第3話 国王の糾弾
王子様はあっさりと失敗されました。
最悪なことによっぽど変な場所を触ったりしない限り発生しない魔道具の魔力暴走を引き起こして……。
今は現在進行形で"星神の守護結界"の魔道具が機能を停止していて国境や森林などでの魔物発生が増加し始めているそうです。
「リーベル王子よ。どういうことだ?自信満々に出て行ったと記憶しているのだが……」
なぜか呼び出された私は部屋の隅の方におりますが、その部屋で表情を消した国王陛下によるリーベル王子への詰問がなされます。
「なんの支援もなくあんな魔道具を触らせるなんてどういうことですか!?」
一方でなぜか怒り心頭のリーベル王子が国王陛下に嚙みついています。
「支援だと? 婚約破棄などと言い出したから調べたが、そもそも修練をさぼり、必要なスキルを身につけなかったのは誰だ!?」
国王陛下が怒鳴られましたが、その怒りも当然です。
国王陛下は調べれば調べるほど疑念を膨らませていったそうです。
どうも加護があれば問題ないと高をくくったルオレエスト侯爵と王妃が結託して王子の様子を隠ぺいしていたようです。
王子が旅立った後に秘密裏に調査をはじめ、通信の魔道具で点検・修理失敗の一報を受けてからは大々的に醜聞を日の光の下に晒されました。
「しかし、加護によるスキルがあれば問題ないと……なのにあんなに暴れまわる魔力を押さえないといけないなんて聞いてない。そのせいでイリーナは深い傷を負ってしまったのです……」
普段は温厚な国王陛下の怒鳴り声に明らかに怯んだ様子で王子が声をひねり出します。
「ふざけるな! 歴史で学ばなかったのか!? 過去の先人たる"星神の加護"持ちたちが残した書物を読んだだろう! 彼らの努力の結晶を!!!」
しかし王子の様子に国王陛下はさらに怒りを強める。今にも玉座から飛び上がりそうな勢いです。
「……」
王子は目を泳がすだけで言葉を返すこともできなくなってしまいました。
当然です。私が何度指摘してもサボってきたのですから。
「まさか読んでおらぬのか?」
「……」
そしてがっくりと肩を落とす国王陛下に、もう何も答えられないリーベル王子……。
私もなんとかして国王陛下に伝えておくべきでしたでしょうか。
王妃から余計な口出しはするなとくぎを刺されていたので自分が何とかするつもりで学んできましたが。
「バカ者が!! そのせいで貴重な"星の加護"持ちを失ったのだ!!!!!!」
「すっ、すみません……」
怒りが頂点に達した国王陛下が激しい怒鳴り声をあげられますが、誰も責められないでしょう。
しかし、失ったとはどういうことでしょうか? そう言えば傷を負ったとは? この場にいらっしゃらないので少し違和感を感じていましたが魔力暴走の時にもしかして……。
「大々的に発表して旅立った上で失敗したのだ。お前のせいで我が王家はいい笑いものだ。民の不安も募っている。しばらく謹慎しておれ!」
「へっ、陛下。謹慎などと……」
これ以上怒ってもどうにもならないため、国王陛下は次の行動・思考に移られるようです。しかし、王妃はリーベル王子が謹慎となることに不満なようです。
「きっと支援者がよくなかったのでしょう。本来であれば"星神の加護"を持つ王子を支援しなければならないのに、残念ながらイレーネ殿は魔道具を前にして何もできなかったようですから……であれば、次こそシェリルに支援させればよいのです」
王妃様はしたり顔でとんでもないことを言いだしました。勘弁していただきたいです。
既に婚約破棄は成立していますし、私はあなたの息子である王子に『僕の前に顔を表すな。旅にはキミは連れて行かない』とはっきり言われたのですが……。
王妃様も聞いていたのだと思うのですが、そういったことはすっぽり頭から消えているようです。
「婚約者に戻してあげることは残念ながらもうできませんが、手伝ったことで名声は得られるでしょう」
まるで素晴らしい案を思いついたと言わんばかりに笑顔の王妃様の姿に私は絶句してしまいました。
「婚約を戻す必要がないのであれば、僕はそれで構わない。シェリルに1度チャンスを与えよう」
絶句している私やお父様、そして国王陛下を横目に王子もしぶしぶ了解してやると言わんばかりの態度です。
ふ・ざ・け・る・な!
「まさかここまで阿呆だったとは……」
「「なっ……」」
呆れたように陛下が呟かれます。小さい声だったのですが、この言葉は王妃様と王子に届いたようです。不思議な耳ですね。
「もう一度はっきりと言うが、失敗の原因はリーベル王子の怠慢に他ならない。にもかかわらず支援者のせいにするとは。しかもその支援者を選んだのはリーベル本人であるし、そもそも『自分1人で問題ない』と豪語していたではないか。つまり、失敗の全責任はリーベルにある」
国王陛下はゆっくりと淡々とお話をされました。
「父上はそう仰いますが、ではどうなさるのですか?魔道具の修理は"星神の加護"を持つ僕にしかできないのに、僕を蔑ろにするようなことはできないのでは?」
王子は開き直ったのか、憎たらしい表情でそう言いました。もし私が国王陛下だったら今すぐにでも殴りつけていたと思います。
「そうかもしれないな。つまり、お前を洗脳してでも技術を習得させて送り込むしかないと……」
「「なっ……」」
「当然だろう。私はこの国を守る責任がある。そのためには残念だが息子であろうとも洗脳の魔法を使ってでも成し遂げなくてはならない。その後にお前の精神が壊れようとな……」
国王陛下も開き直ったのか、かなり冷酷なことをおっしゃいました。お花畑な王子様や王妃様でもどうやらまずいと思ったようです。ようやく国王陛下の怒りの度合いを思い知ったのでしょう。
***
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