第21話 協力者

「……」

 

 特に問題はないはずだったが、緊張して立ちすくんでいた。

 目の前には、あのエルフの女性が入っていった娼館があった。

 

「……ふぅ」

 

 この世界では成人してなかったら駄目とかそう言う法律は無い。

 なので、何も問題は無いのだが、やはり緊張してしまう。

 

「……大丈夫。目的は情報収集。要件だけ聞けば……」

「お客さん? 入らないの?」

 

 すると、背後から声をかけられる。

 

「え!? え、ええと……実はこういう所は初めてで……」

 

 振り返り、答える。

 声をかけた女性は長い金髪を持つエルフであった。

 出るとこは出て引っ込む所は引っ込んでいる、さぞかし人気のある女性なのだろう。

 キセルのような物を加えており、貫禄があった。

 この娼館でも相当上の立場の人間なのだと想像がつく。

 

「ふぅん……」

 

 その女性はこちらを品定めするかのように見てくる。

 

「……お金は持ってるの? 坊や?」

「……あ」

 

 持ち合わせはあったが、さほど多くはない。

 これではこの娼館を利用することは到底出来ないであろう。

 

「……持ち合わせが無いので……って違う違う」

 

 軽く咳払いをし、仕切り直す。

 

「実は、少しお尋ねしたい事があって……」

「……娼館は確かに多くの人間が集まる。情報収集のポイントとしては悪くないね。でも、無料で情報を集められると思ったら大間違いだ」

「ぐ……」

 

 正論を言われ、何も言い返せなかった。

 それでも、女性は続けた。

 

「知恵は回るようだが、まだまだ経験不足のようだね? 魔王派の軍師殿? それとも、ザルノールに召喚されし勇者殿、かな?」

「……え?」

 

 女性は少し笑う。

 

「入りな。話くらいなら聞いてやるよ」

 

 

 

「成る程……情報屋、ですか」

「あぁ。この娼館は本当に色んな人間が集まる。それに、最前線だからといって多くの商人がこの街に集うからね。自然と情報は集まるのさ」

 

 キセルを口にくわえ、煙を吐く。

 現在、娼館の個室に案内されていた。

 かなり豪華な部屋で、恐らく、超高額な金を払って入れる部屋だ。

 

「あんたらの事は丁度さっき耳にしてね。下水道を使って王都を脱出した集団あり、ってね。まぁ、その他の情報から推察してカマをかけたんだが、当たりだったね」

「成る程……してやられました」

「ま、今後は気をつけるんだね。恐らくザルノールもあんたらの国外逃亡には気が付いている。魔王討伐軍が道中探しながら進軍してるとさ」

 

 その情報を聞き、気になった事を問う。

 

「……先程、無料で情報を集められると思ったら大間違いだって言ってましたが……」

「あぁ、これは一つ貸しにしておいてあげるよ」

 

 キセルを置き、続ける。

 

「ここの娼館で働いてるのは皆エルフさ。あたしらはね、仲間と一緒に東方へ行くことも許されず、ここで強制的に働かされている。かつての仲間であった魔王軍を殺してきた奴らの相手をさせられている。毎日毎日ね」

 

 その口調は先程とは変わらなかったが、表情には、何処か悲しみや恨みのような一言では表せない何かを感じた。

 

「だから、かつてのあたしらのように魔王に味方して人間と戦おうとしている奴は応援しているのさ。ただ、今回は特例だ。次からは情報量を貰うからね」

「……分かりました。実はまだ知りたい情報もあるんですけど……」

「別料金だ」

 

 笑顔で返される。

 

「……分かりました。手持ちは無いですが、仲間が持ってるので取りに行ってきます」

「あぁ。待ってるよ」

 

 軽く頭を下げ、その場を後にしようとする。

 と、そこで思い出したかのように口を開いた。

 

「あ、そうだ。あたしはカルラ。この娼館の主でね。要件がある場合はこの館の裏路地にいる闇商人のハンザに言いな。そいつはハーフエルフでね。カルラに要件があるって言ったら話を通してくれるよ」

「分かりました。俺は……」

「佐切勘助、だろ?」

 

 カルラは少し笑っていた。

 

「敵いませんね。では、充分な金を持ってハンザさんに声を掛けるとします」

「あぁ、待ってるよ」

 

 そして、今度こそその場を去るのであった。

 

(にしても……甘い香りするな……)

 

 娼館を出るため出口に向かいつつ思う。

 そして、道中、館の中が不思議な香りに包まれていることに気が付く。

 

(何かそういう作用のある香水か何かなのか……)

 

 そして、出口の扉に手をかけ、開く。

 娼館のすぐ目の前には、フィアナとレナがいた。

 二人は、こちらを睨んでいた。

 

「……えーと……」

「……」

 

 二人は何も言わない。

 

「取り敢えず、話を聞いてくれ」

「……変態」

「……ケダモノ」

「ぐはっ……」

 

 フィアナとレナがぼそっと呟く。

 その言葉が俺には一番よく刺さったのだった。

 二人の事は大事にしようと思っていたのに、嫌われたら元も子もない。

 

「おーい、フィアナ、レナ……って遅かったか」

 

 遠くからサナンの声が聞こえていたが、それを気にする余裕は無かった。

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