第2話 王子様の冒険は当然ながら……
「婚約破棄の理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
リーベル王子はあっさりと破棄と言っていますが、婚約は契約であり、それを破棄するのですから説明は聞きたいものです。
私は極めて冷静に伺いましたが、その様子が気に入らないのかイラついたような口調でリーベル王子が語り始めました。
「はっ、理由などと。そもそも魔道具の修復は僕1人で十分なのだ。歴史上の多くの"星神の加護"を持つ者たちは1人で役務をこなしてきた。にもかかわらず可愛げもなく、決して能力が高いわけでもないキミの協力など不要だ。さらに、僕には愛すべきイリーナがいる。皆知らないと思うからここで宣言するが、彼女も"星の加護"持ちだ」
「!?!?」
王子の言葉に驚いていた者たちがさらに驚く。私も驚きました。
私以外にも"星の加護"を持ったものがいたということより、なんの勉強も修練も積んでいないと思われるイリーナさんを連れて行くということに。
しかし、ここでこのままリーベル王子の言葉を受け入れるわけにはいきません。
「1人で十分なのであれば、そのイリーナさんも不要なのではないでしょうか?」
「何を言うのだ。もちろん僕1人で対応して見せるつもりだが、万が一ということもある。そのために同行はしてもらうつもりだ」
イラついた口調そのままに王子は答えます。
「ちなみにイリーナさんは"星の加護"を行使するための勉強はなさっていらっしゃるのでしょうか?」
「シェリル!もうやめないか。嫉妬するのは分かるが、現実として加護を持っているのだ。なんならここに神官を連れて来て鑑定しても構わない。しかし、事実は覆らない。キミの悔しさは理解するが、私には口うるさいキミを愛する気持ちはない。学院の成績も低いキミを連れて行くよりも、愛すべき女性であり、成績も優秀であるイリーナを僕は連れて行く」
私の質問には答えず、王子は早口で言い切りました。なぜ悲壮な決意でもしているかのような表情なのかはわかりませんが。
「わかりました。婚約は契約ですからその破棄についてはお手を煩わせて申し訳ございませんが国王陛下とお父様にお願いするとして、私は同行しなくてよいと言うことですね?」
「はっ、ようやく理解したか。その通りだ。キミなど不要だ」
「申し訳ありません、シェリル様。そういうことですので……」
私の確認に対してあえて"不要"ということを強調してくるリーベル王子と、なにが『そういうこと』なのかわかりませんが私に見せつけるように王子の腕に自らの腕を絡めるイリーナ……。
契約についてはまったく頭にないようですね。私は一応確認のために国王陛下とお父様の方を見ましたが、2人とも口をキッと結んで頷いてくれました。
それにしても学院で隠すことなく浮気をしていた相手であるイリーナをこのような形で表に出してきますか。
リーベル王子は婚約者である私には何一つ買い与えず、ひたすらこの令嬢に宝石やドレスを買いあさっていたと聞いています。最初に聞いた時には苦々しかったのを覚えています。
学院生活はさぞかし楽しかったことでしょう……。
そして、リーベル王子は私のことを成績が悪いと仰いましたが、残念ながらそれは事実です。
なにせ学院の勉強をそっちのけで魔道具の勉強をしているのですから。
副産物として魔力行使と魔道具の構造には精通した結果、その2つだけは圧倒的な学年トップでしたが、他はあんまりでした。
逆に王子とイリーナ様は確か平均的に高い成績を納められた結果、学年で1位、2位を争う成績だったかと思います。
しかし魔力行使と魔道具の構造に関しては10位前後で、この領域の知識や技量が足りていないのではないかと心配になってきます……。
そんな私の心配をよそに、荘厳な出発の儀式の中にお花畑空間を形成した王子とイリーナの2人は飛行船に乗り込みました。
これから1か月の時間をかけて魔道具があるヘリオット高原に向かわれます。
後から付き従った護衛騎士に聞いた話では、本来この1か月の時間を利用して"星神の守護結界"の魔道具の構造を頭に叩き込み、点検すべき項目の確認を行い、点検・修理の作業を頭の中で思いめぐらしつつ、状況に応じた対応の想定を置くのですが、あの2人はいちゃついていただけだったそうです。
当然ながら失敗されました。
***
お読みいただきありがとうございます。
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