第4話

――それから1か月後の事――


「えっと…。エディン様、今になってなんの御用でしょうか?」

「そう敵対的な目を見せなくてもいいだろう。エミリア、今日は大事な話が合ってこうして君のもとまで足を運ぶこととしたんだ」


元いた家に戻っていた私のもとに、エディン第一王子が話があると言って突然に押しかけてきた。

私が彼から婚約破棄を告げられたのが、今から1か月以上も前の話。

今更その事をあれこれ言われることでもないものと思うのだけれど…。


「単刀直入に言わせてもらおうか。エミリア、僕は君との婚約関係を再開してもいいのではないかと思っている」

「…はい?」


全く想像もしていなかった角度からの言葉を聞き、私は一瞬何を言われたのかを理解できなかった。


「エミリア、君だって本当はこれまでの間、僕との関係を取り戻すことばかりを考えていたんじゃないのか?そこに少しでも可能性があるのなら、わらをもつかむ思いですがっていたんじゃないのか?僕はその手をあえて君に差し出したいと思っているんだよ。ほかでももない、元婚約者としてね」

「……」


まっすぐな言葉で私にそう思いを伝えてくるエディン様だけれど、その考えの裏には必ずなにか理由があるのであろうことは私にもすぐにわかった。

そしてそのきかっけはおそらく彼女なのであろうことも、私には察することができた。


「エディン様、正直に答えてください。私の事を呼び戻そうとされているのは、ユリアとの間になにかあったからではありませんか?」

「……」


…その言葉は図星だったのか、エディン様はそのままなにかを考えるようなそぶりを見せ始める。

そして少しの間私たちを沈黙の時間が包んだのち、彼はこう言葉を発した。


「最近、ユリアは少し調子に乗っているようだ。実を言えばエミリア、君との関係を婚約破棄することにしたのもユリアからの申し出だった。僕は当然彼女の事を愛しているから、エミリアにいじめられていたという彼女の言葉をそのまま信頼し、その関係を終わらせることにしたわけだ」


おそらくそうであろうことは分かっていた。

エディン様はどんな時も私の言葉を信用なんてしてくれなくて、毎回必ずユリアの言葉しか聞いていなかったのだから。


「僕は心からユリアの事を愛している。だからこそ、彼女は僕の事を愛するのが当然だろう?しかし彼女は、どうやら僕よりもノドレーの事を気に入っている様子なんだ」

「ノ、ノドレー様の事を…?」


その名前を聞いて、私は少し自分の心臓が高鳴るのを感じる。

…もう顔を合わせることもできなくなってしまったけれど、今もなお彼の顔は私のすぐそばにあるような気がしていたからだ。


「知っての通り、ノドレーは我々の事を守る騎士である。だからこそ、二人の関係など許されるものではない。騎士が主君の妹を誘惑したなど、この上ないスキャンダルとなってしまうからだ」

「それはそうでしょうね」

「僕はそれを防ぐ使命がある。そこで考えたのが、あえて君の事を王宮に呼び戻す計画だ」

「…?」


そこでどうして私の名前が出てくるのか全く分からないけれど、エディン様はそのまま言葉を続ける。


「エミリア、君が王宮に戻ってきたならノドレーの事は君の専属の騎士にしようと思っている。そうすればユリアからノドレーを引き離すことができる。僕の専属の騎士にしても結局二人の距離は変わらないからな」

「(えぇ…。たったそれだけのために私に婚約者に戻れと…?)」


なかなかありえない説得方法だと思うのだけれど、かなり勝算があると思っているのかエディン様は自信満々といった様子でこう言葉を続ける。


「説明はここで終わりだが、もう決まりで良いだろう?いつから戻ってこられる?僕としては一日も早く戻ってきてもらう方が都合がいいのだが。二人の事をこのまま放っておくわけにもいかないからな」

「…?」


もう決まったかのような流れで話を進めていくエディン様に、私は思っていることをそのままストレートに告げる。


「お話は分かりました。でも、戻る気はありませんので」

「は、はぁ???」

「聞こえませんでしたか?私はこのお話をお受けするつもりはありませんので。また新しい婚約者を探されたほうがよろしいのではないですか?」


そう、私の考えはもう最初から決まっている。

あれほど冷たい扱いをされたというのに、誰が好き好んでその場に戻るなんて考えるのだろうか。

第一王子夫人の立場をちらつかせれば女は食いついてくるものだと思っているのかもしれないけれど、私はそんなものに何の興味も感じていないのだから。


「ほら、お話が終わったのでしたらもうお帰りになっていただけますか?あなたが溺愛されているユリアのもとに戻ればいいじゃないですか。私と一緒にいた時は、何度も何度もそうされていたではないですか。これからもそれを続けられればいいのではありませんか?」

「…!?!?」


今までやってきたことができなくなったから、私にまた都合のいい関係を求めてきているエディン様。

私がそんな誘いにホイホイついていくと思ったら大間違いですよ??

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