帰宅部エンカウント

烏目 ヒツキ

現実はRPGだ

君の人生RPG

 2030年になって、時代は急速に変化した。

 スマホだったものが、スマートリングになり、腕にハメるタイプへと変更。さらに、町の至るところにMRやARが搭載。


 でも、全国へ普及するには時間が掛かるとのこと。

 そのため、様々な試験運用のために、モデルとしてオレの住んでいる町が選ばれた。


 でも、オレにとっては本当にどうでもいい。

 オレは高校デビューを果たして、女子にモテたいだけだ。


 そのために、髪は思い切って明るい茶髪に染めた。

 ピアスもした。

 チャラチャラしておけばモテるだろうと、謎の自信を持って高校に入学。


 そして、現在。オリエンテーションが行われている間、オレはクラスメイトに野獣の眼光を飛ばしまくって、可愛い女子にひたすら目を付けていた。


(オレの人生のヒロインが、この中にいるんだ。間違いねえ。オレは、……もうキモオタじゃない!)


 小学校、中学校とアニメやゲーム三昧だった。

 友達と呼べるやつは、同族のキモオタ一人だけ。

 そいつとは同じ高校に入って、オレの後ろの席にいる。

 ちなみに、窓際の後ろから二番目が、オレの席だ。


 ともあれ、二次元の女の子より、オレは三次元の女の子と付き合って、ネクストステージに到達してやるのだ。


 そんなこんなで、教室に響く先生の声に耳を傾けていると、こんな声が聞こえた。


「事前に説明してた通り、運動部や文化部に属さない生徒は、全員もれなくに強制入部させられるからな!」


 そんな事を言っていたが、オレは半分聞いていなかった。

 斜め前の席に座った女子。

 その子が、あまりにも可愛かった。


「グローバルな世界だからな。ってことで、みんなが住む市がモデル候補に選ばれたんだ」

「平等プログラムってなんですかぁ?」


 クラスメイトの一人がふざけて聞いた。

 オレはその間、目を付けた女の子をジロジロと眺める。


 金髪のセミショートで、毛先がくるっとした感じ。

 ゆるふわ系ってやつか。

 全体的に肉付きの良い子で、見た感じだと、あまり真面目そうな子ではないという印象だった。


 先生の話をダルそうに聞いていて、チラチラと隣を見ている。

 オレとは反対側の席だ。


「あらゆる格差をなくすために、国際社会が打ち出した政策だよ。行動に差が出ないようにするためなんだよ。だから、ほら。限定的な時間だけ、ターン制にするんだ。時間は夕方のの間。お金がもらえるから、を入れておけ」

「いくら出るんですか?」

「20万円の補助金だよ」


 破格の給付金に全生徒が湧いた。

 既存の部活に入ろうとしていた子は、何やらがっくりしていた様子。


「いいか? アプリを入れるんだぞ。三日後にチュートリアルがあるからな。そこから本番だぞ」


 というわけで、オレは帰宅部なるものに入部が決定した。

 帰宅部が何かといえば、既存の部活に入らず、学校が終わったら帰るだけの人をネタっぽく【帰宅部】と呼んでいるだけだ。


 ところが、高校に入ってからは、本当に帰宅部が存在するみたいだ。

 たぶん、自宅に帰るだけなのは変わらない。

 考え方によっては、帰るだけで20万円も貰えるなら、こんなに最高なバイトはないだろう。


「なあ、サトル」

「んお?」


 オレ。――緑川サトルを呼ぶ声が後ろから聞こえた。

 振り向くと、二チャっと笑うキモオタがいた。

 脂ぎった長髪のデブ。

 こいつこそが、オレにとって唯一の友達。

 武田フトシだ。通称、ブタ。


「20万だぞ。こいつぁ、やるしかないだろ」

「でもよ。本当にもらえんのかな。どういうカラクリで、そんな金入るんだよ」

「日本全国でやるわけじゃない。日本の一部で、実験するんだよ。気になってたから、前もって調べたんだけど。アメリカとか、他の国でも実施するみたいだぜ」

「へえ」

「一昔前で言うと、あれだ。動画の配信者みたいな。前は動画を配信するだけで、億稼いだ人もいたくらいだからな。それと似たようなもんだろ」


 仕組みは分からないけど、日本だけじゃなく、他の国でもやるなら信用してもいいか。自分で言うのも難だが、オレは興味のあること以外は、思考停止だ。


「金があったら、……エロゲが買える……」

「あれ? イメチェンしたんじゃないの?」

「ああ、したぜ。だから、もう、オレは低俗な趣味はやらない。でも、……うん。20万あったら、……うん」


 心までイメチェンはできなかった。


 *


 いきなりだが、これはオレが帰宅部に入って一週間が経った頃の様子だ。


「……なにしてんの?」


 オレは通学路の途中にある公園で、腕立て伏せをしていた。

 学校帰りの小学生がオレの前に立ち、ぽけーっとした顔で聞いてきた。


「ふっ。ふっ。ふっ。……くそ。……にが……ターン制……ふっ……だよ!」


 帰宅部専用のアプリ。――【君の人生RPG】。

 これをインストールしてから、スマートリングが変になった。

 まるで、一昔前に流行った小説のように、ステータスがオープンされる。ちなみに、所持金まで、電子マネーのアプリを起動しなくても、ステータス内に表示される。


「普通、くそ、……こういうのって!」


 腕を突いたまま、オレは腹から声を絞り出した。


「敵を倒せば、……レベルが……上がるんじゃねえのかよ……ッッ!」


 ステータスを上げるには、筋トレが必要である。

 つまり、どこまでも現実の中で行われる、現実に寄り添ったRPGをプレイさせられているのだった。

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