第3話

――ユリア視点――


「それじゃあノドレー様、またお時間があった時に一緒にお茶でもいかがですか?」

「えぇ、その時はぜひ」


このタイミングこそ、ノドレー様との距離を縮められる絶好のチャンスに違いないと思っていた私。

けれど、結局ノドレー様との約束を取り付けることはできなかった。


「(はぁ…。私はこのためにサテラの事を追い出す計画を立てたっていうのに…。まだまだ距離を縮められるのは先になりそうね…)」


私はずっとノドレー様に対して恋心を抱いていた。

それを今まで表にしたことは一度もなく、ノドレー様はもちろんの事お兄様にもその相談をしたことはなかった。


「(サテラがいたら私の恋路の邪魔になると思ったから追い出したのに、これじゃあなんいも変わらなさそうね…。まぁ、仕方ないか)」


私がお兄様に相談した、サテラからいじめられているという話。

もちろんそんな事が現実にあったわけでもなく、私がサテラから何か言われた事があるわけでもない。

私はただただサテラの事を追い出すためだけに適当な理由を考えてお兄様に泣きついて、こうして婚約破棄を実現させたのだ。


「(サテラがいなくなったら、ノドレー様は一番に私の事を意識してくれると思っていたのだけれど、まさかサテラの事を心配し始めるだなんて…。これはなかなか計算外だったわね…)」


まぁとはいっても、ノドレー様がサテラの事を異性として意識しているはずはないのだから、きっとこの思いは騎士としての正義感からくるものだけで、彼女の事を本気で心配しているわけではないのでしょうね。

そのあたりはきちんと彼女にも分かっておいてもらわないと。


「ねぇお兄様、ノドレー様がサテラお姉様の事を心配されているみたいです。なんて心の優しい方なのでしょう?」

「あぁ、そうだな…」


私は一応お兄様の方に言葉をかけておき、くぎをさしておく。

このままノドレー様の言葉が通ってしまって、サテラの婚約破棄が取り消しにでもなってしまったら、それこそ目も当てられないような状態になってしまうのだから。


「お兄様、サテラお姉様の事はもう忘れてしまいましょう?ノドレー様も、あんな女にいつまでも囚われてしまっていたら気が持たないでしょう?すべて終わったことなのですから、これからの事を考えましょう?」

「ユリア様、そうもいかないのです。私は騎士ですから、この一方的ともとれる婚約破棄を受け入れるわけにはいかないのです。エディン様、その点についてどう思われますか?お考えを改められるお気持ちはありませんか?」

「あるはずがないだろう。何度も言わせるな、もう決めた事なんだ」


私の願いをお兄様が否定するはずがないのだから、今回の婚約破棄はもう撤回されることはないのでしょう。

…しかし、ここで私がノドレー様の背中を押すようなことを言ったなら、ノドレー様は私の事を今まで以上に意識してくださるのではないだろうか…??


「ねぇノドレー様、もしもサテラお姉様の婚約破棄が取り消しになったら、あなたはうれしいのかしら?」

「もちろんです。このような形での婚約破棄は、きっと後にエディン様自身の事を後悔させてしまいかねません。私は仕えるべき主人であるエディン様のため、こうして意見をさせていただいているのですから」

「なるほど、お兄様、そういうことらしいですわよ?」

「…ユリア?」


お兄様は私の意見がさきほどまでと少し変わっているような様子に気づいて、困惑しているような雰囲気を浮かべている。

それじゃあ、私が何を思っているのかを分かりやすく教えてあげようかしら?


「ノドレー様がここまで言うのなら、サテラお姉様との関係を考え直すというのはいかがでしょう?お兄様、どう思われますか?」

「……」


お兄様は私の言うことを何でも聞いてくれるのだから、これだってすぐに受け入れてくれるに違いない。

そうすれば私はノドレー様と一緒になってサテラの婚約破棄撤回に関する計画を実現させたこととなり、その距離をこれまで以上に縮められることは間違いない…!


「ねぇお兄様、私はそう思うのだけれど」

「いや、たとえユリアの言葉であってもそれはダメだ。今回は僕の意志によりこのまま婚約破棄を決行することとする」

「は、はい!?!?」


…今までお兄様からそんな言葉をかけられたことのなかった私は、自分でもわかるほどに驚きを隠せない。

それくらいにその言葉には衝撃があった。


「ど、どういうことですか…?お兄様、私の事を愛しているから、言うことを何でも聞いてくれると…」

「……」


その返事を聞いて考えを固められたのか、ノドレー様はそのまま一例をしてその場から立ち去っていく。

…完全に私の考えは破綻させられることとなり、ノドレー様の事をサポートするという計画は暗礁に乗り上げてしまう…。


「(お、お兄様、いったい何を考えているの…!?私の言うことが絶対なんじゃなかったの…!?)」


その時お兄様の考えていたことは、私にはわからなかった。

しかしこののち、はっきりと分かることとなる。

お兄様はその心の中で、私に対する愛情を冷めさせつつあったということに…。

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