
「えーと、質問です」
女は、ニッコリしながら千川に話し掛けてくる。
「現地の人には手を出していない?」
「だ、出していない……!」
「これからも現地の人に手を出す予定はない?」
「何でわざわざ出さなきゃいけねえんだよ! つーか、お前、何なんだ!? 俺達が用があるのはあっちなんだよ!」
決して嘘はついていない……!
「まぁ、そうだと思うけど、こっちにも色々、事情があるんですよ……それに、あっちの二人は私と同じくらい、もしくはそれ以上に強いかもしれないですよ?」
「なっ……!?」
「んー……」
「……なんだ?」
女は千川の目をまじまじと見る。
千川は吸い込まれるような感覚に陥る。
「んじゃ、その言葉信じます」
「……っ」
それはまるで、神の慈悲を受けたような……
体が弛緩し、力が全く入らない。
◇
「えーと、殺さない……で、いいんだよね?」
「あ、はい……」
戻ってきたユシアの質問に、呆気に取られたようにハルが答える。
「……ユシアさん、めっちゃ強いやん……」
ハルが小声で言ってくる。
完全にあのペアを圧倒していた。
そして、見た目に反して、ムキムキな戦い方だ。
「それじゃあ、戻ろうか」
ユシアが言う。
俺はハルに一点、確認する。
「そう言えばさ、ハル」
「ん……?」
「[転移]って使えないのか?」
できれば、さくっとクラクスマリナに戻りたいのだが……。
というか、卵を取ってからすぐに転移を使っていれば、面倒な遭遇もなかったのではと今更ながら思う。
「いや、[転移]は現在、研究中なので、封印しております」
研究中……?
「なるほど……」
まぁ、確かにまた失敗したら、ユシアにこっぴどく怒られそうだ。
潔く諦めて、歩き出す。
「そう言えば、ユシアさん、どうやってあいつらの位置、わかったんですか?」
ハルが質問する。
ちょうど俺も気になっていたものだ。
「あー、実は、私、ちょっと魔覚には自身があるんだよね」
「……魔覚?」
聞きなれない単語だ。
「え、うん……六感の一つの……」
ん……? 六感……? 五感のことか?
「視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚……」
「魔覚」
俺が五感を言うと、ユシアが最後に一つ、付け足す。
まぁ、きっと第六感的な奴でしょう。
気配を感じる感覚……概ねそんなところだろう。
「あっ……そう言えば」
「ん……?」
ユシアが思い出したように言う。
「いや、もう一組の方は何してたんだろうなーと思って。来なくてよかったけど……」
「え……? もう一組?」
◇
あいつらが、あの女より強いだと?
「……」
千川は謎の女の放った言葉が引っ掛かっていた。
あの女は化物みたいに強かった。だが、その後ろにいた相ケ瀬ペアはそれよりも強い。
それはつまり……、
「あっ……千ちゃん……」
「おっ……」
女に殴られて失神していた代川が目覚め、少々、間の抜けた声で千川を呼ぶ。
「なぁ……代川……戦いから降りるか……」
「えっ!?」
どんなに足掻いてもあいつ等には勝てない。
千川の心は完全に折れていた。
「あっ……いや、何でも……」
千川は自分の弱気な発言に、代川は幻滅すると思った。
このちょっと女言葉の
だが……
「いいよ……」
「えっ!?」
「戻ろうよ……私達、頑張ったわよ……」
代川は千川の言葉を受け入れる。
「よし……」
これでいいんだ……。
千川がそう自分に言い聞かせる。
「えー、残念だなぁ……最多勝ペアのお二人がそんな残念なこと言うなんて」
「なっ……!?」
突然、誰かが背後から話しかけてくる。
「お前らは……!?」
「いけませんねぇ、バイタリティの喪失は……ゲームには積極的に参加しないと……」
「なっ!?」
突然、現れた人物はネットリと微笑み、腕を二人に向ける。
「千ちゃん! 速く……きゃぁあああああああ!!」
「しろか……ぐぁああああああああ!」
二つのステルス・アーマーがアルネニオ公原の地に落ちる。
◇◇◇
とあるキッチンにて――。
「なぁ、兄貴、ユシアさんまだかなぁ」
「さぁ、もうすぐ来るんじゃね?」
俺とハルは食卓で待たされていた。
と……、
「お、お待たせしましたぁ……」
ユシアの声がして、ユシアが部屋に入ってくる。
「「え……」」
そして、俺とハルは硬直する。
ユシアはエプロン姿であったのだ。
それだけなら硬直まではいかないだろう。
なぜかユシアはほぼ上裸に、エプロンをしていたのだ。
「それじゃ、料理を始めるね!」
そう言って、ユシアはキッチンに向かおうとする。
「ちょいちょいちょい! ユシアさん!」
ハルがユシアを引き止める。
「え……? なんでしょう?」
ユシアは不思議そうに振り返る。
「なんでって……こっちが聞きたくて……なんで上半身……その……エプロンだけなの?」
「え……? なんでって料理するときって普通そうでしょ?」
「「……!?」」
ユシアはあまり恥ずかしがっている様子はない。
つまりこちらの世界は料理をするときは上裸にエプロンというのが文化ということなのだろうか。
まぁ、確かにこっちの世界でも水着とかほぼ下着と変わりないのに、プールや海なら恥ずかしくないみたいな謎の風習もあるしな……。そういうのと同じ感覚なのだろうか……。
いやいや、でも油とか跳ねたら危ないじゃん!
俺は意を決して聞いてみることにする。
「あ、あの……ユシア、ちょっと聞いてもいい?」
「はい……」
「こっちの世界では、料理をするときは、その……上はエプロンだけっていうのが普通なの……?」
「え……? そうですけど」
マジか。
「あ、あの……ユシア、実は、こっちの世界では、料理をするときに上裸にエプロンになるというのは……その……結構、エッチなシチュエーションでして……」
「へ……? エッチ……? え…………ちぃいいいい!?」
ユシアの顔が急激に赤くなる。
「…………子供の頃から皆、そうだったから不思議に思わなかったけど、言われてみるとちょっと……あれかも……」
ユシアは腕で胸部を抱くように隠す。
「で、でも……感謝を込めて料理するときは、このスタイルというのは、こちらの伝統文化。文化なら恥ずかしくないもん……! 堂々としていればいいんだ!」
ユシアはそう言うと、意を決したようにキッチンへと向かい、料理を始めるのであった。
……
「よーし、オムライスもそろそろ仕上げです!」
ユシアはオムライスのチキンライス部分を作り上げる。
残りは卵部分である。
「それではこちらの新鮮な卵を……」
「ん……?」
ユシアは異変に気付く。
「…………ひゃぁっっっっ……!!」
ユシアは突然、悲鳴をあげ、
「ど、どうした!? ユシア!」
俺はユシアの元へ駆け寄る。
卵の中から可愛らしいトカゲの赤ちゃんが出てきている。
「ぎゃぁあぁあ゛ああ゛ああ!!」
ユシアはパニックになり、俺にしがみつく。
「!? ちょっ……あ……」
物凄い力で、エプロンの布一枚越しの胸が顔面に押し付けられる。
「あ゛ああ゛ああ゛ああ゛あああ!!」
そうして、ユシアは泡を吹いて気絶した。
……
なお、本日のディナーはチキンライスとなった。
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