第5話
――それからさらに1か月後の王宮――
元々はエディン第一王子が自身の妹であるユリアの事を溺愛し、その関係が築かれていた。
しかし今、その関係が非常に不安定なものとなっていた…。
「聞きましたか?エディン様とユリア様、また喧嘩をされているそうですよ?」
「おいおい、勘弁してほしいなぁ…。今までだってエディン様がユリア様の事を溺愛されていて、そのために私たち周りは振り回されてきたというのに、今度は険悪な関係になって周りに気を遣わせるだなんて…」
「はぁ…。エミリア様もいなくなってしまわれましたし、ノドレー様はエディン様からにらまれてしまっているようですし、この王宮、これからどうなっていってしまうのでしょうか…?」
王宮にて働く使用人たち、ひいては王宮とかかわりを持つ貴族家の人たちは、エディンとユリアに対する不信感を日に日に大きくしていっていた。
それもそのはず、二人の間に広がっているピリピリとした空気は他の人々人って何の恩恵もないものなのだから…。
――――
「ねぇお兄様、どうしてそんなに怒られているのですか?私なにかしましたか?」
「別になにもしていないとも」
「嘘ですよ。だってお兄様、今までなら私が言葉をかけるだけでうれしそうにされていたではありませんか。なのに今は、むしろ迷惑そうな顔をされています。それが怒っていなくて何だというのですか?」
「それは君の主観じゃないか。別に僕は今までだってそんな思いを抱いてはいないとも」
「それでは、今まで私にかけてくださった言葉は全てうそだったのですか??兄である自分が妹の事を愛するのは当然だと、何度も何度も言ってくださったではありませんか」
「嘘などではないとも。現に今だって全く同じ思いだ。君の事はちゃんと愛しているじゃないか」
「…エミリアお姉様がいなくなってから、お兄様は変わられてしまいましたね。これまでは私の事を心から愛してくれる素敵なお兄様だったのに、なんだか残念です」
「…!?」
今日もまた、王室においてエディンとユリアはそのような会話を繰り広げていた。
エミリアがいなくなった事がきっかけとなったのは誰の目にも明らかであり、その点についてはユリアだけでなくエディン自身も気づいていた。
だからこそ彼は王宮を以前の状態に戻すべく、自分とユリアの関係を以前の状態に戻すべく、エミリアに対して王宮への帰還を命じたのであったが、それを丁重に断られてしまったのだった。
「(こ、このままじゃまずい…。今まではエミリアというある種共通の敵のような存在がいたからこそ、僕とユリアはがっちりと関係を固める事が出来ていたんだ…。しかし今はその逆で、ノドレーという僕たちの関係を壊してしまいかねない存在が近くにいる…。こうなることを防ぐために僕はノドレーの事を別の場所へと転属させようと思っていたのだが、それを知ったユリアによって激しく抵抗されてしまい、それ以降僕たちの間のわだかまりは深いまま…。このままでは本当に解決できないまま終わってしまう可能性がある…)」
エディンはユリアとの関係を戻そうと必死であったものの、その思いを口にするきっかけがないままだった。
…しかしユリアの方は正反対の感情を抱いている様子…。
「(はぁ…。お兄様が私の言うことを聞いてくれないんじゃ私にとって何の存在価値もないじゃない。私の言うことを聞いてくれていたから今までお兄様に甘えていたのに、これなら最初からノドレー様に甘えるべきだったわ…。エミリアを追い出したことでノドレー様と結ばれる夢がかなうものだとばかり思っていたけれど、これじゃあ遠回りをしただけじゃない…)」
ユリアはもともとエディンに対する思いなどまったく抱いておらず、ただただ自分にとって都合のいい存在であるために利用していたに過ぎなかった。
ユリアは最初からノドレーと結ばれることしか考えておらず、そのためにエミリアやエディンの事を踏み台として利用しようと考えていただけだった。
――その頃、騎士会では――
「…やるんだな、エディン第一王子に対する反逆を…?」
「これ以上、人々を振り回し続けるエディン様の事を見過ごすわけにはいきません。私が大切にしたかった方をもエディン様は乱暴に扱ったのです。もう我慢することはできません」
「ふむ…。正義感の強いお前らしいな。まぁいいだろう。遅かれ早かれ、自由気ままな行動をとり続けるエディン様には皆思うところがあったようだ。これはいいきっかけとなることだろう」
「ありがとうございます、カーゴ騎士長様」
騎士長に直談判を行うのは他でもない、ユリアとエミリアの両方から愛されているノドレーであった。
彼は自身が思いを寄せていたエミリアの事を冷遇したエディンの行いをきっかけとし、ついにその関係を切り捨てにかかる決意を行ったのだった。
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